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No.160

ここから暫くはブタくんの過去話?

トウイチロウとか出てきません。





 No.160




 ぼくはこの見ているものが、夢だと言う自覚があった。

 だってそれはかつて自分がやって(過ごして)来た事なのだから。




 トントトッン! トトトッン! トントトッン!


 太鼓(ポルタ)の音が響き渡る。

 太鼓(ポルタ)を叩くは、豚耳を持つ獣人族(ワイルド)の老女。

 その姿は髪は色が無くなり白髪となり。肌もシワが多く目立つが。かつては美女として名を馳せていたのだろう。老いた者とは思わせられないほどの艶かしい持つ姿があった。

 そんな老女から、静かにされど力強い声が発せられる。


 『ヒビリー。そこは右手を順手で引き戻し。それから返しなさい』

 『は、はい、お婆様』

 『鍛練中は当主と呼びなさい』

 『はい……当主さま』


 広い空間に人は二人のみ。太鼓(ポルタ)の音と祖母の声だけが響く。


 『ヒビリー。そこの足の踏み出しは、地に足をつけず。そのまま外回りに半円を描きなさい』

 『ヒビリー。そこはーーー』

 『ヒビリー』

 『ヒビリー』


 何度も何度も間違え、その度に叱責が飛ぶ。時に手順を教えるため手取り足取りと教えるが、近場にいるため。二度間違えた手順を行えば、太鼓(ポルタ)を叩いていた木の棒(バチ)で叩かれる事もあった。


 『日が暮れてきましたね。今日の鍛練は終わりとします。明日も同じ手順を行います。今日間違えた手順を再び行わないよう、貴方は夕食まで自己鍛練に励みなさい。…………今では貴方が、我が家の術を正統に伝えることが出来るのですから』

 『ぶひぃ、ぶひぃ……は、はい、当主さま』


 息切れで途切れ途切れに為りながらも、祖母のいつも語る言葉に返事を返す。

 そして祖母は立ち上がり部屋から出ていく際、この日だけはポツリと、本当に何気なく言ったのだろう。

 だけどぼくにはその言葉が、鍛練中に叱責を受けていたときよりも、自分の中に大きく響いて聞こえた。


 『あの子が女子であれば、このような苦労はせずにsーーー』


 …………ぶひぃ。

 鍛練中でも出なかった涙が出てくる。

 それでもぼくは、もうこの家にはぼくしか居ないのだからと、自分に言い聞かせ。今日も教えられた神楽を舞う。




 こうして毎日祖母より叱責を受け。それでも少しずつでは有るけれど、神楽がきちんと舞える様に為っていき。自分でも手応えが得られ始めた頃。分派として別れてい方のところに、子供が生まれと言う知らせが祖母の下に届いた。


 『そうですか。(あの子)の所にもついに孫が…………感慨深いものですね』

 『母が妻と子が安定したら折を見て、ご当主にご挨拶にお伺いすると』


 祖母にそう報告する自分と同じ獣頭人族(ワイルド・ヘッド)の男性客。


 『気にする必要はありませんよ。家を存続させるために奮闘してくれた娘と、次へと繋げるために生まれてきてくれた子に、沢山の感謝と愛情を与え、育てなさいと伝えてください』


 ぼくは祖母と男性客にお茶を出した。男性客はチラリとぼくを見てから頭を下げる。

 それから静かに部屋を退室していき。


 『はい、ありがとうございます。……………………それと母が心配しておりましたが、正統の当主として継ぐのは、やはり……』

 『……ええ、ヒビリーの母(あの子)が身罷ってしまった以上。私の、あの子の血を受け継ぐのはヒビリーしか残っていません』


 祖母と男性客がそんな話を始めたのは。

 そしてこの時ぼくは、自分の名前が出てきたことで部屋の前で立ち止まって、聞き耳を立ててしまっていた。


 『母から聞き及んでいますが、正統には長年、血統の契約している精霊が要ると』

 『そうですね。ですから絶やす訳にもいきません。ここまで受け継がれてきたモノを、ここで閉ざす訳にも……』


 祖母のその言葉は何か思い悩むようにも聞こえた。

 だけど祖母はそれを振り払うように明るく。


『……いけませんね。目出度い事柄なのに少し暗い話になってしまいました。そう言えば子の名前は決めたのですか? (おのこ)であるなら勇ましい名前にしたのですか? もしまだでしたら私が名前をーーー』


 しかしそんな祖母の話を遮るように男性が。


 『ご当主! お、お待ちください。子は、私達の子は…………女子に為ります』


 男性はひどく言いにくそうに、そう祖母へと話す。

 祖母は男性の言葉を飲み込むように理解していく。


 『そう、ですか……。女子が……女の子が、生まれたのですか……』


 その時の祖母の声は何処か複雑そうで、その後の話も互いに当たり障りのない話をしていた。

 ぼくは部屋の前で立ち尽くしていることに気付き。男性客が帰る前にその場を後にした。

 そうして思えばこの日を境に、祖母から受ける鍛練が、少しずつ厳しさがなくなって要ったのを感じていった。














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