No.140
No.140
「大丈夫だよお姉さま。トウカはいなくなったりしないよ。ただちょっと眠るだけ。さっきのお姉さまの言葉も本心じゃないってわかってよかった。やっぱりトウイチロウがいなくなったら、みんな悲しいもんね」
トウカは何ら迷いの無い顔で私達を見て。
「何にも出来ないトウカだったけど、みんなと一緒に居れて楽しかった」
そう言って頭を下げ、上げたときにはうっすらと、その目には涙があった。
私は何をするつもりか分からないけど、何かをしようとしているトウカを止めようと走る。。
「止めなさいトウカ!」
手を伸ばし止めようとするが。
「トウイチロウにも『ごめんなさい』って伝えてください」
間に合わず笑顔のままトウカは崩れるように倒れ込む。
私は慌ててトウカを抱き起こし。
「トウカ!? トウカ! 目を開けなさいトウカ!!」
何なのよさっきから! トウイチロウは私のせいで死ぬし。そのトウイチロウは生き返らせられるって言う賢獣は出てくるし。トウカは何かをしようとして倒れるしで、もう私の頭はいっぱいいっぱいなのよ! 誰か説明してよ!
混乱する私にトウカの口からトウカではない。トウカの言葉が発せられた。
「……耳元で騒がしいです。静かにして貰えませんか……」
そう言って支えていた私から離れて立ち上がる。
今、目の前にいるトウカはさっきまでのトウカとまるで違う。
天真爛漫としていた笑顔から大人びて要るけど感情がない。人形のような顔をしている。
他にも違うのは、トウカの持っていた力の質だ。
さっきのトウカは髪先まで星力に満ちた精力があったのに、いまは髪の半分までしかない。
そしてなにより違うのは目だ。
その目は、冷めた目で。全てを諦めた、そうさっき私がしていたような目で私を見ている。
「誰……あなた?」
私はトウカでないトウカに問いかける。
「私はトウカですよ。お姉さま」
にこりと笑っているけど。目が笑っていない。
顔の筋肉を動かしてそう作っているように見える。
「説明は結構ですよ。扉を閉める前でだったので、私を通して理解しています。ええっと、そこの毛玉の賢獣さん。活力系の術でも良いですか?」
「メェメェと呼んでいいですよ。患者さんを元気に出来るなら問題ないですよ。それより霊魂分けとは珍しいですよ。あなたも患者さんとして治療しますですよ?」
何かメェメェは今のトウカの現状を理解しているように話す。
「構いません。これは私が望んでした事ですから」
「でも放っておくとあなたか、さっきのあなたが消えるですよ?」
「分かっています。でも消えるのは私の方ですから、ご心配無く」
ああ分からない! 何さっきから理解しあってるの!? 私にも説明しなさいよ!
私もあそこの猿の賢獣達のように食べ物食べながら観戦でもしてたいわよ! て言うかあいつら呑気すぎない!? さっきまであんなに慌ててたのに!?
「それより時間はよろしいのですか?」
「あわわですよ!? 結構ギリギリですよ! 早速お願いするですよ」
トウカは頷き。トウイチロウの側に行くと。
「【万燈提灯ーーー】」
鬼人語で語る、術文。元術と呼ばれる術を紡ぎ出す。
トウカの周りに幾つもの小さな灯火が現れる。
それが二十の灯火が重なり合い十なり。十の灯火がまた重なり合い、五つとなり。そしてそれも最後には一つの灯火になるよに重なり合う。
「【ーーー活殺の火種】」
出来上がった灯火を飲み込むように口に入れ。そして。
「ーーーッな!?」
口に含んだ術をトウイチロウの唇と合わせ。トウイチロウへと飲み込ませた。
「な、な、なにしてんのあんた!?」
「ーーーっぷ、何って、私の活力をこの人に分け与えてるだけですよ。ああ、お姉さまには刺激が強すぎましたか?」
相変わらず笑っていない笑顔でこちらに笑い掛けるが。その笑顔がどうしてか何かを勝ち誇ったような笑みに見えた。
「だ、だからって口移しですること無いでしょうがぁぁあああ!!」
私は自分でも分けも分からず吠えて威嚇するが、それよりもメェメェが。
「むむむですよ。患者さんの体力が戻ってきましたですよ。出来れば霊魂分けの人。そのまま患者さんの口から全身に空気を送り込むようにしてくれると有り難いですよ」
「人工呼吸ですね。かあさまから聞いたことがあります。分かりました、やってみます」
そうして何度もトウイチロウに医療行為をしていくトウカ。
「一旦止めるですよ。今度はこっちですよ。メェメェが治療して、死ぬことは死んでも許さないですよ!」
小さな手でトウイチロウ体、胸辺りを何度も叩き出すメェメェ。それを見て私は慌てて。
「何してるの!? 生き返らせるより完全に殺す気!!」
止めようとした私をトウカの方が止めに入る。
「黙って見ていてください。止まったこの人の心臓を動かそうとして要るんです」
「何を言ってるの? そんな事で動くわけ?」
私が疑問に思っている間もメェメェは何度叩きながら。
「動く、ですよ! 生き返る、ですよ! 死ぬのは、許さない、ですよ! もう一度空気をですよ!!」
メェメェは汗だくに為りながらトウカに指示をして。それを聞き届けたトウカもまた、トウイチロウに人工呼吸をし始めた。
そしてそれを何度も繰り返して、何度目かの時。
「ーーーっかはっ! がはっごほっげっほ!!」
トウイチロウが息を吹き返した。
トウカさん再び!




