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No.158





 No.158




 「ふはははは! さあ早くやらねば日がくれるぞ!」


 猿の獣頭人族(ワイルド・ヘッド)の名前をトウイチロウさんって人が、始めに話していた時とは打って変わって別人のように、ぼくを罵り罵倒する。


 (ぶひぃ、ぶひぃ…………な、なんでぼく木を切る(こんな)ことやってるんだろ?)


 渡された石の斧。斧っていってるけど、刃の部分の方は幅が厚くなっていて、切るなんて事はできない。

 こんなもので日暮れまでにこんな太い木を切れなんて無茶だ。だけどそんな無茶な事をぼくは言われた通りにやっている。


 (ぼくが頼んだのは、気弱な性格を直す手伝いなのに、なんでこんなことを……)


 今朝から走ってばかりだったから体力の限界だし、朝昼と食事を抜いているからもう力も出ない。それに何か考えたくてもうまく考えがまとまらない。


 「オラどうした! そんなへっぴり腰じゃあ間に合わんぞ! そら! 返事はどうした!」


 ぼくが少しでもへばって来ると罵倒が飛んでくる。


 「ぶひぃ! サーイエッサー!」


 これもよくわからない。なんでこんな返事を返さなくちゃいけないんだろう。

 何回。何十回。木に斧を打ち付けるけど。少しへこみが出来るだけで、切れる様子なんかまったくない。

 それでもぼくは言われた通りに木に斧を打ち付ける。


 「ぶひぃ! ぶひぃ! ぶひぃ! ッつ!?」


 一心不乱に打ち付けていたせいなのか。それとも持ち方が悪かったのか、手の皮が剥けてしまった。


 「痛い……。あ、あの、手の皮が……」


 手の皮が剥けてこれ以上出来ないとトウイチロウさんに言おうとしたら。


 「クソ軟弱者が! 軟膏薬(それ)を付けてさっさと再開をしろ!」


 何か木のような器で出来た物と布を放り投げて寄越してきた。


 「……ぶひぃ」


 ぼくは黙って受けとることにした。

 もし何か言ったらまた罵倒が飛んでくる思うし。それに朝走っていた時に撃っていた光撃術を体に受けて、更に痛い思いはしたくないし。


 「…………これどうやって開けるのかな? サー質問がありますーーー!?」


 薬だと言われた入れ物の開け方が分からず。聞こうとトウイチロウさんの方を見たときに、ぼくはそのトウイチロウさんのやっていることに驚いた。

 トウイチロウさんは自然体に立ち。精力(マイン)を全身に行き渡らせていた。

 しかも黄色に輝く色属の星力(プラーナ)が、目でハッキリと見えるぐらい練られていた。


 (な、何あれ!? あんなに密度が濃い精力(マイン)を人が出せるものなの!? あれ? でも右手だけ変だ)


 トウイチロウさんの右肩から先も星力(プラーナ)の輝きは見えるけど。他に比べると薄ぼんやりと見える感じ。

 そう疑問に思った直後。トウイチロウさんの方から何か『ギチッ! バキッ!』と、何かが壊れる音が聞こえてきた。

 その音が聞こえるとトウイチロウさんは軽くため息を吐き。練っていた精力(マイン)を止める。

 そして徐に上着を脱ぐと、そこには信じられないモノがあった。


 「………………木の義手!?」


 右手だけ手袋(グローブ)をしていたから変だなとは思っていたけど。普通の手のように動く義手だなんて。


 「ん? 何を見ている。貴様、言われたことは終わったのか! 休んでいる暇など無いぞ!」


 ぼくが見ていたことに今気がついたように怒声をあげてくる。


 「えっ? あ、サーイエッサー。あそうだ。サー質問がありますサー」


 ぼくは聞こうと思っていた薬の開け方を聞くと。上の部分を持ち、ねじれば開くと答えてくれたので試すと。上の部分がくるくると回り外れた。容器を見てみると、両方に溝が付けられていた。


 (これで蓋の開け締めが出来るように為っていたのか……すごい作り)


 薬の蓋を開けたあと中の軟膏を救い。皮の剥けた部分に塗ると。痛みがスッーと無くなっていく感じがした。

 手を見ると剥けた部分はまだある。治ってはいないけど、治ったような感じがした。


 (薬もすごい……。こんな薬、大きな町にだって売ってない……)


 トウイチロウさんって何者だろう。

 聖地に住む隠者って聞いてきたけど。なんだかよくわからない人だ。

 他の聖地でも隠者の方に会ったことはあるけど。誰も彼も人との関わりを拒む人が多かった。

 でもトウイチロウさんはぼくのお願いを聞いてくれてる。お願いした事とは違うことをしてる気がするけど。

 それにさっきだって食事を人族(ヒューム)の女性と賢獣達の分は作っていたけど、トウイチロウさんは食べていなかった。

 ぼくはあの時食べられる元気はなかったけど。トウイチロウさんは食べれたはずなのに。

 それから今思えば朝走っていた時も口では『どうしたどうした! 止まって休むようなら次はその体に当てるぞ!』と言っていたけど。決してぼくに光撃術を当てることはしなかった。

 物も明らかに町や国に有るものとは一線を画したものが多いし。

 わからない。

 怖い人なのか、そうでないのか。

 優しい人なのか、そうでないのか。

 わけのわからない人。


 「……あ、あの、サー、質問がありますサー」


 だからぼくは意を決してトウイチロウさんに聞いてみる。


 「貴様……口よりも手を動かせ! だがまあ良い。質問はなんだ」


 だけど返ってきたのは罵倒だった。それでも質問には答えてくれるからおかしな人だ。


 「あ、あの、と、トウイチロウさんて……何者、何ですか?」


 ぼくがそんな質問をすると、トウイチロウさんが悩んだ顔をしたのが、この時のぼくにはひどく印象的だった。

















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