No.144
No.144
「ただいまトウイチロウ」
「「「「ウキー」」」」
「にゃーん」
ディータを見送りに行った連中が帰ってきたようだ。自分は今やっている作業の手を止め迎え入れた。
「お帰り。見送りは出来たか?」
「うん! ちゃんとお見送りできたよってそうじゃなくて。なんでトウイチロウが川原に要るの? 寝てなきゃダメー!」
トウカの珍しい突っ込みが炸裂。
しかしそれも束の間、プンスカと怒りだして自分を叱る。
「いや、だがなあトウカ。食事の支度をしないとーーー」
「トウカがするからいいのー! メェメェさんがトウイチロウは安静にって言ってたってお姉さまが言ってた! だからトウイチロウは寝てなきゃダメー!」
トウカは自分から調理途中の食材を取ると。川原に置いてあるウッドチェアへ横に為るように指示された。家のベットじゃないのかと聞くと。
「そこならトウイチロウがちゃんと寝てるか見てられるから、トウカ安心してられる」
との事だ。
トウカの言うことを素直に聞くことにする。
実は自分でも調理をしているだけで、調子が悪くなっているのを自覚していたので、ある意味助かった。
ウッドチェアに横になり。何か分からないことがあれば聞くようにとトウカに言う。
「はーい。あと何をすればいいの?」
「串焼きにするつもりだったからな。下準備はもう終わってる。後は焼くだけだ。火の扱いには気をつけて焼いてくれ」
「うん任せて!」
ピンクサル達にも注意して見ていてくれと言って、疲れた体を癒すように目を閉じて。思考だけ巡らせる。
ふう、思った以上に体力の消耗が激しい。
普通なら絶対安静面会謝絶状態だろうから。こんな風に動けること事態おかしな話なんだ。そういった意味ではこの世界の医療技術にビックリする。
どちらにしてもしばらくの間は大人しく養生してなきゃ無理だな。
「トウイチロウ、こっちにお鍋が火に掛かってるよ。これはどうするの?」
「ああそれは自分用のお粥が煮てある。それはそのままで構わないよ。串焼きはトウカたち用に用意をしたものだから」
「じゃあこのままにしておくね」
前回同様、今回の事に関しても本当に運が良かっただけだ。
本来なら自分は死んでいて当たり前だった。
物語の主人公のように自分が死なないよう、何かに守られていると錯覚してしまうぐらいに。
過信していたつもりはない、と言うつもりはない。
やっぱりどこかでチート的な能力が有るため侮っていた部分があると思う。
でなければ、門に入ってモンスターハウスを確認したときに退却をしていた筈だ。
それそこディータがあの場所で我が儘を言ったとしてもだ。
だから今後は門へ行くならより一層厳しくーーー
「ーーー引き締めなきゃ駄目だな」
「にゃーん?」
自分の独り言を聞いていたトラさん。
トラさんはピンクサル達のようにトウカの手伝いをする訳ではないので。自分の側で寝そべって、休憩していたようだ。
「またみんなと門へ行くなら、もっと注意をしなきゃダメだなって話さ」
「にゃーん」
「そうだな。もっと楽になるよう自分も考えるよ」
そうだ。ディータがトウカさんはトラさんを連れて、道の方へ行ったと言っていたけど。トラさんはトウカさんと話したのかな?
「なあ虎丸」
「にゃん?」
「あの日トウカさんと話をしたか?」
「にゃーん……」
寝ていたトラさんはトウカさんに連れられていった後。目が覚め少しだけ話をしたとの事だ。
『ふふ、私と遊んでくれてありがとうね、虎丸』
『にゃーん』
『私はもう出てくることがないから。私と戯れられるのはこれで最後ね』
『にゃん?』
『分からなくても良いの。…………あの人に私の願いを託してきたから。あの人は『私も』なんて言っていたけどね』
『うにゃ~ん』
『お前まで『私も』と言ってくれるの?』
『にゃーん』
「うにゃーん」
う~ん分からん。描写もないからトラさんの言葉だけの説明だと、いまいちトウカさんの言いたいことが分からない。
ただトウカさんは何かを願い。それをトウカで叶えてもらいたいと自分に叶えて欲しい、と言うことだけは分かる。
そしてその自分に叶えて欲しいと言うものはモノは、トウカさんにも叶って欲しいと自分は言ったようだ。
「当の本人がもう出てくる気がなさそうだしなぁ」
聞きようもないなか……。
これ以上は仕方がないと、頭の方も休めようと一眠りでもしようかと思ったら。
「ウキキキィ! ウキ、ウキ……」
「ウィキィー……」
「もう、さっきからなに。猿太郎も猿次郎も料理の邪魔して。もう少しで終わるんだから。トウカのお手伝いの邪魔するんだったら、トウイチロウを見てて」
ピンクサル達がなにやらトウカの邪魔をしてるようだが、様子が変だ。
「ウキィウキキィー!」
「ウキッ!」
ピンクサル達が駆け込むように自分のところにやって来て。トウカを止めてくれと言う。
「いったい何があったって言うんだ?」
「ウキキッ! ウィキィー!」
自分の体を引っ張り起こすようにするピンクサル達。
今横になったばかりなのに、ウッドチェアから立ち上がり。ピンクサル達に連れられトウカの所へ向かう。
「トウカ、こいつらが何か言ってるんだが何を…………ああ、そう言うこと」
「ウキキッウキッー!!」
ピンクサル達が泣き叫ぶように訴える。
こいつらにとっては死活問題か……。
さて何をピンクサル達がここまで騒いでいるかと言うと。
「一応聞くがトウカ、それは一体なんだ?」
「ん? あっトウイチロウ。もう寝てなきゃダメでしょう!」
やっと自分に気がついたトウカは振り返り。また起きて動き出している自分を叱る。
その手には真っ黒になった何かを手にして。
「それは悪かったが。その手に有るのを先ず聞きたい。それは何だ?」
「何ってトウイチロウが言ってた串焼きだよ?」
さらにトウカの手だけでなく、皿の上には真っ黒に焦げた。元串焼きだった物が大量にあった。
「はい、これでおしまい。お料理できたよ、トウイチロウ」
下準備をしておいた串焼きは、全てトウカの手により完了してしまったようだ。
「……ウキ」
「ウキウキウキキ……」
一本も残って無いことを確認すると項垂れ。この世の終りのような顔をして要るピンクサル達。
だけどそのやり取りは、どこぞの司令部で使〇の映像を見て語る。司令と副司令のようである。
だからお前らはどこでそう言うネタを仕入れてくるんだ?
