No.127
No.127
「遅いわよ! 何してるの!」
フクロウ姿のディータが少し腹を立てながら、大八車の前で待っていた。
「ここの管理をしてるユニ子に挨拶をして来るって言ったろ。それにそんなに待たせてもないだろうが」
「管理? ここの聖地ってどこの国も管理してなかった筈よ?」
「国の管理じゃない。この土地に元々住んでる賢獣が、それぞれの土地に別れて管理をしてるんだ。ピンクサルやトラさんもそうだぞ。最もきちっと管理してるかは知らんけどな」
「へえーそうなんだ。聖地に住める者ぐらいにしか認識してなかったわ。それで、管理って何やってるの?」
「さあな。その辺は自分も良く分からん。ただ居るだけって言うのもあるし。庭いじり自分の好きなことをしているだけ、って言うのもあるみたいだけどな」
「あなた本当に便利ね。賢獣の生態なんて殆ど知らされていないのに。でも今日はそっちの知識を深めるのはあとよ。それでどこに門があるのかしら」
そわそわとしながらあちこちに顔を向け、門を探す。
遠足を前にした子供かお前は。一応注意はしておくかな。まったく自分は引率の先生か。
「門に入る前に全員に言っておくが。門の中での勝手な行動や、門の中にある物に無闇に触らない。危険な物や事があったらすぐさま知らせる。良いか必ず守れよ、分かったか」
トウカやトラさんは素直に「はーい」と、返事をして。
ピンクサル達は「飯があっても手を出しちゃダメか?」と聞かれたから、自分の判断を仰いだ後なら構わないと伝えた。
そして一番注意をしなきゃいけない人物はと言うと。
「あなたの指示にしたがってたら、好きに調査できないじゃない!」
主にお前に言ってんだよ。
護衛対象があちこち行かれたら大変だろうが。
大体お前は門の中が危険な場所だって理解してるのか?
幾らこの間自分が相手した、カエルモドキが弱いと言っても。数で来られたら対処の仕様がなくなるんだよ。
だから来る前に個人の能力と多人数相手に、どう動けるかを判断していたんだが。そこの超~足手まといさんは、自分で対処できると言うんですか? 多人数を相手できますか?
「くぎゅ……じゃあどうやって調査したら良いのよ」
脅威となる敵の排除をしながら周囲の安全確認。調査に関してはその範囲内で行い。対処不能な状況に陥ったら、即座に撤退。その場合、その時に手に入れた物などは全て破棄。安全第一が最優先だ。それが出来なきゃ帰るぞ。
「…………少しでも調査はできるのよね」
「ああ、問題無ければ範囲を広げても良い。その辺は融通利かせてやる」
「なら良いわ……言うこと聞く」
渋々と言った感じにしているな。
目の前にご馳走があってそれを食べれないなんて事になったら、ピンクサル達なら暴動を起こすレベルで言っているんだからな。それを渋々でも了承しただけまだましかな。一応は目を離さないでしておくか。
「それじゃあ各自、自分達の装備が問題ないか、最終確認したら出発するぞ」
「おーう」とそれぞれ声をあげ、互いの装備を確認しあう。
さて自分も支度をするか。
「トウイチロウ、確認し終わったよ」
「にゃーん」
「「「「ウキッー! ウィキィー、ウキキィーウッキキー!」」」」
「終わったわよ」
「もう少し待ってくれ。こっちもすぐ終わる」
やっぱり向こうの方が確認だけだから早いな。
一部変なのが混じってけど。……対処出来る範囲で頼むぞ。
さて待たせるのも悪い。こっちも確認してしまうか。
木のヘルメット、OK。木の軽装鎧、OK。バックパック各種中身、OK。ウェポン、石槍、石斧、′弓と矢×二十本、石のナイフ×十本、木の丸盾全部OK。
「よし、準備完了」
「随分と重装備ね」
準備の様子を見ていたのか、そんな事を言ってきた。
自分の思い通りに動けないせいもあるのだろう。少々膨れっ面のディータの頭に手を置き。
「護衛として約束したからな。守ると決めた以上はそうする。だからお前も無茶な行動は控えてくれよ」
