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No.180





 No.180




 「……まだ痛む……」


 痛む肩を回し痛みを取ろうとする。

 そんな自分にトウカは。


 「むぅトウイチロウが悪いんだよ! また腕無くしちゃうような事するんだから!」


 一応前の時とは違い、全力で撃とうとはしなかったよ。せいぜい半分、いや三分の一かな。それぐらいの威力に止めたし。問題は無かった筈……ですよ?

 最後はメェメェの様な語尾で誤魔化そうとしたが、トウカは一切信じる気がなくむくれたままだった。


 「ウモ(おはよ)ウモゥー?(どうかしたのか)


 トウカのお迎えに来たランボが、いつもと違う様子に気がつき聞いてきた。


 「おはようございます。いえ大したことでは」

 「大したことだよ! ねえ聞いて牛若先生。トウイチロウたらね、また無茶しようとしたんだよ!」


 あ、こらトウカ何言おうとしてるんだ!?

 そんなトウカの告げ口にランボは軽くため息を吐き。仕方がないなと言った感じに、自分を諌めた。


 「ウモ(あまり)ウモ(彼女を)ウモッ(心配)ウモー(させるなよ)


 そう言ってトウカの方に向き直り、朝の訓練に行くぞと手招きをする。

 トウカは渋々と言った感じに返事をしてから、トウカは朝の訓練へと出掛けていった。


 「…………トウカさん(彼女)怒っていたようでしたけど、何かされたんですか?」


 自分達の事を遠くで見ていたブタくん寄って聞いてくる。

 ブタくんは神楽舞いに集中して分からなかったのだろう。先程自分が何をしていたか教え、またブタくんと共に考えた新しい舞いなのかなあれ? 舞う前にやったポージングなんだけど。あんなんで精霊が来やすくなるんだものな。まあただ単に物珍しさで来ただけかもしれないが、一応それらの成果も教えることにした。


 「いやいやいやなにしてるんですか!? そんな腕無くすようなことしたら、そりゃあトウカさんも怒りますよ!」


 ブタくんは己がした成果より、自分がやったことの方を驚いていた。

 おかしいな? ちゃんと説明してるんだけどな。何が悪いんだろう?


 「ウキ(役目)ウキ(終了)ウキキィー!(腹へったぞー)


 遠くに離れていたピンクサル達が帰って来て開口一番に食事の催促をする。

 お前らもうちょっと待て。今日はお客さんが来るからな。いつもより余分に作ってるからもう少し掛かる。


 「ウキー(おー)ウッキッー(それは余計に)ウィキィー(食えるって)ウキキッー!?(ことか)


 違うに決まっているだろうが! わざわざ聖地(ここ)に来るんだ。おもてなしぐらいはするのは当たり前だろう。

 そう言う風に言うとピンクサル達は自分達の食う分が減ると文句を言うが、分けて作るから安心しろと言っといた。

 それよりきちんとブタくんの成果を誉めてやらねば。この十三日の訓練の成果が実を結んだのだから。

 まあ、そのお陰でブタくんの姿はここに来たときとは、見る影もなくなってしまったけど。


 「そう、ですか? 自分では体が軽くなったなぐらいにしか感じないんですが?」


 いや頭身すら変わって要るのに体が軽くって……。

 はっきり言って今のブタくんは別人だよ。ビフォーアフター処じゃないよ!? 魔改造した自分が言うのもなんだけどさあ。

 今のブタくんの姿は初めてあったオークの姿から、筋肉ムキムキなマッチョダンディー♪ な姿に大変身してるんだよ。顔すら変わってイケメン面。この辺は自分嫉妬すらしますよ。あのハルシオン(エロ猿)とは違った種別に為るけどイケメン。何やら殺意が湧いてきます。

 くっ……人の事は気にしない自分は自分だ!


 「……でもそっか……ぼくやりきれたんですね」


 ブタくんは自分の中で何か実感出来るものが在るのだろう。拳を握りしめ、少し涙ぐんでいた。

 この辺は変わらないな。見た目が変わって性格が前向きに為ってきたからと言っても、ブタくんが持つ生来の性格は変わらないのかもしれないな。


 「ーーーーーーい!」


 ん? 何処から声が?


