No.159
No.159
トウカに負けじと自分も強化術を覚える為にやっていると。途中で義手の方が魔力に耐えられなかったのか。ヒビが入り割れた。交換しようと服を脱いだあと、ブタくんからの質問があった。
「あ、あの、と、トウイチロウさんて……何者、何ですか?」
その質問内容に思わず面を食らってしまった。
自分に対しての質問とは思わなかった。てっきり今やってる訓練の意味を尋ねてくるものかと思っていたけど。
しかし、何者か……。
異世界人、この世界だと渡界者。
この世界に来てから聖地と呼ばれる場所から出たことがない引きこもり。
ピンクサル達相手に毎日のおさんどさん。
日がな一日、食料や素材を集めて来ては好きなものを作って暮らしている趣味人。
異世界に来た当初は冒険にも憧れたが。それよりのんびりと暮らしていく方が性に合ってると気づき。のんびりと出来る聖地で暮らす自由人。
寂しいと感じる暇もないくらい騒がしい毎日だし。時たまブタくんのように誰か来ては、その人の問題に首を突っ込んでる世話焼き人。
う~ん一言ではないが、自分を表すとこんな感じか?
「えっと、あの、こ、答えずらかったら、いいです……」
自分が考え込んでいたらブタくんが答えは要らないと言ってきたが。言葉がまとまらなかっただけだ質問の答えには答えておこう。
「一言で表すのが少し手間取っただけだ。自分が何者か……。うむ。それを表すとするなら『人生を後悔せずに歩む者』、だな」
「後悔せずに、ですか」
「そうだ。人はどうしたって、後であれをしとけば良かった。これをこうしとけば良かったと、後悔することが多い。もちろん完全に後悔のない物事など在りはしない。だけどそれを少なくすることは出来る」
この答えはブタくんの望んでいる答えでは無いかもしれない。それでもこう言った答えも何か切っ掛けになるかもしれない。
「それが何か、貴様に分かるか」
「えっ? えっと、その………………わかりません」
実際それをしようとする人は少ないかな。人は出来るだけ安全な道、楽な道を選ぶ生き物だから。だけど君はーーー
「少なくとも昨日一度、貴様は自分にそれを見せた。……さあ話終わりだ。さっさと訓練を再開しろ!」
話は終わりだと言いきり。自分はバックから予備で持ってきたいた、義手の付け替えをする。
これ一人で付け替えるの面倒せいだよな。だからと言ってブタくんに頼むのは何かカッコ悪いし……。あいつら来ないかな。
☆★☆★☆
「少なくとも昨日一度、貴様は自分にそれを見せた。……さあ話終わりだ。さっさと訓練を再開しろ!」
えっ? えっ? ど、どうゆうこと!? ぼくが一度見せたって!?
ぼくはもう一度聞こうとしたけど、それよりも先にトウイチロウさんが義手の交換に入ってしまって、聞きそびれてしまった。
ぼくは言われた通りに斧を持って、再び木に打ち付けながら。ぼくはトウイチロウさんが言った言葉を考えていた。
(なんだろう? ぼくが見せたものって? 神楽舞い?)
見せたものと言えばそれぐらいなので、トウイチロウさんが何に対して言っているのかが見当がつかなかった。
自分の事なのに何なのか思い付かずに要ると、のしのしっと地を踏みしめる音が聞こえてきた。
「「「「ウキキッー!」」」」
「おうお前ら、また乗せて貰ったのか?」
音の方をチラリと見ると。ぼくが乗って来た角竜に乗ってやって来たのは、猿の賢獣達だった。
トウイチロウさんはぼくと話す時とは違って、威圧的な口調ではなく。友人にでも話すかのように賢獣達に話す。
「「「「ウキ」」」」
「マブダチって……まあ良いか。飯が食い足りないって言っていたけど、もういいのか?」
あれ? トウイチロウさんなんだか普通に賢獣達と会話してないかな? 偶然だよね。賢獣は人の意思を汲み取ってくれるけど、会話が出来ないから意思疏通が難しいって、聞いた事あるけど。
「「「「ウィキィ、ウキウキ」」」」
「あ? 確かにいつもならそろそろおやつの時間だけど。お前ら食ってきたんじゃないのか?」
「「「「ウキキッー!」」」」
「……別腹って、そう言う風に使うものなのか?」
あれ……やっぱり会話してるよね。何で出来るの?
ぼくは色々な事が起こり過ぎているせいか。
それとも食事を取らせて貰っていないで動いているせいか。段々と考えることができなくなってきて、そしてーーー
「「「「ウッキキー!?」」」」
「はあ!? なに倒れた!? マジか!? おい! しっかりしろ!」
「「「「ウキッ、ウキィー! ウキキッー!」」」」
「だぁー! わかってるよそんなことは! 反省します! 食事を取らせずにやらせたことは申し訳ありませんでした! くそっ、やっぱ本みたいにはいかないな。とりあえず休ませーーー」
賢獣が何か騒いで、トウイチロウさんが何か言っているけど。ぼくはそれ以上意識を保っていられなかった。




