No.118
No.118
だんごを譲渡して貰うため、ピンクサルがディータへと立ち向かう。
「ウキッ!」
気合い十分なピンクサル。
「ウキ~」「ウィキィー」「ウキキ?」
などと応援をしているピンクサル達。最後のは多分違うと思うぞ。
そしてディータの前まで行ったピンクサルが突然科を作り。媚始めた。
「ウキ、ウキキィ~」
「おい、それを自分に言わせる気なのか?」
「え? なに? 何って言ってるの?」
大体お前ら普段そんなしゃべり方じゃないだろう。
明らかにディータの琴線に触れるような言葉を選んできたなこいつ。
「ウキウキ」
ものすごくしたく無いんだが。急かすピンクサルと何を言ってきてるのか聞きたがるディータに挟まれ。最早自分は無我の境地が悟れるんじゃないかと言うぐらい、心を無にした。
「アノネ、オネエチャンニオネガイガアルノ」
「ぐぁはぁ!?」
自分が行った言葉に、強烈な何かを受けたかのように胸を押さえたディータ。
「はあ、はあ、あなたが言っているとは言え。日に二回も『お姉ちゃん』って呼ばれるなんて………………何て今日は素敵な日なのかしら」
大丈夫かこいつも、色々と……いや会ったときからこいつはダメだったな。
そしてその後も媚だピンクサルの言葉が続くが、もう自分が言っているとは思いたくないので。ここからはピンクサルが言っていると思って聞いてくれ。
「僕ね、その食べ物。お姉ちゃんが食べないならほしいなって思うんだけど、ダメかな?」
「ぐふっ! 食べ物? でもこれは私の分で、私もお腹すいてるし……」
「お腹……そうだよね。お姉ちゃんもお腹が空いているもんね。お腹が空く辛さは僕もわかるから……ごめんなさい、無理言って。その食べ物はお姉ちゃんが食べて。……僕は我慢するから」
ピンクサルは涙を見せ、それを拭う仕草をする。
ああ演技派だなこいつ。おっと、心を無に、無に、ムニ、ムニ……。
「ああぁぁ……私を姉と慕ってくれる子がお腹を空かせて要ると言うのに。私はあの兄姉共と同じ様な過ちを……。あの日私は誓ったはず、弟妹が出来たら『慈愛の守り手ディータ』として慈しもうと……。ああ、私の方こそ駄目な姉でごめんなさい。私は弟妹に、辛い思いをさせる姉で居たくはないわ」
ディータはピンクサルの頭を撫で、またピンクサルもディータに撫でられたことに嬉しそうな顔をしていた。
ディータは撫で続けながらも、自分が食べていただんごの皿をピンクサルの方へ寄せる。ピンクサルも皿とディータを見比べ。
「本当に良いの、ディータお姉ちゃん?」
「っぐぅううう。…………ええ、良いのよ。持っていきなさい」
ピンクサルの『ディータお姉ちゃん』が効いたのか、ディータは自らの股をつねり。慈愛に満ちた表情だけは変えることなく。ピンクサルに答えた。
ピンクサルは差し出された皿を受けとり、自分に確認のアイコンタクトを寄越す。
一応当人同士での受け渡しの受諾がされているので、自分に確認を求める必要はないのだが。自分以外での食べ物の受け渡しなどなかったから、ピンクサルもこれで大丈夫かとの確認だろう。
自分が軽く頷くと、今まで媚びた顔をしていたピンクサルは劇画風な顔と化し。手のひらを返すような態度をディータに取った。
「いつまで触ってるんだ、このメスがぁあ!」
バシッンと撫でられていた手を打ち払い、暴言を吐くピンクサル。
「え? え!?」
困惑するディータにピンクサルは更なる暴言を吐く。
「さっき自分の飯をかっさらった怨みは、これで済んだと思うなよ。この〇*♂ゑ@(通訳したくもないので好きな言葉を入れくれ)がぁああ!!」
打ち払われたまま呆然とするディータを他所に、ピンクサルは仲間達の下へと戻る。
そして見事だんごを持ってきたピンクサルを称えていた。
「おお良くやった!」「他人から奪うのは初めてだな!」「これで自分達はまだ食べられる!」
「……………………」
そろそろ通訳も良いだろ。
それといまだ呆然としているディータに種明かしと言うか、説明ぐらいはしてやるか。
「普段のピンクサル達は気の良い奴等だが。こと食べ物に関してのこいつらは、ああ言う奴等だ。ピンクサルの言葉じゃないが。さっきお前は、あいつら用の食べ物をつまみ食いしたからな。相当な怨みを持たれていたぞ」
