No.134
またディータの視点に。
No.134
「とっとと来なさいよーーートウイチロウ!!」
振り絞るように声を出した。
体が半分以上を取り込まれ。顔までそのブヨとした肉が迫ってきたときに。期待はしていた。でも本当に来るとは思わなかった声が聞こえた。
「はいよ! お呼びに預かり参上だ! 『煌めけ光弾!』」
そう声が聞こえたと思ったら。光の軌跡を描く術が私だけを避け。モンスターのみを削り取っていく。
そしてあっと言う間にモンスターは削り取られ、光となって消えていった。
「…………すごい……あがっ!?」
「すごい、じゃないわこの馬鹿タレが! あれほど勝手な行動を起こすなと言ったのにお前は!」
あっと言う間の出来事に呆気に取られていると。目から火が出るんじゃないかと言うくらいの、ゲンゴツが落ちてきた。
「うぐぐぅ、でも上に飛んだだけだったのよ」
「上でも下でも同じだ! あの時あの見える範囲内のみ安全地帯となっていたんだ。そう言っただろうが」
言ったかしら? ああでもあの辺一帯だけにしろって言ってたような?
「はあ、説教を続けたいがここも時期モンスターに囲まれる。今日はもう外へ出るぞいいな!」
思わぬ迫力だったため私は無言で頷いた。
それにしても呼んで来てくれるなんて……。この人は何でも可能にしてしまうんじゃないかしら。
「レベルがまた上がってるな。魔力値にまた振っとくか? どうした?」
私がじっと見ているのが気になったんだろ。ぶつぶつと何かを呟いていたと思ったら、こちらに顔を向けてきた。
「呼んだら来てくれるとは思わなかっただけよ。まさかとは思うけど。近くで見てたなんて事はないわよね」
「出待ちなんかするか! こっちは必死に走ってここまで来たんだ。そんな余裕があるか」
大汗をかいている姿を見ると確かにそうだと分かる。
でもそんな汗をかいていても。今だ余裕そうなこの人を見ていたせいか、ついこんな言葉がて出てしまった。
「助からないと諦めていた私を救うことが出来るなんて。あなたは物語に出てくる導き者のように何でもできてしまうのね。……何をやっても中途半端になってしまう私とは大違い……」
私の言葉に渋い顔をして頭を掻き。そして何やら深くため息を吐いてから、私にデコピンをかました。
「痛っ!? なにするのよいきなり!?」
「何を思って要るかは知らんが、自分の能力なんて万能のじゃあない。確かに何でも出来るように見えるが。実際は自分の持っているモノを上手く組み合わせて使いこなしているだけだ。そう言った意味じゃ『中途半端』なんて言葉は自分の方にこそ合うぞ」
「でもあなたは色々なことが出来るわ! 服だって料理だって武器や防具だって作った! そして今だって死にそうになった私を助けてくれた! 私なんか色々なものに興味を持つけど、どれも中途半端にしてしまう! ここへ来たのだってそうよ! ただ興味が出たから来たの! その興味だっていつ別のものに移るか分からないもの! そうなったらまた私は『中途半端』になってしまうわ!!」
羨ましいとも思った人から『自分は中途半端だ』なんて言葉が出てきたせいで。心の中に溜め込んであったわだかまりが爆発した。
これがダァーファやグレゴール。兄姉達ならこんな風に爆発しなかったろう。私とは違うと、どこか納得しながら。
でもこの人は年が同じで。同じ神獣の加護を持って。それからーー
ああ違う。そうじゃない。嫉妬していたのは確かにそうだ。自分に持っていないものを持っている、この人に憧れてしまっていたんだ。
そんな人が私と同じように『中途半端』なんて言葉が出てきて。悔しいとも思ったし。聞きたくないとも思った。
勝手に期待して。勝手に憧れて。その上その人から幻滅させられるような言葉を聞いて。勝手に腹を立てている自分が、なんとも情けなさを感じていた。
色々な感情が混じり合いどうしていいのか分からず。ただ涙が溢れてきた。
「言わないでよ……。あなただけは、ヒック…………自分を『中途半端』なんて……ヒック…………言わないでよ」
困った様な顔しながら私の頭に手を置き。
「んな事言われてもなぁ。大体人ってのは誰しも中途半端な存在なんだぜ。どんなに凄い技術を持った人がいても。どんなに凄い知識を持った人がいても。その人達はきっとこう言うと思うぞ。『自分達はまだ道半ばだ』ってな。ディータ、お前が『中途半端』だと言うのなら歩き続けろ。寄り道してもいい。立ち止まってもいい。だけど必ず歩き続けろ。そうすればお前もいつかーーーッチ!」
鋭い顔つきになると、置いていた手を天に掲げ。私が聞いたこともない長い術文を唱える始める。
「『暗雲広がる我らが道は高く険しく。行く先を阻む敵は、なお勇ましく強く。されど。我らが掲げる剣の光は、勝利へと続く道標となる。それ故、我らが歩まんとするその意思あるかぎり。その光もまた、我らを照らし続けよう。さあ、共に行こう! その光照らす道先へーーー』」
長い術文により掲げいた手は光輝く剣ように見えた。
そしてその手をゆっくりとを振り下ろす。
真横一直線になった手は行く先を示す標識のように見え。
ーーーそして。
「合図をしたら一直線に飛んでいけ、出来るな」
私の耳元で呟き。私はそれに何とか頷けた。「いい子だ」と言うと。高らかに何かを解き放つように、言葉を紡ぐ。
「『輝き照らせ光剣の道標』!!」
放たれた術は木々を薙ぎ払い。道すらなかった場所に新たな道を作り出した。
「さあ行け! そして何があっても決して振り返るな!」
その人は力強く私の背中を押し、その道に送り出すと。そう言ったのだった。




