No.104
No.104
「はあぁッ!? ティグリスに頼んだ!?」
昼を取りながら、自分が居なかったときの事をトウカやピンクサル達に聞いた。
「ティグリスって昨日居た、やる気の無さそうな褐色肌の兄ちゃんだろ? よく頼めたな……」
寝ること以外興味無さそうだった人物が、よくそんなことに協力してくれたものだ。
「「「「……ウキキ」」」」
ピンクサル達のたった一言の言葉。
その言葉にどれだけのモノが込められているのか思わず涙が出そうだった。
だって、いつもなら食べ物がなくなるか。自分達の腹が満たされるまで食べ続けるピンクサル達が。その食を一時中断するほどの出来事だったのだから。
自分で頼んでおいてなんだが、気の毒なことをさせてしまったと後悔が出てきた。
「そいつはすまなかったな。…………食いかけだが、食うか?」
「「「「ウキ! ウィキィー!」」」」
食べかけの野菜炒めを差し出した瞬間。先程の消沈した姿はどこへやら。いつも通りの欠食児がそこには居た。
自分の皿を奪い合うように貪り食うピンクサル達。
(ああなんかこう言う光景、テレビで見たこと有るな)
危険動物がエモノを食らう光景に似ているな、うん。
あのまま手を皿から離さなかったら一緒に食われていたかもしれない。
「……まあ何にしてもトウカはここから出ていっても平気ってことなのか?」
「うん、平気だよ。あのね、さっきもおさるさん達と一緒に、川原の向こうの方で遊んでたんだよ。ねーおさるさん」
トウカが同意を求めようとするが、食事に集中しているときの奴等は、基本耳をこちらに傾けないぞ。
「そうか、危ないことをしてなければ構わないが」
「そうだ、トウイチロウ。おさるさん達の名前って何て言うの?」
「ピンクサル達? ええっと確か…………四尾猿だったぞ」
いつもピンクサルと頭で思っているから、中々名前が出てこなかったな。
しかしトウカはどうやら種族的な名前を聞きたかったようではないようだ。
「ううん、そうじゃなくてね。この子達一人一人の名前」
「そういやぁ、聞いたことがなかったな。どうなんだお前ら?」
名前を呼ばなくても平気だったしな。
で、件のピンクサル達を見ると。
「「「「ガツガツ! ガツガツ!」」」」
うん。見事に聞いちゃいねぇ。
仕方ない、先に風天虎に聞いてみるか。
ピンクサル達とは違い、トラさんは黙々と焼き魚を食べていた。
「お前さんの方はどうだい。個人名みたいなのはあるのか?」
「うにゃ。にゃーん」
そう言うと、また焼き魚を黙々と食べ始める。
見た目通り完全に猫だな。
「無いそうだ」
「う~んそれだと誰を呼んで言いかわからないよ。そうだ! トウカが名前を付けてあげる!」
名案とばかりに手を打ち。食事の手を止めう~ん、う~ん言いながら悩み始めた。
「名前もいいが、きちんと食事をとらないと午後も留守番させるぞ」
「はあわわ!? 食べる! 食べるからトウカもちゃんと連れてって!」
名付けで考えていたトウカに食事を取るように促す。
幾ら少食とは言え。体調が可笑しくないのであれば、きちんと食事は取らなくては。でないと、残すのであれば自分が食べると。目を光らせていたピンクサル達に横から掻っ攫われるぞ。
さて、それはそれとして。自分の食事はどうしよう……。ピンクサル達にあげてしまったから、自分の分がもうない。
「……生で食える野菜、持ってきてたけ?」
昼も少食だとちょっとキツイ……。あっ、大根があった………………いけるか?
因みに大根は甘味があって美味しかった。ピンクサル達も食べたそうにしていたが。余程の理由がない限りは、食材に手を足すべからずと、強く言ってあるので手は出してこなかった。
ただ口では「食わせろ~食わせろ~」と言ってきたが、もちろん無視した。
☆★☆★☆
「う~んう~ん。じゃあ君の名前は猿太郎ね。で、君の名前は猿田彦。それで君の名前がサルバトールね」
「ウキ……!?」
「ウキー」
「ウキッ!? ウキキィー!?」
一匹一匹に付けるつもりなのだろうか。トウカはピンクサル達一匹づつ名前を与えている。
中には変なのも混じっているが、数が多いからその辺は仕方がないか。
「お前さんも名前を付けて貰って良かったな。虎丸」
「うにゃーん!」
トラさんは虎丸と付けられいたくご機嫌だ。
初めは虎丸ではなく猫丸と付けられそうになったが、トウカに猛烈抗議してこの名前になった。
見た目は猫みたいなのに『猫』と言われるのが余程嫌みたいだ。
「名付けはその辺にして、午後の食料集めにいこうか」
「猿和田に、君は猿渡、あっはーい。トウイチロウまってー!」
「ウキッ! ウキキィ、ウィキィイイーー!」
哀れ。他のピンクサル達は大体漢字名で付けられたのに、一匹だけカタカナ名。
うん。今日から自分もお前の事だけは、『サルバトール』と呼んであげよう。
「ウキィィイイーーー!」




