No.161
No.161
トントトッン! トトトッン! トントト…………。
今日もいつもの様に神楽舞いの鍛練をしている時に、太鼓を叩いている祖母が、叩きを止めたので。何かまた間違えたのかと、叱責を受ける覚悟をしていると。いつもなら直ぐに言ってくる祖母が何も言わず、黙ってこちらを見ている。
そして幾分躊躇いがちな表情を見せたあと、直ぐ鍛練中の厳しい顔に戻ると、ぼくにこう言ってきた。
『ヒビリー。今日只今を持って、貴方の神楽の鍛練を終了とします』
『えっ!? で、でもぼくはまだーーー』
自分の舞がまだ完璧ではないと祖母に言おうとするが、祖母はそれを遮るように話を進める。まるで今はぼくの言葉を聞きたくないかのように。
『貴方の舞いはまだ未熟。ですが、手順や型などは人に教え伝えても良いほどに為りました』
祖母が神楽で自分の事を誉める。今までに無い事に素直に嬉しくなる。だからこそ次の言葉はぼくには理解ができなかった。
『ヒビリー、貴方を当家の次期正統当主の座から外します』
『え?』
お婆様は何を言ってるの? この家で継げるのはぼくしか残ってーー
『分派の家に女子が生まれたのは貴方も知っていますね。昨日両家で話し合い。その子を我が家の子とし。その子を当家の次期正統当主と決めました』
な、んで……? 家の神楽は特殊だって、当主となる人は家の血を受け継いだ人じゃ駄目だって……。
祖母の言葉に混乱していくが、祖母は構わず続けていく。
『ーーーそしてその子が成人した暁には、貴方にーーーはその子と子を為して貰いーーー』
だけどもう祖母が何を言っているのか聞き取れなく為っていく。
ぼくの中の何かに亀裂が入る。
ーーーピシッ。
ぼくが今まで頑張ってきたのは……?
母が亡くなり。次へと残せるのがぼくだけになって。
女子のみに受け継がれる神楽を一生懸命覚えて。
家の神楽は特別だからって、ぼくしかいないからって。お婆様だって初めは喜んでくれて。
それでーーーそれなのにーーーそれをーーー
ーーーピシッピシッ。
ガシャーーーーン!!
頭の中がグチャグチャになっていく。
それと当時に自分の中にあった何かが、音を立てて壊れていくのが聞こえた。
『ーーー苦労を掛けました。ーーーで、貴方には好きに生きてーーー……リー? ……ビリー? 聞いていますか? ヒビリー』
お婆様の声が聞こえる。………ああ、そうだ、返事しなきゃ……。
『……はい、わかりました…………。その様に…………します……』
辛うじてそう返事を返し。祖母には少し疲れが出てきたので、今日は休ませてくださいと、フラフラとした足取りで部屋を出ていく。
出ていく際に祖母が『こちらの我儘に付き合わせてごめんなさい』と、震えた声で言っていたような気がした。
謝らないでくださいお婆様。それが家のため何でしょう? …………それに今さらそんなことを言われても、ぼくにはーーー
そして祖母が言っていたように次の日からは、祖母から神楽の鍛練を受けることはなかった。




