No.125
No.125
緑色に髪を半分だけ染め上たディータが、厳かな感じに言葉を紡ぐ。
「『我は乞い願う。大地に在りし植物よ。その持てる力、我が力と供に合わせ。如何なる外敵からも侵入を許さぬ、尖塔の防壁を築け』
幾分中二臭いが、あれでも意味はあるとの事だ。
『我は乞い願う』は「これから自分が力を使いますので、よろしくお願いします」の意味との事。
まあ、これには殆ど意味はないとの事だが、常套句の様なものらしい。
次に『大地に在りし植物』は「どこどこの植物さん、よろしいですか?」と、声を掛けるようなものとの事だ。これは対象の指定文らしい。
そんで次の『その持てる力、我が力と供に合わせ』は強化の文。
前の文で指定した相手の持つ力を、自身の魔力で強化すると言う意味。
ただしここの文は、目的によっては言葉が変わるとの事だ。
そして最後の『如何なる外敵からも侵入を許さぬ、尖塔の防壁を築け』は、まあ分かりやすいな。その指定した相手に、どう言った目的のモノを作って貰いたいかを具体的に説明したものだ。
そして言葉を紡いだあと。ディータの足元より生えた植物がディータを囲むように、細かい網目状の円錐型に近い物を作りあげていった。
それを見ていた周りの連中は「おお~」と小さな歓声を上げ。さらにそれを聞いたディータは「ふふん」と、胸を反らした。
「ん、(パリッ)終わったのか(パリッパリッ)?」
「終わったわよ! 人が術を披露してるのになに食べてるのよ!」
「いやー(パリッ)ジャガイモが(パリッ)あったから。久しぶりにポテチが食べたいと(パリッパリッ)思ってな。作ってみました(バリッ)」
「食べるのをやめなさいよ! って言うか私にも残して置きなさいよね!」
作り上げた防壁から手が出せずにいるディータ。
ミカンを入れる編み袋(正式名称は知らない)並みの穴が出来ているため。互いの様子は確認できるが、中からも手が出せないために悔しがっていた。
移動が出来ない設置型か。その上、防壁として築き上げたら。それ以外の応用が利かないと。防御面ではどうだ。
テニスボールサイズの光の玉を二十ほど作り。防壁にぶつける。
「きゃっ!? ビックリするでしょう! って言うか何であなたはそう、術文を唱えず術が使えるのよ! 卑怯よ唱えなさいよ」
ふむ。一応光の玉一発分で、軽いデコピンからもみじ手が出来るぐらいまでの威力が出せるんだが。
それを連続二十発ぶつけても何ともないか。圧縮玉ならどうだろうか?
同じように光の玉を二十ほど作り。それを一つにぎゅっと纏めると。光の玉の光量が上がる。
それを見たディータは少しビビりながらも。
「な、何をするか知らないけど。グレゴールの一撃だって止められた防壁よ。何をしても無駄なんだから」
お、新しい人名だな。誰かは知らんが、余程の人物みたいだな。
この圧縮玉だと、大体自分が本気で殴ったのと同じぐらいの威力がある。
それをディータへと放つ。相変わらずスピードはそれほど速くならないが、防壁に接触した瞬間。
ドンッ! と言ったやや鈍い音が鳴った。
植物自体にも変化はなく。ただ中に居たディータだけが、驚いた顔をして防壁の中でヘタリ込んでいた。
「は、はは、ど、どう、何ともないでしょう」
声が震えてるぞ。しかし今ので傷一つ、へこみひとつ出来ないか。防御面はそれなり、と。
「確かになかなかだな」
「そうでしょうそうでしょう! さすが私よね。惚れ惚れするわ」
もっと称えなさいといった感じに、鼻高々になっていた。
「その状態で攻撃とか出来るのか?」
「え? え~と……」
はい出来ないと。そうなるとあの防御の術はーーー
「百点中三十点ってところかな」
「何が三十点なのよ?」
「その術の完成度としての点数だが?」
「どうしてよ!? あなたの攻撃だって完璧に防いだじゃない!?」
しょうがないのでディータに分かりやすく、何処が駄目なのかを説明していく。
まずは、設置型と言うことだな。これ自体が駄目と言う訳じゃないんだが。逃走など移動する場合。多少防御力が落ちたとしても、自分を起点にした範囲型の方が何かと便利だ。まあ範囲型じゃなくてもいいけど、動けると言うのがいい。
さらにこの術は攻撃が出来ないから、固定砲台としても使えない。ただ守るだけになってしまう。
そうなると自分の機会を作る以上に、相手にも機会をを作る時間を与えてしまう事になる。真っ向の対峙をしている時には特に使えない。
ああでも籠城とかだったら使えるな?
