No.157
No.157
正午ちょっと過ぎ。
ピンクサル達に食事を与えてから、ブタくんの体力が回復したところで訓練は再開される。
ブタくんの食事? そんなものはありません。ハングリー精神を養ってもらいます。自分も付き合うんだから我慢してもらう。
本当だったら自分がブタくんの目の前で食事を取り、更に反骨精神を養って貰おうとは思ったけど。さすがにそれは出来そうも無いので止めた。
さて午後の訓練だが。先ず体力作りを兼ねた走り込みを、空白地帯から次の目的地である大森林まで走らせた。
「ぶひぃ、ぶひぃ……」
「ッチ! 貴様の足の早さは亀並みか! こちらが予定していた訓練内容の半分も、消化しきれないではないか!」
自分の罵倒にブタくんは何も言わず、ただこちらをじっと見つめている。
そろそろ良い感じにこちらに対して疑心暗鬼なっているようだ。あとはこちらの理不尽な物言いに対して、反抗する気概を見せれば第一段階クリアだ。
ブタくん早く気付けよ。
人から言われ、物事をこなしていくのは、物言わぬ案山子と同じだと言うことを。
それが楽だ、流されるのが良いと言うならそれもまた人生だ。
だけどブタくんが目指すのはそこじゃ無いだろう。
目を瞑り。耳を塞ぎ。心を閉ざし。ただ嵐が過ぎてくれるのを期待して待つ人間ではいたくないんだろう。
たとえ嵐の中でも、自分が傷付こうとも、歩く勇気を持つ人間に為りたいんだろう。だからがんばれブタくん。
自分はもうこのキャラに限界を感じてるから…………ほんと早めに気付いて……じゃないと自分の方が先にまいってしまう。
「ここで行う次の訓練を言い渡す」
自分は腰に下げていた特別製の石斧をブタくんに放り渡す。
ブタくんは放り渡された石斧を疑問に感じ口にする。
「……えっと、これは?」
「貴様の目は節穴か! 考える頭すらないのか! そこに有るものは飾りか! 無用のモノであるなら、今すぐ石斧で切り取ってしまえ!」
ブタくんが何か言う度に罵倒し、否定的な言葉を言い続ける。だけどこれだと話が進まないからある程度で止め。ブタくんに指示を出す。
「貴様は石斧を使い…………そうだな。あの木を切り倒せ。時刻は夕刻までに切り倒すことだ。出来なければ食事を抜きとする。理解したのなら作業を開始しろ! グズグズするな!」
指示した木は幹の太さが人の腰回りほどある木。加えてブタくんが今手にしているのは、自分が特別に作った石斧。
実はこの石斧。レベルが上がり出来ることが増えた【抽出加工】の力を使い。素材の密度を圧縮させて取り出した物を使っている。
なので強度は今までとは比べ物になら無いぐらいに上がっているが。刃を作っていないので、やたらと頑丈なこん棒と変わらない。そんなもので木を切れと言っているのだ。自分ならふざけんなと言い返したい。
しかしブタくんはこちらに言い返すことはせず。手にした石斧を持って。指定した木に石斧を叩きつける。
「~~~~~ッ!?」
叩きつけられた木は石斧を弾き返され。ブタくんは叩きつけた時の衝撃で石斧を手放してしまった。
自分はニヤリと笑い。
「もう一度言ってやる。その木を切り倒すのは夕刻までだ。それを過ぎれば食事は抜きだ。また食事を抜きたくなければ早く切り倒すことだな。ふはははは!」
精一杯悪い奴を演じブタくんを罵りながら、自分は自分の作業をする。
ブタくんはブタくんで、歯を食い縛りながら黙々と言われたことを始めた。
まだ爆発しないか。結構耐えるな。実家での扱いに耐えてきた子だし。それなりの耐性があるのかな。
でも何か切っ掛けがあれば爆発するかもしれないんだけど。何かないものかなあ?