そんな自分の言葉に、いまだ体勢を変えることなくピンクサルを見続けていたディータは、突然ぶわっと、涙を流し。
「いいのよ。『お姉ちゃん』と呼ばれたんだから。例え種族が違っても。騙されたとしても。『姉』の私はあの子達が辛い思いをしてなければ、それを見守り育むのが勤めなのよ。今の私はお腹が減っていたとしても、胸はいっぱいなのよ」
人が良いと言うかなんと言うか。
若干心配になるところはあるが、『慈愛の守り手』と言う二つ名に関しては認めても良いだろう。
それに引き換えこいつは。
「ウキキ」
ディータが譲ってくれたと言うのに、調子にノリまくっているな。
大体自分は誠意ある言葉にしろと言ったのに。誰が人の弱みをついた言葉にしろと言った。まったく、少し痛い目を見させるか。
「ああ中々の手腕だったな。そんなお前をみんなで称えなければ。ええっと、名前はなんて言ったかな?」
「ッキ!? ウ、ウキウキィ……?」
自分の言葉に先程まで天狗となり。はしゃいでいたピンクサルが、石化したように固まり。ギギギッと音が立つんじゃないかと言うくらいの動きで、こちらを向いた。
「いやあ、そんなわけにはいくまい。自分以外の人間から交渉して初めて譲り受けた食料だ。その手腕をみんなで称えるのは当然だと思うが。そうだろ、お前たち」
「「「「ウキ! ウィキィ!」」」」
「ウキ? ウキ?」
自分の言葉に賛同する他のピンクサル達。
「ほら、みんなもこうして言ってくれてる。英雄の名前が分からなければ称えることも出来ないだろう。で、何て名前だ」
「ウキ? ウキ~キキィ?」
「ウキッ? ウキキィ……」
往生際の悪い奴だ。他人の名前まで使って誤魔化したいか。
「やれやれ、どうやら英雄さんは恥ずかしがり屋のようだ。トウカ、このピンクサルの名前は?」
「ウキッ!?」
「うん? その子? その子はねーーー」
「ウキキッ!」
「ーーーサルバトールだね」
「ウッキィィイイイ!!」
誤魔化そうとしていたピンクサルの名前をトウカから聞き出す。
それを阻止しようとしたピンクサルだが、トウカの方が名を告げる方が早かった。
トウカに名付けられた名前を暴露されると、聞きたくないと言うように耳を塞ぎ、地面に伏した。
だがこの程度では仕置きにならない。更なる追い討ちを掛ける。
「さあみんな、名前が分かった英雄を称えようではないか。サルバトール! サルバトール! サルバトール!」
自分が腕を振り上げ、声を上げ名を叫ぶと。続けてピンクサル達も称えるように声を揃え、高らかに名前を叫んだ。
「「「「ウキキッ! ウキキッ! ウキキッ! ウキキッ! ウキキッ! ウキキッ! ウキキッ! ウキキッ!」」」」
「ウキィー! ウィキィィイイイイイ!!」
素直にくれとでも言っていれば、こんな事には為らなかったんだ。自業自得だ、今度はきちっとした交渉の仕方を心がけろ。
「今日の事は一生忘れないわ、私」
感無量といった感じで、自分より悟りの境地へと至っているのではないかと思われるほどの笑顔を見せるディータ。
その笑顔、菩薩の如き笑顔だと言うことは認めよう。
ただなあ、鼻から垂れている真っ赤な水はどうにかした方がいいぞ。美少女と言うレッテルを台無しにする絵面だ。
この絵面を見ていると。ディータの弟妹を思う気持ちは、シスコンだからなのか。それともショタコンやロリコンだからなのかが分からんな。
「あれ? トウイチロウもう終わったの?」
端で見ていたトウカが聞いてくるので。
「ああ、終わったよ」と疲れきった言葉で返すと。
「そうなんだ」と周りを見回してから。
「おさるさんもお姉さまも、なんだかみんな元気で楽しそうだね。虎丸」
「うにゃ~ん」
などと呑気な言葉が更に返ってきた。
元気で楽しそうか…………。自分には地獄絵図にしか見えないんだがな。この状況。
「「「「ウキキッ! ウキキッ! ウキキッ! ウキキッ!」」」」
「ウキィー! ウィキィイイイ!!」
「うふふ、お姉ちゃん。お姉さま。ああ、たくさんの弟妹達が、私を呼んでいるのが聞こえてくるわ!」
…………ほら見ろ。これを地獄絵図と言わず、何と言えと言うんだ。




