No.137
しばらくディータ視点です
No.137
「トウイチロウ!?」
「ウキッ!」
トウカと賢獣達の騒ぐ声が聞こえる。
私と一緒に出てきたトウイチロウの姿を見て何も出来ず。私はただその場に呆然と立ち尽くしていた。
至るところに傷があり。特に腹部は背中まで貫通しているのではと言うくらいの大きな怪我がある。
そこから流れる血は地面を赤く染め上げていっていた。
またそれ以上に酷いと見えたのが右腕だった。
右腕は焼け焦げた後のように黒く炭化していて、肩の辺りまで黒く染め上がっていた。
「……あっ…………あぁ……ああ……!!」
声を掛けたくとも声が出ない。口から出るのはただ震えた音のみ。
「トウイチロウしっかりして! お姉さま! トウイチロウがトウイチロウが!!」
トウカが何かを言っている。でも私には、その言葉が何と言っているのか分からなかった。
思考が定まらない。
……私のせいで何でも出来る人が死ーーー
ーーーあれ? そう言えば私、なにやっていたんだっけ?
目の前の光景に見続けることが出来ないで、現実逃避する私を引っ張り上げる声が聞こえた。
「……おい、なに逃げようとしてんだ。……寄り道や立ち止まりは許したが、逃げるのだけは許してないぞ……」
焦点の定まってない目で、でもしっかりとこちらに顔を向けていたトウイチロウがいた。
「トウイチロウ!?」
「ウキッ!?」
「がふッ! あーみんな無事か? ゴホッ! ゴホッ!」
喉に血が溜まっていたのか、咳き込みながら吐き出し。自分の事より周りの事を気にしていた。
「何が無事かよ! あなたが全然無事じゃないじゃない!!」
自分の心に逃げ込もうとしていた私は、トウイチロウの言葉で踏み留まることが出来た。
「あーすまん。お前らが何言ってるか全然わかんねえ、がはッがはッ!!」
「トウイチロウ!?」
「ウキキッ!!」
トウカとサルの賢獣があいつの側によって必死に救おうとしている。
でも私にはわかる。医学も『中途半端』に納めてしまっているから。あれは助からないって分かってしまう。
立ち尽くし何も出来ない自分。
「なにか騒いでんのか、お前ら……はあ、はあ、馬鹿騒ぎは程ほどにしろよ。はあ、はあ、はあ、……それより自分のバックから、ゲホッ! ゲホッ! く、薬を持ってきてくれ…………ゴッホ、ゴッホ」
「なっ!?」
「わかった。お薬だねトウイチロウ!」
諦めてない!? だってあの深傷だよ!? 無理だって、自分だって助からないて分かってるんじゃないの!? 何で諦めないの!?
「不思議そうな顔してんな……別に大したこちゃないさ。はあ、はあ、ふぅ、ふぅ、『諦めたらそこで終わりだよ』って奴だ。……中途半端だろうが…………なんだろうが…………あきら……め……ない…………で……すす……」
「トウイチロウお薬持ってーーーッ!? トウイチロウ!? トウイチロウ! いや、いやぁぁあああああ!!」
薬を持ってきたトウカ。だけどそれを渡す相手がーー。
トウカは泣き叫び。猿の賢獣達は諦められないように、あいつの体にしがみつき訴え続ける。この騒ぎに大人しくしていたのが私と。疲れきって今だ寝ている猫の賢獣だけだった。
「…………何が『諦めたらそこで終わりだ』、よ。死んだら何もかもお仕舞いじゃない。あなた渡界者でしょう。凄い力を手に入れたんでしょう。私にあれだけ言っといて自分は『中途半端』に終わるの…………」
答えなんて返ってくる筈がない。
兄姉とは違い。ダァーファやグレゴールとも違う。
時に私をからかい。私が間違っていると本気で叱り。
そして時に心配もしてくれる。
同い年で、たまに大人のようにも感じ。時に子供のようにも感じる不思議な人。
困難すら何とかしてしまう。物語に出てくる英雄のように何でも出来てしまう。そんな憧れを抱いた人を。
何でも中途半端にしてしまう私がーーーーーー私が殺してしまった。
トウイチロウよ。死んでしまうとは情けない┐(´∀`)┌