 「ーーーーおぉーい! 無事かぁー!」


 声の出所を探せば、東の方から駆けてくる一団がいた。

 もしかしてあれは……。


 「あっ! みんなです! 猛き獣の牙のみんなんです! みんなぁー! こっちでーす!」


 手を振り、大きな声で応えるブタくん。しかし。


 「隣の猿の獣頭人族(ワイルド・ヘッド)の彼がトウイチロウだ!」

 「おしっわかった! もう一人の奴が、さっきの術を放った奴だな! 取り押さえるぞ!」


 ダチョウのような鳥? かな、あれは。見た目がチョ〇ボだな。

 因みに後で聞いたらあれも魔獣で名前を走鳥(ランド)って言うらしい。

 とまあ、そんなのに乗ってきたオルテガさんと。それに追随するように付いてきた黒豹の人。そしてその黒豹の人のにさらに後ろに追随してくる人達。

 その人達が黒豹の人の合図で加速し、一斉にブタくんへと向かう。


 「みなさんお久しぶりでーーーッ!? ちょっ、何するですか!? コルウェルさん!?」


 向かってきた黒豹の人達は鳥を巧みに扱い。ロープでブタくんをす巻きのようにぐるぐる巻きにする。。

 す巻きにされ転がされるブタくん。それを見た黒豹の人は「術士だ、何をしてくるか分からないから警戒を怠るな」と追随して来た人達に言う。

 そしてこちらに黒豹の人が来て。


 「すまない遅れて。来る途中に大きな光と爆音らしき音が聞こえて、目的地の場所で戦闘中と思い駆けつけた」


 戦闘中? ああさっきまでやっていたブタくんの最終訓練のことか。何も知らない人が遠くから見たらそうなるか。とりあえずそこでじたばたと暴れているブタくんの解放を急ぐか。

 そんな事を思い言おうとした矢先に、黒豹の人から先にブタくんの話が出てきた。


 「ところで、うちのヒビリーが居ると思うんだが何処に?」


 辺りを見回しても居ないから不信に思っているんだろう。自分は無言のまます巻きにされたブタくんを指差す。


 「え!? いや俺が言ってるのはもっとコロンとした奴で、こんなどっかの戦士のような奴じゃなく」

 「だ、だからぼくがその、ヒビリーで合ってますよコルウェルさん!」


 ブタくんはす巻き状態から何とか声が出せるようになり自分がその本人であると説明する。


 「えっ!? いや、だってな、どう見ても……」

 「少し見た目変わりましたけど本人です! なんならここに来る前にコルウェルさんがぼくからお金を借りた額を言いましょうか? それともそのお金を何に使ったのかの方が良いですか? 確かあれはぼくを無理矢理色町に連れていって「よし! お前が本物のヒビリーとわかった。だから黙ろうな! な!」


 何やら当人同士にしか分からないやり取りがあったようだ。

 とりあえずブタくんがブタくんだと分かったようなのでよかった。なかにはまだ半信半疑の人も居るようだが。


 「へえーその話し、後でアタシに聞かせて貰いたいねぇ」

 「トウイチロウ大丈夫だったか?」


 そんなやり取りの中、獅子を思わせる姿をした女性とオルテガさんがやって来た。


 「オルテガさんお久しぶりです。何やら自分がしていたことで勘違いさせたようで」


 謝罪はしておこう。

 チラリと女性の方を見ると、女性は黒豹の人をぶっ飛ばしていた。


 「未成年を何処に連れてってるんだい、このバカが!」


 おうバイオレンス!? 一、二メートルとは言え人が真横に飛びましたよ!? すげぇ膂力!? 女性の腕力とは? あれ? あの人少しだけ強化術を使ってるのか。

 見ると女性の腕にはうっすらと銀色の光が見えた。

 それから女性はこちらに向き、頭を下げ。


 「うちの者が騒がせて申し訳なかった。それとあの子を、ヒビリーを鍛えてくれたみたいだね、ありがとう」

 「謝罪は不要です。こちらにも落ち度はありましたから。彼の鍛えは彼からの頼みでしたから。だから自分に礼ではなく、きつい訓練をやり遂げた彼に、ヒビリーに労いの言葉を掛けてあげてください」


 自分の言葉に驚きの言葉を見せる女性は「確かにそうだね」と言って、ブタくんの方へと向かい。その体に巻き付いたロープを解くきながら。


 「よく頑張ったね。アンタはアタシが下した命令以外でも自分を鍛えようと頑張ったんだね。偉いよ。それでこそアタシの傭兵団にいる者だよ」


 女性は威厳と力強さに満ちていた態度から、子を誉める母のように慈愛に満ちた声で、ブタくんを誉めるのだった。


 「……だ、団長、レライエ団長。ぼ、ぼくは、ぼくは、ぶひぃ、ぶひぃぃいいい!!」


 誰かに自分のしたことが初めて実を結んだことで、感極まったかもしれない。

 ここに来て悔しい涙を流しながら、自分を変えたいと頼んできた時の涙とは違い。

 自分の思いが。誰かの役に立つと言う願いが。例え誰からも称賛されなくて良いと思っていてたとしても、誰かに認められる誉められる。それが嬉しくて笑顔で涙を流すブタくんがそこにいた。


 「な、何泣いてんだい!? ああ見た目(図体でかく)変わっても、その辺は変わってないねぇ、ヒビリーは」


 女性は、いや団長さんは、少しだけ嬉しそうにそんなことを言っていた。























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