No.186
No.186
「「「「ウキッウキッー!」」」」
身も蓋もないこと言うんじゃ有りません。
魔術の魔の字も知らない自分が、やっとまともな説明を受けられる機会なんだか。
最も今の今までほっといていた自分も悪いんだけどさ。
「「「「ウキ~キキィ~」」」」
あーもうわかったよ。なんか作ってやれば良いんだろう。
「「「「ウィキィ~!」」」」
ハア、と言う訳でなんか作ってきていいか?
『…………俺、帰って寝てて良いか?』
「質問を質問で返さないでよ!? ちょっと待ってて、直ぐ作ってくるから!?」
ティグリスのやる気がここに来て一気に低下してきた。早くしないと本当に帰りかねない。
ええっと、ええっと、何かないか? 何かないか?
野菜類、米、小麦粉、砂糖、塩、味噌、醤油、牛乳、各種香辛料が少し。見つかった材料はこれだけ。
よし。卵なしのクッキーで行こ。
先ず牛乳を【短縮加工】を使ってバターに変える。時間は……速い、五分掛からないとは。レベルが上がったお陰だな。
バターが出来たらクッキーを作る要領で作成。作成過程は省く。なんたってティグリス奴が寝始めやがった。あのままにしておけばマジ帰りかねない。急がねば。
窯を暖め、一口サイズに作ったクッキーを窯にぶちこんで焼く。焼き上がったら完成! おら! まだ帰ってないよな!?
『…………zzz』
よし! おら! お待たせだ! 話の続きを聞かせろよ!
「「「「ウキウキ?」」」」
お前らはこれでも食って大人しくしていろ!
「「「「ウキッ! キキィウキキ~」」」」
渡したクッキーをいつものように爆食いするピンクサル達。
そしてそんな料理を作った自分に感嘆の声を漏らす二人。
『早いですわね……』
『闇の兄さん程じゃないけど早かったな』
『あれを引き合いに出してはダメですわ。あれはどう見てもおかしいですもの』
新たな奴か? だが今はそれより。おいティグリス起きろ! そして教授してください!
『……あぁ、ああ…………寝てたい……zzz』
話し終わったら寝ていいから! 今だけは今だけは起きて話して!
なんとかティグリスを起こし話の続きを催促すると。
『……何の話してたってけ?』
「精術と霊術。魔術と魔法の違い。あと複合術がどうたら!」
『メンドクセェ……』
本当に面倒臭そうに言うんじゃ有りません。こう言う機会はなかなか無いんだから聞ける時に聞いときたいんだよこっちは!
『ハア……わかったよ。じゃあ精術の話しはしたな』
ああ風水みたいなやつな。でもティグリスの話し方だと大きな力が使えるような感じだけど。自分が教わって使い始めた頃は、ショボい力しか使えなかったが、何でだ? そのお陰でいろんな人に聞いて自分なりに考え、今のような術の扱い方に為ったんだけど。
『それはお前が大きな力になるまで魔力を練らなかったか。力の導きが不完全だったかのどちらかだな』
結構時間を掛けて練り上げたこともあったからーーー
『精術は自分の中で練り上げるならそう難しくない。ただそれを外に出し星力に干渉して発現させるとなると難しくなる。こんな感じにな』
そう言ってティグリスが手を振るとそよ風が吹く。
その力は最初の頃に自分が作った、風船をぶつける様な威力しかなかった光の玉のような気がした。
『こんな感じだったんだろう?』
ああ確かに幾ら練っても一定以上の力が上がらなかった。そんな折りにかなエヴァと会って、エヴァが口にしていた呪文みたいなのを唱えていたから。それが正しいのかなって。
『そこが始まりかよ……』
手で顔を覆い、チラリとエヴァ見ると。『私のせいじゃ有りませんわよ!?』と否定するエヴァ。
『精術は力の練りに時間が掛かる上、その力を上手く導いてやらないと無駄が出る。だけど上手く導いてやればこう言う風になる』
同じように手を振ると今度はそよ風ではなく。つむじ風の様に風が川で逆巻き。川の中にいた魚を風で押し上げた。
「にゃーん❤」
「ウキウキ? ウキキ~!」
こちらに落ちてきた魚をトラさんが飛びかかるように押さえ込み。それを見たピンクサル達が魚を仕留め。焼き魚の準備を始めた。
『手際いいですわね、あの子達……』
『ウキキ、手練れの戦士のような動きだよな』
『……とまあ簡単な説明するとこんな感じだ』
周りの事など気にしないように、何て事の無いように言うティグリス。
それって自分にも出来るのか?
『お前に目に見えない、星力への道を見つけることが出来れば簡単だ』
どうすればいいんだよそれ?
『こればかりは教えて出来るものじゃない。自分の才覚になるな。だから出来ない奴は自分の体に精力、ああ面倒臭いな、魔力が通る道を作り。肉体の強化を施す奴が多い』
無理して魔力って言わなくてもいいぞ。でも肉体強化か。自分もランボの強化術を見て真似してるけど。トウカの様に力強く為らんのだけど。これは何でだ?
