No.172
No.172
ガラゴロガラゴロ
荷車が行き交えるぐらいの広さの道をゆっくりと進んでいく。
周りの人達は気楽そうに、欠伸をしたり談笑しながら追随してくる。
そんな中ぼくは辺りをキョロキョロ見回してはそわそわとしていた。
『落ち着けよ、ヒビリー』
コルウェルさんが落ち着きのないぼくにそう言ってくれるが、ぼくとしては落ち着きようがない。
『た、だだだって、と、盗賊がで出て来るって……!』
『心配すnーー普通は盗賊と聞いて慌てるのか』
『そうですよ~~!』
なんで団員の人達はこんなに落ち着いていられるんだろう?
『荷運びの仕事をしてると、何回かに一回は出てくるからな、奴等』
でで、出来るって、そんな虫みたいに!?
『盗賊だって好きでやってる訳じゃないんだろうけど。大体は騎士団に要られなくなったり。傭兵団を起こしても上手くいかなくて落ちぶれた奴らが多くてな。そんでなんかしらの理由で国に帰ることも出来ず、仕方なく盗賊なんかやってる奴らばっかさ』
『最初から盗賊の奴らは居ないと思うぜ』とコルウェルさんが語る。
ううっ、そう聞くと盗賊の方も可哀想な気にーーー
『ああだからと言って同情するなよ。もっと他の道だってある筈なのに、安易に盗賊なんて道を選んだバカな奴らなんだ。そんな奴らに同情するだけ無駄さ』
何より相手は奪い取るために、こちらの命を奪う覚悟て来ている場合が多い。そんな人達に同情してたら自分達の命が危ないとコルウェルさんは言う。
ぼくはどうしてたらいいんですか!?
『う~んそうだな。何か有ったら精霊を呼び出して貰って、俺達の援護をしてくれればありがたい。ああやるならそこの荷箱の影に隠れててやってくれよ。出てくると危ないからな』
ぼくが座っている荷車のを指差し、気楽にして座ってやってくれと言うコルウェルさん。
盗賊なんて来たら気楽に座って要られませんよ~~!
そんな話をしながら進んでいると、いつの間にか森全体が静まり返ったような雰囲気に包まれた。
『…………コルウェルさん』
『ヒビリー荷箱の影に隠れてろ。盗賊は俺達を襲う気だ』
ぼくが場の異様さにコルウェルさんに訪ねると、真剣な表情で返してきた。ぼくは言われた通りに荷箱の影に隠れた。
そしてぼくが隠れて間を置かず。森全体から雄叫びの声が上がる。
ーーーうおぉぉおおおおおおおおお!!!!ーーー
声が上がると荷車の近くに数本の矢が放たれた。
そして無精髭を生やし。頭に王角と呼ばれる、特殊な角を持つ魔人族の大男が木の上から降り立った。
『ここは通行止めだぜ。通りたかったら金か荷箱を置いていきな』
現れた大男は自らが持つ、ナイフを大きくしたような蛮刀を肩掛け、道を塞ぐよう立つ。
『しからなかったねぇ。ここの街道はいつから通行料を取るようになったんだい』
そんな大男に団長さんがさも世間話でもするかのように話し出す。
そして話が進むにつれ大男は愉快そうに笑い、持っていた蛮刀を突きだし。
『どうやら命より荷箱の方が大事のようだなーーー』
周りの雰囲気も刺すような空気に変わると。
『ーーーなら奪って取るまでだ! やれー!!』
『上等だ! アンタ達、返り討ちにしてやんな!!』
互いの声が終わるや否や。森に怒号と斬撃の音が鳴り響く。
『死ねやぁぁあああ!!』
『お前がな』
盗賊の一人がコルウェルさんを襲ったのだろう。奇声ともとれる叫び声をコルウェルさんは冷静な声で迎えていた。
数分、数十分。長い時間に感じられた戦場に今までとは違った一方的な悲鳴が聞こえてきた。
『ぃがぁああ!?』
『うぁああああ!?』
『どうした!? 何があった!?』
コルウェルさんが周りへと声を掛ける。周りの人達は慌てながらコルウェルさんの言葉に。
『術士だ! 奴等の中に術士がいやがる!!』
『何だとう!? クソッ! それで奴ら意気揚々と出てきやがったのか!!』
盗賊の方に優勢が傾いてきたのだろうか。こちらの傭兵団の叫び声が少しずつ増えてきていた。
そんな中ぼくは何も出来ず震え、荷箱の影に踞るように隠れていたが。
ガタン!
『へへっようやく到着…………おんやぁこんな所でなにかくれんぼしてるんだ、ボクぅううーーーうがぁ!?』
『ぶひぃぃいいい!?』
上の方で音がして見上げると。体を血に染まらせ目をギラ付かせた細身の男がいたが。その男の後ろを黒い風が通りすぎると、男の首はポトリと落ち。男の体はよたつきながら後ろへと倒れていった。
『ヒビリー大丈夫か!』
再び上から声がかけられる。見上げれはそこにいたのは今居た男と同じように体を血に染めたコルウェルさんだった。
『ーーーぶひぃ!?』
ぼくはその姿に恐れ涙を流し震えた。
しかしそんなぼくにコルウェルさんは申し訳なさそうに。
『すまん…………もう少しで怖い思いは終わらせる。だからもうちょっとだけ我慢しててくれ』
それだけ言うとコルウェルさんはその場から離れていった。
離れていくときコルウェルさんの悲しそうな顔がぼくにはやけに心に残った。
トトン…………
『ぶひぃ!?』
自分の近くで物音がして悲鳴を上げる。
そしてその音の方へ顔を向けると。
『…………太鼓…………』
いつの間にか自分の手から離れて床に転がっていた太鼓を、じっと見つめるぼくがいた。
『…………………………ぼくは何のためにここにいる』
自分が怖い思いをしてまで戦場に要るのは何のため。
誰かの役に立ちたいからじゃなかったのか。
誰かを守りたいと思ったからじゃないからなのか。
今自分は何をしている。もう後押ししてくれる店主さんはいないんだぞ。
ここから先は自分で進まなきゃダメなんだ。
ここで願った事が出来ないなら、ぼくは二度と望む事をしちゃいけないんだ!