「……え? そうよね、使えるわよね、この霊術、じゃなくて魔術」
いいから聞けよ。長い説明なんだから。
次に植物を使うことだな。これもこのファンタジー世界じゃあ一概に言えないが。火の術を使われたら終わりじゃないか?
「私の力で強化してるから普通の植物より耐火性はあるわよ」
まあそりゃあるか。だけどその火を撃ち続けられていたら。周りの酸素がなくなって酸欠になって死ぬぞお前。例え火じゃなくても水は毒物とかは、幾ら細かい網目でも通すだろう、それ。
「うぐぅ……なんでダァーファが居ないのに、ダァーファのお説教聞かなきゃいけないのよ……」
何処のたい焼き好きのお嬢さんの口癖だよ。
あと、お前普段からその人に説教とかされてたのか? その人も苦労してたんだろうなと思うと、涙が出てきそうだよ。
ハァ、それでなによりこの術には大きな欠点がある。それが三十点にした大きな理由だ。
「……なによ、大きな理由って」
お前本当に分かってないで聞いてるのか? だとしたらさらに点数下げるぞ。
この術の一番の欠点。
それは形だ。『円錐形に近い形をしている』。
そう近い形をしているだ。
円錐は円錐なんだが、どちらかと言えば富士山の形と言えば分かるだろうか。ああ言う形ってなんて言うんだけか? まあいいや。
それで植物は頂上の先端まで伸びきらず。途中で止まっているから。上から見ればポッカリと穴が開いているよう見えるだろう。
なのでこの術は、横方向からの攻撃には強くとも。地中は、分からないが。少なくとも頭上からの攻撃には無防備をさらさなければならない。
「う、上からの攻撃なんて来るわけないじゃない」
ほー。ならばご用命に預かり。術文とやらを唱えてやろう。ええっとこんな感じか。
「『我は乞い願う。天上に輝く綺羅星よ。その光、我と供に力を合わせ。天より降り注ぐ雨粒の如くーー』」
ディータの頭上に雨粒のような幾つもの光の玉が生成される。
「ちょっ!? 待ちなさい! それは卑怯よ!」
そんなの知らん。自分の未熟さを甘んじて受けろ。
「『ーーー彼の者に降りしきれ』」
その言葉を言い放つと、光の雨がディータへと降り始めた。
「痛い! いたたたたたたッ!!」
安心しろ。武士じゃないけど武士の情けで、威力は軽いデコピンにしてある。
だがこれでディータの事が分かった。
ディータは足手まといから、超~足手まといにクラスチェンジさせなければならないと言うことが。
「ハァ、自分一人で行けば何とでも為るのに、あれ? 自分のポテチは?」
近くに置いておいた皿の中に手を入れれば、ポテチが入っておらず。周りに聞けば。
「「「「ウキキー。ウィキィー、ウキキッ。ウキウキ!」」」」
そう返事をするピンクサル達がいて。
「おさるさんが欲しそうにしてたから、トウカがお返事しておいたよ。それとこれはお姉さまの分だから食べちゃダメだよ、トウイチロウ」
そう返してくるトウカもいました。
「……………………自分のポテチ」
空になった皿を見つめる、涙目の自分。
「いたたたたたたッ! ちょっといい加減光の雨止めなさいよ!!」
その中、牢獄の中からディータの悲鳴がいつまでも続いていたとさ。
「変なこと言ってないで早く止めなさいよ!」




