表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/376

No.134

またディータの視点に。





 No.134




 「とっとと来なさいよーーートウイチロウ!!」


 振り絞るように声を出した。

 体が半分以上を取り込まれ。顔までそのブヨとした肉が迫ってきたときに。期待はしていた。でも本当に来るとは思わなかった声が聞こえた。


 「はいよ! お呼びに預かり参上だ! 『煌めけ光弾(タスラム)!』」


 そう声が聞こえたと思ったら。光の軌跡を描く術が私だけを避け。モンスターのみを削り取っていく。

 そしてあっと言う間にモンスターは削り取られ、光となって消えていった。


 「…………すごい……あがっ!?」

 「すごい、じゃないわこの馬鹿タレが! あれほど勝手な行動を起こすなと言ったのにお前は!」


 あっと言う間の出来事に呆気に取られていると。目から火が出るんじゃないかと言うくらいの、ゲンゴツが落ちてきた。


 「うぐぐぅ、でも上に飛んだだけだったのよ」

 「上でも下でも同じだ! あの時あの見える範囲内のみ安全地帯となっていたんだ。そう言っただろうが」


 言ったかしら? ああでもあの辺一帯だけにしろって言ってたような?


 「はあ、説教を続けたいがここも時期モンスターに囲まれる。今日はもう外へ出るぞいいな!」


 思わぬ迫力だったため私は無言で頷いた。

 それにしても呼んで来てくれるなんて……。この人は何でも可能にしてしまうんじゃないかしら。


 「レベルがまた上がってるな。魔力値にまた振っとくか? どうした?」


 私がじっと見ているのが気になったんだろ。ぶつぶつと何かを呟いていたと思ったら、こちらに顔を向けてきた。


 「呼んだら来てくれるとは思わなかっただけよ。まさかとは思うけど。近くで見てたなんて事はないわよね」

 「出待ちなんかするか! こっちは必死に走ってここまで来たんだ。そんな余裕があるか」


 大汗をかいている姿を見ると確かにそうだと分かる。

 でもそんな汗をかいていても。今だ余裕そうなこの人を見ていたせいか、ついこんな言葉がて出てしまった。


 「助からないと諦めていた私を救うことが出来るなんて。あなたは物語に出てくる導き者のように何でもできてしまうのね。……何をやっても中途半端になってしまう私とは大違い……」


 私の言葉に渋い顔をして頭を掻き。そして何やら深くため息を吐いてから、私にデコピンをかました。


 「痛っ!? なにするのよいきなり!?」

 「何を思って要るかは知らんが、自分の能力()なんて万能のじゃあない。確かに何でも出来るように見えるが。実際は自分の持っている(使える)モノを上手く組み合わせて使いこなしているだけだ。そう言った意味じゃ『中途半端』なんて言葉は自分の方にこそ合うぞ」

 「でもあなたは色々なことが出来るわ! 服だって料理だって武器や防具だって作った! そして今だって死にそうになった私を助けてくれた! 私なんか色々なものに興味を持つけど、どれも中途半端にしてしまう! ここへ来たのだってそうよ! ただ興味が出たから来たの! その興味だっていつ別のものに移るか分からないもの! そうなったらまた私は『中途半端』になってしまうわ!!」


 羨ましいとも思った人から『自分は中途半端だ』なんて言葉が出てきたせいで。心の中に溜め込んであったわだかまりが爆発した。

 これがダァーファやグレゴール。兄姉達ならこんな風に爆発しなかったろう。私とは違うと、どこか納得しながら。

 でもこの人は年が同じで。同じ神獣の加護を持って。それからーー

 ああ違う。そうじゃない。嫉妬していたのは確かにそうだ。自分に持っていないものを持っている、この人に憧れてしまっていたんだ。

 そんな人が私と同じように『中途半端』なんて言葉が出てきて。悔しいとも思ったし。聞きたくないとも思った。

 勝手に期待して。勝手に憧れて。その上その人から幻滅させられるような言葉を聞いて。勝手に腹を立てている自分が、なんとも情けなさを感じていた。

 色々な感情が混じり合いどうしていいのか分からず。ただ涙が溢れてきた。


 「言わないでよ……。あなただけは、ヒック…………自分を『中途半端』なんて……ヒック…………言わないでよ」


 困った様な顔しながら私の頭に手を置き。


 「んな事言われてもなぁ。大体人ってのは誰しも中途半端な存在なんだぜ。どんなに凄い技術を持った人がいても。どんなに凄い知識を持った人がいても。その人達はきっとこう言うと思うぞ。『自分達はまだ道半ばだ』ってな。ディータ、お前が『中途半端』だと言うのなら歩き続けろ。寄り道してもいい。立ち止まってもいい。だけど必ず歩き続けろ。そうすればお前もいつかーーーッチ!」


 鋭い顔つきになると、置いていた手を天に掲げ。私が聞いたこともない長い術文を唱える始める。


 「『暗雲広がる我らが道は高く険しく。行く先を阻む敵は、なお勇ましく強く。されど。我らが掲げる(つるぎ)の光は、勝利(栄光)へと続く道標(しるべ)となる。それ故、我らが歩まんとするその意思あるかぎり。その光もまた、我らを照らし続けよう。さあ、共に行こう! その光照らす道先へーーー』」


 長い術文により掲げいた手は光輝く剣ように見えた。

 そしてその手をゆっくりとを振り下ろす。

 真横一直線になった手は行く先を示す標識のように見え。

 ーーーそして。


 「合図をしたら一直線に飛んでいけ、出来るな」


 私の耳元で呟き。私はそれに何とか頷けた。「いい子だ」と言うと。高らかに何かを解き放つように、言葉を紡ぐ。


 「『輝き照らせ(クラウ・)光剣の道標(ソラス)』!!」


 放たれた術は木々を薙ぎ払い。道すらなかった場所に新たな道を作り出した。


 「さあ行け! そして何があっても決して振り返るな!」


 その人は力強く私の背中を押し、その道に送り出すと。そう言ったのだった。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