『変えなくていいなら助かるが、お前どんなやり方してるんだ?』
そう言うんで、自分がいつもやってるやり方を見せた。
『……馬鹿過ぎる。練りは為っているのに、道作りがまるで為ってない。独学にもほどがある』
呆れられ罵倒された。
仕方ないじゃないか。教えてくれた奴がピンクサル達やランボだけだったんだから。
『お前がやってるやり方は、体の中を通る血流の道に精力を通してやってるやり方だろう。それじゃあ血流を通っている血に逆らっていることになる』
逆らわずに血の流れに沿ってやってるけど?
『違う。そう言うことじゃない。血流の道には既に血が流れているんだ。そこに精力を流しても先にある血に精力が押し流されるんだ』
ティグリスはだから無駄があり。体から不必要に漏れた魔力が無闇矢鱈と体を輝かせて、凄そうに見えているだけだそうだ。
でもランボやトウカ達も光ってるけど、言ったら。
『嬢ちゃん、トウカと言ったか。お前の出来る範囲内で構わないからこいつに見せてやってくれ』
「はーい先生!」
不意に呼ばれたトウカはティグリスに対して先生と呼ぶが、ティグリスは苦笑なんだか照れなんだか。
『先生何て呼ぶなよ、大したことしてないんだから……』
そんな風に呟いていた。
トウカはいつもやっているのだろう。魔力を練り上げると黒髪が朱色へと変わり。髪から朱色の光が溢れ落ちるように煌めいていた。
炎髪〇眼? 改めてみると綺麗だな。
『感想の仕方が可笑しいが、嬢ちゃんの髪から星力の力を持った精力が溢れ落ちるようになってるだろ。あれは嬢ちゃんの作った道から精力の量が多すぎて溢れているからああなるんだ』
似てねえ自分のと。
『どこがだ! お前のはキンキンキラキラと為っていただろうが! ハッタリかますのならともかく。あんなのは術を使うのなら効率が悪すぎる』
じゃあどうすりゃあいいのよ。
『…………ハア、練るところまでやってみろ。そこから精力を無理矢理流そうとはせず。精力が流れる道を理解して道を広げるなり、別の場所に誘導するように道を作るんだよ。とりあえず今は流れる道だけを理解しろ。ああそれと嬢ちゃんもう良いぞ。俺が言ったことを良く守れ鍛練したようだな』
トウカはティグリスに誉められ嬉しそうにしていた。
それからティグリスは『あとはそれを外に漏れ出さないようにしてみろ』と、何やらアドバイスをしていた。
後追いのトウカに負けるのは何となく癪なので、自分も頑張ってやることにした。
『頑張らないで目を閉じて、気を楽にしてやれよ』
とりあえず言われた通り魔力を練るところまでやり。そのまま身を任すようにしていろと言われたのでしていると。魔力が背中を通り頭へ行き。頭から肩、手、足と行き。また背にと流れていくような感じがした。
『わかるか。それが精力が流れる道、通称『精道』だ。そのままお前が始めから持つ精道に沿うように精力を流し練り上げろ』
言われた通りにしているといつもとは違い。体の中から活力が沸き上がるような感覚がしてくる。
『……もう良いだろ、目を開けてみろ』
そう言われ目を開けると。先程の自分が発光しているのではないかと思われていた状況から。トウカと同じように光が溢れ落ちるように体から溢れ出していた。
「おおぉ…………出来てる、これで良いんだよな?」
ティグリスに確認するが、当のティグリスは何となく不服そうな顔でこちらを見ている。
何まだ違うの?
『……いいやそれでいい。ったくその状態になるのに普通の奴でも数週間から数ヵ月掛かるんだぞ。それを一瞬でやりやがって……』
『この子の渡界者としての不思議な力のせいですわね』
『努力って何? 苦労って何? って感じだよな。ウキキッ』
いやいやいや、ティグリスに教えて貰ったから出来たのであって。自分じゃトウカに聞いてもこうして出来かどうかわからなかったぞ。
『お前なら嬢ちゃんに聞いても出来ただろうよ。ただそれを今までしなかったからそうならなかっただけだ』
確かに聞かなかったな。ティータの件が終わって安静にしてろとトウカに言われ安静にして。動けるようになったらブタくんの訓練に付き合ってたもんな。あれ? 自分のんびりと異世界生活送りたいのに何でこんなにイベント続きなんだ?
『知らねえよそんなの。だがまあそれがあらゆる術の基礎となる精力のやり方だ』
これで自分も大きな術が使えるのようになるのか?
『お前が星力に干渉できればな。ただ精術はでかい術が個人でも起こせる反面。それを起こすまでに時間がやたらと掛かる。まあそれを補うために集団で行ったり、儀式的な行為をして早めたりするだかな』
それってブタくんが行っていた神楽舞いとかか?
『良く知ってるなそれ、巫術の技だろう。成り手が居ないとあいつがぼやいていたけど、今の時代でも残っていたんだな』
かなり昔から有ると聞いてたけどお前ら何時の人間だよ。
しかしティグリスは自分の質問に答えず話を進めた。
『あれはこの後話してやる霊術にも関わってくる術だが。あれは音楽や踊りで精霊に呼び掛け力を行使する術だ。集団で行ったりすると上級精霊を呼び出せたりするな。個人じゃ中級精霊が良いところだろうな。あれは俺も専門じゃないからこれ以上は知らん』
聞かれたくないから話を進めたといった感じがしたので、自分もそれ以上聞かなかった。




