No.170
No.170
休憩茶屋を出てから、コルウェルさんに連れられ案内されたのは空き地だった。
『ここだ。今次の依頼の準備で、この場所を借りてる』
傭兵団の角竜だろうか、何頭かいる。その角竜が引くのであろう荷車が数台あり。その荷台車に世話しなく何かを確認しながら動き回る傭兵団員の人達がいた。
コルウェルさんはこれから団長に話を通すが、入団出来るからはぼく自身に掛かっていると言った。
それからコルウェルさんは団員を見守っている獅子の姿を思わせる獣人族の女性に近寄っていき。
『すいません団長。遅くなりました』
そう言って頭を下げるコルウェルさんに、団長と呼ばれた女性はコルウェルさんを睨むと。
『遅い! アンタは使いもまともに出来ないのかい!』
吠えるようにコルウェルさんを一喝する。
『申し訳ありません。途中で野暮用が出来まして』
そう言ってコルウェルさんはぼくを手招きして呼び寄せる。
呼び寄せたぼくを団長さんは怪訝そうに見る。
『団長、こいつの名はヒビリー。入団希望者です』
そう紹介するコルウェルさんをじろりと睨み付ける団長さん。
しかしコルウェルさんはそれに意に介さずそのままぼくを紹介し続ける。
『ヒビリーは術士としての才があり。低級精霊を数体呼び出せる腕を持ってます』
コルウェルさんがそう言うと団長さんの眉毛がピクリと上がり。また他にも聞いていた団員達から驚きの声が上がった。
(コルウェルさんも驚いていたけど、低級精霊で驚くことかな?)
『それは本当かい?』
『はい。ここへ来る前に俺が直に確認しています』
これから団長さんに入団の話を通すのは簡単だけど。ぼくがきちんと実力があるかどうかを確認にしたいと。休憩茶屋を出てからコルウェルさんが精霊を呼んで欲しいと頼まれた。
ぼくは了解していつも持っている太鼓を使い、精霊が呼び応えてくれるように叩いた。
幸い精霊達はぼくの呼び掛けに応えてくれ現れてくれた。
その際コルウェルさんのぼくと精霊を見る顔が、なんとも間抜けな顔をしていたのが印象的だった。
『へえ、それが本当なら喉から手が出るほど欲しい人材だねぇ』
団長さんは嬉しそうにそう言うと。何故かコルウェルさんは『すまん、ヒビリー。マズッた』とぼくに謝ってくる。
ぼくは好印象じゃないのかと疑問を掛けようとしたが、それより早く団長さんの怒鳴り散らす声が辺りに響いた。
『アンタは馬鹿かい! 幾ら術士が欲しいからって子供を連れてくる奴が何処に居るんだい!』
そんな事を他の傭兵団に知られたらいい笑い者だと言い、コルウェルさんの頭を殴る。
それからぼくの方を見てまるで愛想がない声で。
『コルウェルに唆されたか。傭兵に変な憧れを持っているのか知らないけど。傭兵は命のやり取りもある仕事だ。そんな所に子供のアンタが来て良い場所じゃないのさ。分かったならとっとと家に帰りな坊や』
手で追い払うようにすると団員達の方に振り返り。
『ほらアンタ達! 手が止まってるよ、働きな!』
そう声を掛けると、こちらを黙って見ていた団員達は再び動き出す。
だけどぼくは団長さんに強く入団させて欲しいと願った。
『しつこいね。うちの傭兵団はアタシが作った傭兵団だ』
それ故に自分が駄目だと言えば、否が是と為る事はないと、逆に強く言い放たれた。
それでも挫けず頼み込むと。
『傭兵って言うのは命のやり取りもするって言ったよね』
と、団長さんはニヤリと笑うと。大きく息を吸い込み息を止め。何かを溜める様なそぶりを見せる。
頭の痛みから回復したコルウェルさんが団長さんの動きを見て『ヒビリー今すぐ耳を塞げ!』と、大きな声を出したが。ぼくがその言葉を理解する前に団長さんの口から雄叫びの声が放たれたのだ。
『ーーーーーー!!』
