No.106
No.106
「ふぅ、結構刈り取ったか。トウカー疲れてないか?」
一時間位経った頃だろうか。
近くで作業して要る筈のトウカに声をかけると。トウカは作業をしておらず、何やら空を見ていた。
何か有ったのかと思い、トウカに近寄り聞くと。
「あのねトウイチロウ。あそこにね、大きな鳥さんが要るの」
トウカが指差した方角を見ると、フラフラと鳥(?)ぽいのが飛んでいた。
「なんだ、ありゃあ?」
少しずつ近付くにつれ。その輪郭がハッキリしてくると。鳥と言うより翼の生えた人間のように見えた。
「あーなんだろう。なんか厄介事が来たような気がする」
おいおい。昨日の今日だぞ。立て続けすぎないか?
もう少しのんびりさせろよ。
「トウカ、虎丸。作業一旦中止。ピンクサル達にも集まるように言わなきゃなーーー」
危険がある相手だとは思いたくないが、用事に越したことはないからな。
そう思ってピンクサル達の方へ行こうとすると。
「あっ!? トウイチロウ! 鳥さんが落ち始めた!」
「ーーーなに!?」
慌ててそちらの方を見る。
鳥人間はフラフラ飛んでいた筈が、意識を失ったのか。まっ逆さまに落ちてきた。
「くっ! ここからじゃ間に合わん! 虎丸!」
「にゃーん」
ここん所万能を見せてくれたトラさんからの否定の声。
「落ちちゃうよ~トウイチロウ~」
トウカの焦る声。
分かっては要るが、実質距離がありすぎる。到着した頃には潰れたトマトを見ることにな。
それに例え間に合ったとしても救出手段がーー。
そんな自分でさえ見ていることしかできない状況のなかで。
聖地の守護者。
穀倉地帯の救世主が砂塵を巻き上げ。雄叫びを上げながら現れた。
「ブモォォオオオオ!!」
白と黒のツートンカラーの体に銀の魔力を纏い。落ちてくる鳥人間に向かい。懸命に走り続ける穀倉地帯の見張り番、ランボ。
その走りの勢いを殺すこと無く、鳥人間に向かい大ジャンプをする。
その人形のような体躯で、人間サイズの鳥人間を見事空中キャッチ。
着地も無事成功し、両名とも無事の様だ。
「おおぉぉ!!」
奇跡の救出劇を目の辺りにして、思わず拍手が出た。
「おっと感心してる場合じゃなかった。自分は行ってくるから、トウカは虎丸と一緒にいるんだ」
トウカは一瞬来たそうにしていたが、自分が強く言ったためその場に残った。
相手が危険人物かまだわからないからな。
それがわかったのか。トラさんはトウカの頭にかけ登ると。一声鳴き、「まかせてー」と言っていた。
自分はそれを聞き頷くと、直ぐ様ランボの所へ走り出した。
ランボの所まで走りより。落ちてきた人(?)を見れば、やはり人の姿をした鳥の様だ
「お見事でした。自分も気づきはしたのですが……」
「ウモ」
ランボは手を振り、これが仕事だと言わんばかりの態度だった。
言葉が分からなかった時も感じていたが。こうして言葉が分かるようになると、より一層ストイックさが伝わるな。
ランボは鳥人間を地面にゆっくりと置き、怪我が無いか確かめていた。
自分もランボの邪魔をしないよう鳥人間を観察する。
身長は百三十ぐらいか? 羽毛があったりするから、もしかしたらそれ以下かも知れないが。
それからその羽の色だが、全体的に薄緑色をしている。
顔の部分には人の顔ではなく鳥の顔があり。なんかフクロウのような顔つきをしてる。
翼は背中にあるタイプではなく。両腕が翼のようになっていて、それで羽ばたくタイプのようだ。
服装は軽装。と言うより布巻いた程度の服とも呼べない物だ。
きっと飛行するのに出来るだけ軽くした結果が、これだったのだろう。
そしてその服装から分かることだが、どうやらこの鳥人間。女性のようだ。
「他は手荷物らしいものも無しか……。あれも見当たらないな」
「ウモモ」
ランボの触診も終わったようだ。
「お疲れ様です。すいません、自分からは見えなかったのですが。その方が腕輪の様な物をしていませんでしたか?」
「ウモ? ウモッ」
やっぱり持ってないか。
となると、知らずに聖地に突っ込んできた馬鹿か。加護者と呼ばれる者のどちらだけど。前者はあり得ないな。苦しんでる様子も見られないし。
取り合えずランボに聖地で倒れている者が要る場合、知り合い以外はどうしているのか聞くと。通常命がある場合は、聖地の外へ持っていき、そこへ置いてくるそうだ。
そして命が無い者の無い場合は、あの巨大な大穴へと放り込むそうだ。
そうだよな何でも消え去るって事は、手間要らずって事だしな。墓なんかいちいち作ってたら大変だ。
「ウモウモ。ウモッ!」
うーん、どう考えても厄介事案件な気がするし。このままランボに任せて、自分達は家に帰るかな。って、えっ!? 帰っちゃうの!?
ランボは「まだ見回りがある」と言って行ってしまった。そんなストイックさは今は要らないよ。カムバックー! ランボさーん!
走り去っていくランボを見送ったあと、鳥人間の方を見て。
「……このまま置いて帰ったら、味悪いよな、やっぱり……」
知らない人間とはいえ、それはないよな。
聖地の外ってどの辺だろう?




