No.119
No.119
「さてと。馬鹿話しは終わった。今度は夕食の準備を始めなくちゃな」
向こうの地獄絵図と化しているのは放って置き。昼に採ってきた野菜を選びながら何を作る考える。
「トウイチロウ何するの? トウカもお手伝いするよ」
「にゃーん?」
トラさんをモフっていたトウカが自分のところへやって来た。
トラさんに至ってはまだモフられ足りないらしく。残念そうな声を出す。
「夕食作りを始めるんだが何が良いかな、と」
「トウカはなんでも良いよ」
何でも良いよは、世のご飯作りの人を一番悩ませる言葉なんだぞ。
「そうだな……醤油が出来て、味噌っぽいのも少し出来たんだよな。米粉もまだあるし。きりたんぽみたいにしてみるか」
「決まったの?」
「ああ、トウカ達には申し訳ないんだが。また米粉をこねて貰ってーー」
「こねれば良いんだね分かった」
「ちょっと待ってくれ」
そう言って米粉のところへ行こうとする一旦止めて。竹串を持ってきて。それを何本か渡す。
「これは?」
「今度は練って出来たら物を、竹串に付けるようにしてくれ」
「う~ん、分かった。虎丸また手伝って」
「にゃーん」
トウカは竹串を持ち。トラさんを連れて、先程と同じように米粉をこね始めた。
「それじゃこっちも始めるか」
こちらは野菜を切り煮るだけでいいので簡単だ。
そうしていると正気に戻ったのか、ディータがこちらにやって来た。
「あなたまた何か作っているの? 暇なの?」
失礼な、暇じゃない。自給自足で暮らしている身としては。一日の大半は食材集めに奔走することになる。
集めた食材だって生のまま食べれる物がある訳じゃない。
結局調理と言う過程が入るために、更に時間を費やす事になる。
更にここで旨いものを食べたいと思えば、調理する時間は更に増えていき。結果一日中食事を作るはめに為ることだってあるんだ。
ディータにそんなことを話しても。
「ふーんそうなんだ。それよりどうして賢獣と話せるかを教えなさいよ」
それには興味が無いとばかりに、自分の興味のある話をし始めた。
適当な話で切り上げても良いんだが、嘘だと分かるとあとでうるさそうだし。かと言って本当のことを言えば、どうしてそんなことが出来るんだと、更に追求してきそうな気がするしな。面倒臭い女だ。
「ちょっと教えるって約束でしょう」
「分かったから調理中に服を引っ張るな。台所は危険なものもあるんだ、危ないだろう」
自分にそう言われ服を引っ張ることを止めたディータは「なら早く教えなさい」と、薄い胸を張る。
「自分が渡界者と言うのは言ったな」
「ええ聞いたわ。この世界とは違う別の世界から来たのよね。その世界の事も今度詳しく知りたいわ」
好奇心旺盛なのは良いんだがな。話す方の身にもなってくれ。
「それでその渡界者が、なにか関係があるの?」
「あると言えばあるな。この世界に渡界者の情報について知ってる者が、どれだけ要るか分からないが。渡界者の情報を教えてくれた者によれば。渡界者は世界を越えるとき、自ら望んだ力を得られることがあるそうだ」
「そうなの!?」
少し言葉が違うが、ステータスの説明文にも同じようなことが書いてあったし、問題ないだろう。
「じゃあ、あなたは賢獣と話せる力を望んだってこと?」
賢獣は地球には存在せん。
二次元の世界にはいくらでも居そうだが。
それと望んだ力が入るかもだぞ。「私も世界を越えれば……」っ的な考えは止しておけよ。
「……それも含めてと言ったところか」
「まだ何かあるってことね。それも教えなさい」
まったく今は調理中だと言うのに。
仕方がないので薪用の木を一本手に持ち。【木材加工】を使い。加護状態のディータの姿を削り作った。
「ほらよ、こんな感じに物が作れる」
「ああトウカが言っていたのはこれの事。それにしてもなんで鳥人族? 誰か知り合いなの?」
「お前だお前。それは加護中のお前の姿だ」
「え″っ!? これが私の姿!?」
……お前な、また美少女が出してはいけない様な声を出すなよ。
ディータはそのまま自分が作った木像を、穴が開くほど眺めていた。
「ウキ」
ディータの相手が終わったと思えば、今度はピンクサルがやって来た。
どうやらディータに譲って貰っただんごも食べ終わって、皿が空になったから持ってきたようだ。
「ん? お前は別の奴か。サルバトールはどうしたんだ?」
自分がそう聞くと、皿を持ってきたピンクサルはあるひとつの方向を指差した。
そこにはシクシクと泣き崩れているサルバトールの姿があった。
せっかく譲り貰ったのに食べることなく泣き崩れていたのか。
まあ今回の事はあいつには良い薬になったろう。なのであのまま放置でも構わないな。
人を呪えば穴二つ。いやこの場合は因果応報か。これで学んでくれれば良いんだがな。
「そう言えばこの世界には七つの言語が主流なんだよな」
木像を今だ眺めているディータに聞く。
「え? あ、うんそうよ。それがなに?」
「いやな、ひとつ気になったんだが。賢獣ってどこの言語でも通じているのかなって?」
「一応、各国で見つかる賢獣は、その国の言語をで話しても。何かしらの受け答えはしてくれるって聞いたことがあるわよ。どうしても気になるならあなた自身が聞けば良いじゃない。と言うか私も気になるから聞いてちょうだい」
やぶへびだった感じだな。ディータの知的好奇心を煽った形になってしまった。
まあ自分も気になったのでピンクサル達に聞いてみると、分かると返事が返ってきて。何故分かるんだと聞くと。
「ウキ?」「ウキィ?」「ウキッ。ウキィ」「ウキッー!」
ニューゲームか? ハァ、もう一人に聞いてみるか。
「うにゃーん」
つまり相手意思を何らかの方法で読み取っていると。だから人の言葉、と言うより意思は理解できても。賢獣側からの意思を相手に伝えることができないと。そう言うことですか。
「にゃーん」
確かにそれならば複数の言語があっても関係ないか。
「とまあ、そんな感じだとよ」
「あなたじゃないのよ、分かるわけないでしょう! ちゃんと説明しなさい!」
面倒臭いな。いいじゃん不思議現象で。世の中分からない方がロマンを感じないか。まあそれを見つけるのもロマンを感じるけどな。




