No.138
No.138
死んでしまったトウイチロウを見ていると。自分の中で急速に冷めていくモノが自覚できた。
(ああ、所詮トウイチロウに惹かれていたのは、私のいつもの癖だったのね)
冷めた目で、今だ横たわっているトウイチロウに泣きすがっているトウカに声を掛ける。
「帰りましょうトウカ……。日が暮れてしまうわ……」
「ひっく、ひっく、な、なに言ってるのお姉さま!? だってトウイチロウが!」
今だ止まらぬ涙を拭きながらこちらに訴え掛けてくる。
「もうトウイチロウは生き返ったりはしないわ。泣くだけ無意味よ。やめなさい」
私はいつも以上に心の熱が冷えていく感覚を感じながら。
普段なら、少なくとも故人を忍ぶぐらいの気持ちが持てるのに。それを出来ず、トウカにとって無慈悲な言葉を言う。
「な、なんでそんなこと言うの……?」
「ウキキッ!! ヴィギィキキ!!」
トウカは信じられないと言ったようにこちらを見て。
猿の賢獣達はこちらを敵視したように威嚇を始めていた。
それでも私は冷めた目で見続けている。
ーーー何を言ってるのあなた達。トウイチロウはもう死んでしまったのよーーー
ーーー私の我が儘からあの人を殺してしまったーーー
ーーー諦めなさいよ。どんなに泣き叫んでも変わらないことがあるのよーーー
ーーーあの人が教えてくれた。『中途半端』でも諦めず進むことに意味があるとーーー
ーーー楽なのよ。出来るところまでやって。それで無理なら諦めた方がーーー
ーーーどんなに苦しくても。どんなに辛くても。諦めないで要れば、いつか結果が出るってーーー
ーーーそれで諦めなかった結果がこれよ!!ーーー
ーーーでもまだ誰も諦めてない。諦めているのは私だけーーー
ーーー無理よ! 死んでいるのよ! 生き返らせる方法なんて私は知らない!ーーー
ーーーそれでいいの? あの人が必死で伝えてくれた言葉と思い。貴女は無駄にしていいの?ーーー
「だったら教えてよ! 救う方法を! トウイチロウを助ける方法を!! 誰でもいいわよ! それでトウイチロウが救えるなら! 私は、私の命だって差し出すわよ!!」
私の突然の叫びに皆ビックリする。
トウカは目を丸くしてこちらを見て。
威嚇していた猿の賢獣達すら、その声を止めていた。
だけど私の魂の叫びさえ。誰も答えられる人なんて要る筈なかった。
だって答えられる人はもうーーー
あなたの心の声、確かに聞き届けました。
何処からともなく女性の声が聞こえる。
「だ、誰!?」
「ウキ?」
声の主を探すようにみんな辺たりを探す。だけど見つからない。
女性の声はそんな自分達に構わず続く。
メェ~ディカル。ケミカル。メェ~ディック。
心の叫びを聞き届けたなら。必ずあなたの下へ駆けつけましょう。
声の主は少しずつその声が近づいているような気がした。
そして森の木々を駆け抜けるように薄い紫色した綿毛が飛んできた。
それは私達の直ぐ側で弾みながら着地をすると。綿毛の中から短い手足と愛らしい顔が出てきて。
「お待たせいたしましたですよ。聖なる地の流離いの薬師『メェメェ』、到着ですよ」
くるりん♪ と一回りをして、そう言ったのだった。
暗い話もコミカルに(☆∀☆)




