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追放された生活設計士、何もない辺境で村づくりを始めます 〜ひとりで始めたはずが、気づけば人が増えていた〜  作者: 結城ヒナ


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第40話 いない一日

 朝、ユウトは荷をまとめていた。


 多くはない。

 水筒と、簡単な食料だけだ。


「本当に行くんですか」


 ロウが少しだけ不安そうに聞く。


「半日だ。日が沈む前には戻る」


「理由は?」


 エリナの問い。


「南の水路の確認。

 放っておくと、いつか詰まる」


 嘘ではない。

 だが、それだけでもない。


「今日は、俺はいない」


 静かに告げる。


「基準はある」


 ロウが小さく笑う。


「覚えてます」


「忘れたら、板を見ろ」


 ミルナが短く言う。


「……行け」


 ユウトは頷き、森の道へと歩き出した。


 背中が見えなくなるまで、誰も動かなかった。


 やがて、エリナが言う。


「作業は通常どおり」


「はい」


 ロウは少し深呼吸してから動き出す。


 午前中は穏やかだった。


 畑は問題なく、保存棚も安定している。


 だが、昼前。


 二人組の男が現れた。


「ここが余白の村か」


 声は荒くないが、遠慮もない。


「泊まりたい」


 ロウが一歩前に出る。


「日帰りのみです」


「食料は払う」


「生活を削る取引はしません」


 男の一人が眉をひそめる。


「余裕あるだろ」


 保存棚を見る。


 ロウは一瞬だけ迷う。


 だが、板の言葉が頭に浮かぶ。


 ――止まれなくなるな


「今日は、無理です」


 エリナが補足する。


「基準です」


 男たちは顔を見合わせる。


「責任者は?」


「いません」


 ロウは答える。


「今は、全員です」


 沈黙。


 やがて男は肩をすくめた。


「……本当に、選ぶんだな」


「はい」


 男たちはそれ以上食い下がらず、去っていった。


 ロウは息を吐く。


「……少し、怖かった」


「迷った?」


 エリナが聞く。


「少し」


「でも、止まった」


「止まりました」


 午後、畑に戻る。


 誰も、声を荒げない。


 誰も、誇らしげでもない。


 ただ、通常作業に戻る。


 夕方。


 ユウトが戻ってきた。


 焚き火の前に座り、三人を見る。


「何かあったか」


「泊まり希望が二人」


 エリナが簡潔に答える。


「断りました」


「理由は?」


「止まれなくなる可能性」


 ユウトは、少しだけ笑った。


「それでいい」


 ロウが言う。


「正直、あなたがいない方が緊張しました」


「それが普通だ」


 ミルナが火を見つめる。


「……でも、壊れなかった」


 ユウトはゆっくりと頷く。


 今日、彼はいなかった。


 それでも、基準は守られた。


 村は回った。


 夜、焚き火を囲む。


「確認は終わりだ」


 ユウトが静かに言う。


「何の?」


「この村が、俺なしで続くかどうか」


 ロウが笑う。


「続きます」


 エリナも頷く。


「原則がある」


 ミルナが短く言う。


「……残る」


 火は穏やかに揺れている。


 余白の村は、

 今日、本当に“自立”した。


 それは派手ではない。


 だが、静かに、確実に、

 次の段階へ進んだ証だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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