No.169
No.169
お兄さんが後は自分に任せてくれと、ぼくが出来ることをしなと、店主さんの家から送り出してくれた。
ぼくはその足で、教えられた傭兵団の方達が居る場所まで全力で走って行く。
『ぶひぃ、ぶひぃ、ぶひぃ、ぶひぃ』
もちろん全力疾走して着く場所に在るわけもなく。息切れ切れ、汗だくだく、足フラフラの状態でなんとか目的地についた。
『こ、こ、ここに…………ぶひぃ、ぶひぃ……よ、傭兵団の、ぶひぃ、ぶひぃ、人達が……』
町の外から来る人達のための宿場街。
なので行き交う人達は、市原で行き交っていた町の住人とはまた違った人々が行き来していた。
『ぶひぃっ!? ひ、ひとが……』
市場である程度知らない人達との交流をして来て、慣れはしてきたものだが、ここはそのなんと言うか。
『こ、こわそうな人ばかり……で、でも、店主さんとの最後の約束…………うん! ……あ、あのぅ……』
亡くなった(ヒビリーの中ではそう思っています)店主との約束を守ろうと。なるべく優しそうな人を選び、探す傭兵団の人達の居場所を聞こうとした、が。
『ぁぁあん? ぁんだぁあ? ぉれに用かぁあ?』
声をかけた牛系の獣頭人族の人は独特なしゃべり方で、ギロリと自分の方を睨み付けるように見つめてきた。
『ぶひぃいい!? な、なんでもないですぅうう!!』
余りにも怖かったために悲鳴を上げ、その場から走り去った。
『ぶひぃぃいいいーーーっぶふ!?』
恐怖で駆け出し幾らも行かない内に人とぶつかってしまった。
『あぅ、あ、あのごめんなさーーーッ!?』
『気を付けろよ。こんなところで走ったりするなよ』
ぶつかった相手に謝ろうと、その相手を見たらいつか森の中で出会った黒豹の獣頭人族の人だった。
黒豹の人は大して気にする様子もなく、その場を立ち去ろうとしたので。
『ま、待ってください! あ、あの! あなた達を探していたんです!』
『ん? 俺達に用? 依頼か? なら依頼屋を通してくれ。俺達は直の依頼は受けないことにしてるんだ』
そのまま『じゃあな』と言って歩き出したので、再び。
『そ、そうじゃないんです! ぼ、ぼくをあなた達傭兵団に入れてください!』
『はあ!?』
黒豹の人は振り返り口を大きく開けてぼくを見た。
『ちょっ、ちょっと待て、坊主がか? 傭兵団が何をして要るのか分かっていて言ってるんだろうな!?』
『……はい……あう!? ああごめんなさいごめんなさい』
ぼくは黒豹の人に答えるも、他の行き交う人とぶつかり、その人に平謝りをした。
それを見ていた黒豹の人はため息を吐き。通り道では邪魔になるからと、休憩茶屋に行くと示唆した。
『ねえちゃん茶を二つに、あとは……適当に頼む』
『はーいわかりました』
黒豹の人は店先の椅子に座り、売り子のうさ耳をしたお姉さんに注文をする。
『あの、えっと』
『金なら気にすんな。俺が誘ったんだ。ここを奢るくらいはある。んで、傭兵団に入りたいって言ったか』
『はい…………それで入れて貰えるんでしょうか?』
黒豹の人は『う~ん』と考え込み。
『人では欲しいことは確かなんだが…………』
ぼくを改めて見て。
『子供じゃなぁ……坊主何か特技あるか? 剣が得意ーーーそうには見えねえな。弓って柄でもなさそうだし』
そんな事を言って断られる雰囲気になってきたので。
『太鼓なら少し得意です……』
『太鼓って、うちは傭兵団だぞ、楽士が必要って訳じゃないんだが……』
『わりぃけど、うちじゃなぁ』と言って立ち上がって帰ろうとしたので。
『せ、精霊も、低級ですけど、呼べます!』
『なに!?』
ガバッとぼくの方に駆け寄り、まじまじとぼくを見る。
『……確かに髪に素養の証が出てるな…………マジで呼べるのか?』
『……はい、まだ不安定ですけど。ぼくの家は巫術系統に在る、神楽舞いを教え伝えていますから』
『それって特殊な家系じゃないのか? 何でそんな奴が傭兵団なんかに?』
ぼくはこれまでの事、入りたい理由についても話した。
『あの時の森の中で太鼓を叩いてた坊主か!? 今思い出した! あのあと町に着いたら直ぐに別れちまったからな。今言われて思い出したぞ』
そして互いに改めて挨拶とあの時のお礼を言った。
『気にすんな、あれは仕事だ。それと礼なら俺じゃなくて団長の方だろう。あの時坊主、いやヒビリーか、に人の居るところで演奏をしろと言ったのは団長の方だしな』
それでもあの時出会わなければ、今の自分はきっといないからと。
『まあヒビリーがそれで良いなら良いけどな。それで自分の願いねえ。そいつはわざわざうちの傭兵団に入らなきゃ叶えられないのか?』
『はーいおまちどおさま、お茶とモルト焼きです(芋を練って焼いたもの)』
話の途中でうさ耳のお姉さんがお茶とモルトを運んできた。
コルウェルさんは『食いながら話そうや』と、一人分のお茶とモルトをぼくの方に差し出してきた。
ぼくはお礼を言って、走ってきたから喉が乾いたので、お茶だけ飲んで喉を潤した。
そしてぼくはここに来るまでに、店主さんの言葉や市場で出会った人達に感じた事。
それらをぼくの中で、今改めて何をしたいのかを考え。それがどう言った物なのかを話した。
『確かに傭兵団って言うのは渡り鳥みたいなもんだから、ヒビリーがしたい事は出来るだろう。それにお前に力があるなら、傭兵団としては何よりありがたいが…………ハア、もっと楽な道もあるだろうに、本当に良いのか?』
コルウェルさんは困った顔をして、ぼくに改めて確認する。
『はい。これがぼくの願いの一歩目なんです』
ぼくは迷い無くコルウェルさんに答える。
『ったく、わかったよ。団長には紹介してやる。だけどこの話は団長に言わなくて良いのか? 言わないと入団させてもらえないぞ、うちの団長の性格からしたら』
『頑張ります。これもぼくの願いのひとつですから』
フンスと、これから歩む道に気合いを入れる。




