No.145
No.145 【幕間】そのいち
「あ~~~~~~~~ひまだ。…………魚も一匹もかかんね」
本当は暇なんかしている暇はないんだが、おっ何かいま上手いこと言った気がするな。じゃなくて、日々の糧を得るためにあちこちに行って、食材やら資材を集めたりしなきゃいけないんだが。それをトウカがさせてくれない。
「めっ! トウイチロウは安静! お家でお留守番! トウカと虎丸、おさるさん達で集めてくるから大人しくしてるの!」
と言う具合に付いてくことを拒まれ。川原でウッドチェアに横になりながら、おかずに為りそうな魚でも釣ろうかと。釣糸を垂らしているんだが。今日はビックリとも浮きが動かない。魚影は見えるんだけどな。
「ヤバすぎる。何かしてないと落ち着かない」
何でだろう。地球で仕事に明け暮れてた時と違って、ここではのんびりと暮らしている筈なのに。
「料理の下準備をしとくにも、トウカと一緒じゃなきゃ怒るし。う~ん暇すぎる」
さすがにトウカも串焼きを炭に変えて、食べてから不味かったと感じたのだろう。料理だけは自分も手を出して欲しいと願ってきた。
ピンクサル達はそれを聞いて大いに喜んでいた。
「ウキッー!」
「ウキキキィーウィキィー!」
「ウキィーウキキィー!」
誰とだよ。
と言う突っ込みはとにかく。そんな感じにピンクサル達は喜んでいた。
何か作っていても良いんだが、トウカに見つかったら怒るだろうし。まあそんな訳で。
「あ~ひまだ」
「ぐあぁぁっぐわああぁ、ぐがあぁぁ」
暇をしているところに、やたら渋い声が聞こえてきて、そちらを向くと。人ほどの大きさの石人形に載って土竜とランボがやって来ていた。
「ウモモ」
「これは二人とも遠いところをわざわざ」
立ち上がり挨拶をしようとしたが。
「ぐわあぁ」
土竜に言葉と共に尻尾でそう制された。
「ではこのままで失礼して。しかし一体誰に自分の事を?」
二人は石人形から降りると。
「ぐわあぁ」
「ウモウモ」
あいつらは自分が知っている全員に言いに行ったのか? 最もあと一人はユニ子しかいないけど。
「ぐあぁあ……」
土竜は自分の無くなった右腕を見てそう言った。
「過信した結果です。手痛い教訓を得たと思っています……」
「ぐああぁ。ぐわあぁぐああぁぁぐがあぁぁ」
土竜がそう言うと頷いて同意をしているランボ。
どうやらこの二人にも相当心配を掛けたようだ。
それからしばらく他愛ない話をしていた時。
「ぐわあぁ」
「ウモッ」
等と言ってきた。
ええっと、もしかしてトウカの事ですかそれは?
自分の中でピンクサル達に名前を贈っていたときの事が思い出された。
「お、お気に召さない名前でしたら変えさせますが?」
ピンクサル達の中にはいまだに変えてくれと騒いでいる奴等も要るからな。自分も人の事が言えないが、トウカのセンスは時にぶっ飛んでるからな。この二人が頭にきて自分に言いに来たなんて事が……。
「ぐわあ」
「ウモッ」
二人ともどこか誇らしげな顔でトウカから貰った名前を語った。
どうやらお気には召したようだ。良かった……この二人が変えろと言ってきたら。トウカに土下座してでも頼んだろう。
しかし竜老に牛若か。何をもってこの名前に決めたんだろうなトウカは?
それでこの二人、見舞いと名前を貰った礼も兼ねてここへ来たそうなんだが。その持ってきた物が。
「ぐあぁ」
土竜(自分は相も変わらずこれでいくよ)は先ほど載ってきた石人形を崩してこちらに寄越した。
【万物の瞳】で見たら、いつも自分が採取してくる岩塩の塊だった。
「くわあぁぁ、ぐあぁぁ」
おおっ! 量が多いけど、有って困る訳じゃないし助かる。
それでランボの方は以前貰ったミルクをーーー
「ウモウモゥー」
と言うことらしい。いいの? また奥さん(?)に殴られない?
「ウ、ウモ……」
めっちゃ問題ありそうですが!? 無理しないでいいですよ!?
「ゥウモ……」
全然大丈夫そうに聞こえないです……。
その後二人とも用件は済ませたと、病人相手に長居はしないと言ってそれぞれ帰っていった。
「色々な人に迷惑をかけたな。今度お返しをしとかないと」
自分を取り巻く環境は恵まれているなと感じていた。
「ただいまトウイチロウー」
「「「「ウキ~……」」」」
「にゃーん」
三者三様な声が聞こえてきて。
「あっー!? トウイチロウなにこれ!? もしかしてどこかに出掛けてきたの!? もうぅ! ダメってトウカ言ったのに!」
土竜が置いていった岩塩を見つけたトウカが自分を叱りだす。
「いやいや、何処も出掛けてないから。これはなーー」
自分はトウカ達が居なかった出来事を、集めてきた食材などを仕舞いながら。自分がみんなに感謝していると言う思いを語りながら話をしたのだった。