「ふふっふー♪ 初めてやったけど上手に焼けたよ♪」
「ソッカ、ジョウズニヤイチャッタカ……」
トウカ、残念ながらそれは焼きすぎだ。
せっかく下味をつけても最早炭の味しかしないだろう。
「じゃあお料理出来たからみんなご飯にしよう」
「だ、そうだお前ら。食事の時間だとよ」
食事の準備を始めるトウカ。さめざめと泣いているピンクサル達に飯の時間だと告げると。
「ウキ?」
泣きながら訴えてくる。
「せっかくトウカが作ってくれたんだ、食べてやれよ」
女の子の手料理だ。早々食えるもんじゃないぞ。自分も地球じゃ、自分のために作ってくれたのは母のしか食べたことないからな。
「ウキキ」
「いやほら、自分はお粥あるし」
ほらあそこで煮てるし。あれ、食わなかったらもったいないだろう。
「ウキ」
「自分一応病人だしな。腹にも穴開けたばかりだから……」
病人に炭はないだろう。いや炭じゃない部分もあるかもしれないし。きっと食べれるさ。うん、いけるいける。
「ウキ」
「第一あれはお前たち用のーー」
「ウキ」
…………わかった。わかったから、その劇画調で泣きながら。しかも抑揚もないまま言うのは止めてくれ。恐いから。
「ウキキィー」
ピンクサル達はそれだけ言うと。いつもなら暴走するぐらい喜んで食卓につくのに。今日の奴等はまるで絞首台へと向かう死刑囚のように、沈んだ顔をしながら向かっていった。
やれやれ、療養しようかと考えてたけど。こりゃあ早めに復帰しないと、奴等が暴動を起こすな。
「ふふ~ん♪ トウイチロウはどうするの、一緒に食べる?」
「ああ一緒に食べよう。一人の食事は寂しいからな」
「うんそうだね。みんなと一緒がいいね♪」
笑顔で自分の分も用意してくれるトウカ。
そこでふと、何気なく。何かを思ったわけでもないのに、こんな言葉が出てきた。
「トウカはいま、幸せか?」
「うん! トウイチロウがいて。虎丸がいて。おさるさん達もいて。お姉さまは、帰っちゃったからちょっと寂しいけど。みんないるから楽しいよ!」
ディータのところで少し陰りを見せたが。それ以外は明るく。本当に幸せそうに、天真爛漫とした笑顔を見せてくれる。
そして再び食事の準備に戻るトウカを見て。本当に、なんでこんな事を聞いたんだかと思った。
「お食事の準備も出来たよトウイチロウ」
「「「「ウキキ……」」」」
「にゃーん……?」
自分を呼ぶトウカ達。
今感じた疑問も、呼ばれたことでどこかへ行ってしまった。
だからきっと、その程度のことだろうと思い。
「はいよ、いまいく。ああどうせだったら自分の分も食べても良いぞ、お前ら」
「「「「ウキキッ!!」」」」
「ふふふ、たくさんあるからトウイチロウやおさるさん達も遠慮しないで食べて」
「うにゃ~ん……」
いつもと変わらぬ。されど少しずつ変わっていく日常へと向かうのだった。
『ーーーでも薬のせいで忘れてしまうかもしれないですよ?』
『構いません、それならそれで』
『終わった……後じゃ駄目…………なんですか?』
『覚えていなくてもいいんです。だから聞くだけ聞いてください。……お願いします。私に幸せな日々を過ごさせてあげてください』
『…………それは、トウカ……だけじゃないですよ。……幸せに……為るのは…………トウカさんも、です』