「……わかってるわよ」
下を向き頷くディータ。
おっ? あれだけ言ったから少し落ち着いたかな。
熱が上がりっぱなしで行動されるよりは、良くはなったか。
「それじゃあ『異界の門』へ、行ってみようか」
自分の案内の下、何の植物かは知らないが。互いに絡み付いて出来たアーチ型の門の前に来た。
「ここがそうだ。自分が先頭で入るから。その後虎丸。トウカ。ディータ。そしてピンクサル達の順で入ってくれ」
全員頷いたあと、ピンクサル達に最後尾を頼むと言うと。
「後ろは任せろ!」「ああ必ずお前の後ろを守ってやる!」「だから後ろの心配はするな」と、お前ら『後ろ』、『後ろ』と連呼するなよ。別の事に聞こえてくるだろうが。
ピンクサル達に言われた訳ではないが、何となく尻を押さえながら門を潜る。
その後も言われた通りの順番で潜ってくる。
そしてしばらく歩くと。
「ここが、異界の門の中……なのよね?」
「お外とあまり変わらないね」
二人は門の中に入ったわりには、景色の変わらなさにがっかりした様子だが。しかしピンクサル達やトラさんの様子がおかしかった。
「うにゃにゃーん」
「ウキッ。ウィキィィイイ……」
「ウッキキッーウキキッー!」
「ウィキィーウィイキィイイ!!」
それぞれが威嚇するように周りを見ている。自分も慌てて【地図記録】を開き確認する。
「これは……!?」
「なに、どうかしたの?」
「どうしたの? トウイチロウ」
絶句する自分に二人が走ってこちらに近づいてくるが、それを止めた。
「二人とも下手に動くな。そして全員、ゆっくりと密集する様に集まれ」
自分の言葉に素直に全員従い集まる。
「賢獣達の様子がおかしいから周りを調べたら、この辺一帯モンスターだらけになってやがる……」
「モンスターだらけって……至って静かな森って感じだけど」
確かに見た目はな。何処かに隠れているのか。擬態してまちかまえているのか。それとも様子を伺っているのか。どれにしても【地図記録】で確認できる範囲だけでも百は下らない数がいる。
さていきなりトラブルだぞ。この状況じゃあ撤退したいんだが。
チラリとディータを見る。
「帰るなんて言わないでしょうね」
そう言ってくるディータ。
……だよな、入って直ぐこれじゃあ無理だよな。それなら対処するしかないんだが。
「トウカとディータは攻撃用の術が使えるか?」
「ううん、トウカ教えてもらってないからムリだよ」
「私は少しは使えるけど……」
「単発型か? 範囲型か?」
「……あえて言うなら設置型ね。上手くすれば複数いけるわよ。それより本当にモンスターがいるの?」
相手が見えないせいで半信半疑なディータ。
自分の能力で分かると言っても、理解されなきゃ意味がない。さてどうするかと悩むと、トウカがディータを説得した。
「お姉さま、トウイチロウが言ってることは本当だと思うよ。虎丸やおさるさん達もみんな周りを気にしてるよ」
トウカにそう言われ賢獣達を見るディータ。
それぞれが頻りに顔を動かし、周りを警戒しているのを見て。初めて言っている事が本当だと理解したみたいだ。自分の言葉はそんなに信用できないか?
それからディータはこちらに詰めより。
「ちょっとどうするつもり!? ここまで来て何もせずに帰るなんて嫌よ私!」
わかってるよ。こっちはそれを必死に考えてんだかな。本当は帰りたいんだぞ、こっちは。
「虎丸が風の魔法を使えるのは知ってるが、ピンクサル達はどうなんだ?」
「ウキキィー」
「付与か。虎丸は範囲攻撃って出来るか?」
「うにゃにゃ~ん」
直線型か。
そうなると自分以外は範囲攻撃が出来る者が居ないってこと!? マジで! 自分が頑張るしかないってことじゃないですか! あー本格的に帰りたくなってきた。
すいませーん。頭痛が痛いので帰っていいですか?
「ウキウキ?」
分かってるよ。わざと言ってるんだよ。それぐらい帰りたいってことだ。




