No.179
No.179
聖地の朝は早い。
陽光の光が聖地を照らす頃には動き出す者がいる。
そんな朝早い聖地の草原に、鋼のように鍛え上げた男が、何かをなそうとしていた。
男は瞳を瞑り、天に祈るようにしている。
その祈りが終わると男は軽く息を吐き。自然体をとる。
ガサガサガサガサ
男の回りを取り囲むように草むらを何かが動き回る。
しかし男はまるで気にしているようすもなく。自然体から両腕を折り曲げるようしてから胸を強調の姿勢をとる。
「「「「ウキッーーー!!」」」」
草むらから勢い良く飛び出てくるピンク色をした獣達。その手には様々な武器が握られており。その武器を男へと振り下ろす。
凶悪な武器が男へと振り下ろされるが、その鋼の如き男には効かないとばかりに、全て弾き返す。
そして男はそんなピンク色のサル達の行動に意に介さず。上げていた腕を動かし胸の前に持って行きさらに胸を強調する姿勢をとる。
「「「「ウ、ウキィ……!?」」」」
ピンク色のサル達は男に自分達の攻撃がまるで通じていない事に恐れ戦く。
しかし自分達が受けた命は時間を稼ぎ。
自分達の使命は時間まで男を攻撃し続けること。
この際多少のダメージを与えられれば良いんだとばかりに、人体の急所を不必要なまでに狙い当て続けるが、男には効果がなかった。
男は姿勢が幾つも変わり。いつしか始めの自然体へと戻っていた。
そしてこれまで閉じていた瞳をゆっくりと開け、自らの腰に付けてある太鼓をひと叩きする。
ダン!
空気が鳴動するようなそのひと叩きだけで、男の周りに数々の、色とりどりの光が集まりだす。
「ウッキッー!」
そんな中、一匹のピンク色のサルが上空を指差す。
そこに夜空に浮かぶ輝く星々の様に、超常な力によって作られた、光の粒が煌めいていた。
「ウキッーーー!!」
時間だ退避しろと言うように、ピンク色のサル達は一斉に男から遠ざかる。
男はこれすら気にする様子もなく。自らのやるべき事をこなすのだった。
それ即ち。
ダンダダダッダ! ダンダダンダ! ダンダダダッダ!
太鼓を叩く事のみ。
そして叩き始めると同時に、天空に浮かんでいた小さな星々が降り注ぐ。
その量は豪雨の様に男に降り注いだ。
「ウキィー!」
ピンク色のサルは「やった!」と、言った感じに喜ぶが。降りしきる星の雨の中からは男の叩く太鼓の音は途絶えることはなかった。いやむしろその音はさらに激しく鳴る。
そして雨の中からは少しずつ、少しずつでは有るが戦場に響く、鬨の声の様なものが聞こえてくる。
『ーーーーーぅぅぅうううおおおおおおお!!』
その声は次第に大きくなり、やがて。
『はぁぁああああああああああああ!!』
星の雨より、声のみで星の雨を消し飛ばす。裂帛の気合いを張り上げたのだった。
星の雨を消し飛ばし。その中からは無傷の男と。その男を守るように古代の武将の様な姿をした、鉛色の髪を持つ益荒男が立っていた。
『かはぁぁああああーーーッ!? だああぁああ!!』
益荒男は深く息を吐くが。その途中で男に迫り来る、五つの不可思議の光の弾に気付き。それを自らが持つ戟で叩き斬り落とうとするが。不可思議な光の弾は戟を避けるように飛び。男へ迫ろうとしていた。
益荒男は戟を地面に突き立てると。大地より男を守るように数々の戟が突き出て、不可思議の光の弾を弾き防ぐ。
防ぎきると戟を地面から抜き。不可思議の光の弾を撃ち放った者を見据える。
見据えた先には左腕を水平に構える男が一人。腕を益荒男の方へ向ける。
向けた腕からは五つの光の弾が生み出され。それの場で高速回転をし始め次第に輪となり。最後には凝縮してひとつの球となる。
「光り放つーーー」
サッカーボール程の大きさになった球を撃ち出す事はせずに。自然に落ちるように球は地面へと向かう。
その落ちて行く球に合わせるように足を振り上げ。
「光輝の鏃!」
落ちてきた球を足で蹴り放つと、地を這うように益荒男に飛んでいく光の球。
何の変哲もない光の球だが、益男荒は油断なく光の球を迎え撃つ。
光の球が益荒男の直前に来ると、戟を振り上げ光の球を潰そうとするが。光の球は戟が当たる瞬間、三十もの鏃へと変化し、さらに加速する。
益荒男は戟を操り鏃を叩き落とすが、幾つもの鏃が男へと向かう。
『ぐっ!? がぁああああ!』
益荒男はその体躯からは考えられないような速度で男を庇うように立ち。
取りこぼして飛んできた鏃を、その体で全て受けきるのだった。
「……これも防ぎきるか。新技だったんだけどな、結構ガックリ来るぞ」
益荒男は男の方へと向き直る。
そして着けていた鎧は、鏃を受けて壊れるように光の粒となり消えていく。
しかし益荒男は消え行く光を、飴細工をするように自らの戟に絡ませるように振るう。
すると振るい終わった戟はその姿を変え。まるで竜の顎の様な形へと変わっていた。
益荒男は今まで構えすら取らなかったのに、男に対し好敵手と捉えたのか。初めて構えらしい構えを取り迎え撃とうとする。
「……あちらは本気か。なら、こちらも応えない訳にはいかないな……」
男は左腕を天に掲げるように構える。
そして力有る言葉を紡ぐ。
「『暗雲広がる我らが道は高く険しく。行く先を阻む敵は、なお勇ましく強く。されど我らが掲げる剣の光は、勝利へと続く道標となる。それ故、我らか歩まんとするその意思あるかぎり。その光もまた、我らを照らし続けよう。さあ、共に行こう! その光照らす道先へーーー』」
掲げた左腕は光輝く剣と化す。
「『輝き照らせーーー』」
最後の言葉を告げようとしたとき背後より迫る者があった。
「だぁぁあめぇぇぇえええええ!! トウイチロウぅウウウ!!」
四肢を朱色に輝く光を纏い爆走してくるトウカ。
トウカは止まること無く、統一郎に体当たりするように押し倒すと、左腕を掴み取り。
「ダメ! トウイチロウ、これお姉さまが言ってた腕無くなっちうやつでしょう! 使っちゃダメ!」
「いたたたたたた!? トウカ!? 捻ってる! 捻ってるから腕!」
じたばたともがく統一郎。統一郎の言葉が聞こえていないのかトウカは統一郎の腕を離すこと無くさらに締め上げる。
「あったたたたた!? とれる!? 左腕も取れちゃうよトウカさぁぁん!?」
『……………………』
緊張した赴きから一変した。
益荒男は最早戦いはないと戟を振るい、元の戟の姿に戻し。その姿を消していく。
そして筋肉の太鼓の演奏も終演を迎えるのだった。
「…………ふぅ、や、やりきりました。やりきりましたよトウイチロウ………………さん? えっと何があったんですかこれは?」
演奏をし終えたヒビリーはそこで繰り広げられている混沌な展開に着いていけなかった。
「ウキウキウィキィー」
ヒビリーの話はここが書きたくて始めました。
二、三話で終わる予定だったのになぜここまで長くなった?