雄叫びを聞いたぼくは、体の底から沸き上がってくる言い知れぬ恐怖を感じた。
『ウウァァアァアアア!?』
その余りにもな恐怖に体は震え、立つことさえままならなくなり。地べたへと倒れ込んだ。
コルウェルさんが慌てて駆け寄り何かを言っているが聞き取ることが出来ず。震え涙を流し恐怖に怯えていた。
ーーーなにが、おきたの? ぼくがいったい、なんでこんなこわいおもいをしなくtーーー
『ーーーッ!』
そこまで考えが至った時に、ぼくは奥歯を噛み締め。無理やりその恐怖を押さえ込み、コルウェルさんを支えにしてだけどなんとか立ち上がる。
『…………アタシの『咆哮』を食らって立ち上がるだけの根性を出すかい。その点はうちの根性なしの団員達達より有望だねぇ』
団長さんは『だけどねぇ』と言うと同時に、ぼくの顔に何か固いものが飛んできて。支えていてくれたコルウェルさんごとぼくは吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたぼくは団長さんの方をなんとか見ると、団長さんは拳を突き出していた姿をしていた。
えっ!? まさか殴られたの!? でもぼくと団長さんの距離は殴られる距離なんかじゃ!?
疑問に感じるも立ち上がり。団長さんに入団のお願いをしようとするが、体が言うことを聞かず。直ぐ様倒れてしまう。
『立とうとしても無駄だよ。今度は頭を揺らしたんだ。これをやられると大の男でもしばらくは立つことは出来ないんだよ』
『知ってるかい?』と声を掛ける団長さん。
ぼくは何度も立ち上がろうとするけど、団長さんが言う通りに無理だった。
『これでわかったろう。傭兵って言うのは痛い思いもーーー』
『…………ます』
体が動かないなら。
『何だって?』
『……お願い、します…………ぼくを傭兵団に……入れてください……』
顔がじんじんと痛む。自分の中でこんな思いをしなくてもと言う気持ちが沸き上がってくる。
それでも声に出す。
『お願いします……ぼくを貴女の傭兵団に、入れてください!』
ぼくは自分の持てる精一杯の気迫で団長さんに言う。
『…………なんでそこまでして傭兵団に入りたいんだい?』
団長さんはさっきまでの面倒臭い相手をしていたと言った雰囲気が無くなり。今、真剣にぼくと向き合ってくれてる感じがした。
だからぼくは今言える、その思いを口にする。
『ぼ、ぼくは、ぼくはこんな自分を変えたいんです! でもここに居ちゃそれが出来ない! お願いです! ぼくを貴女の傭兵団に入れてください!』
多少いつものどもり癖が出たけど、団長さんにぼくの願いを言った。
団長さんはしばらく黙り込み。ぼくをもう一度だけ見てから。
『コルウェル! アンタが拾ってきたんだ、アンタが世話をしな! いいね!』
その言葉に見守っていた団員達も歓声を上げ。コルウェルさんがぼくに駆け寄り『認められたぞヒビリー! お前すげぇな!』と、まるで我が事のように喜んでくれた。
そんなみんながぼくを歓迎してくれる中、当のぼくは。
(入団するだけでこんなに大変なんて。ぼくはこの先、自分の願いを叶えられるのかな? ううんそうじゃない。店主さんとも約束したんだ。叶えられる自分に絶対になるんだ!)
『アンタ達何をばか騒ぎをしてるんだい! 次の仕事があるんだ、とっとと準備を急ぎな! それとそこで寝ている新人! 団員達に聞いてアンタも働きな!』
『ぶひぃ!? あれ!? 立てない!?』
団長さんに言われ立とうとしたけど、まだふらふらして立てないでいると。コルウェルさんがぼくを支えてくれ。
そして。
『これからよろしくだ、ヒビリー』
『あ、はい、コルウェルさん!』
そう言って差し出した手をぼくは握り返した。




