第38話 決めない日
昼過ぎ、通り道から声がした。
「誰かいるか」
落ち着いた男の声だった。
ユウトは家の前に出ようとして、足を止める。
「今日は、俺は出ない」
三人が同時に振り返る。
「……え?」
ロウが目を丸くする。
「基準は、ある」
ユウトは静かに言う。
「判断は、任せる」
エリナは一瞬だけ考え、頷いた。
「分かりました」
ロウは少し緊張した顔で前に出る。
ミルナは森の縁へ移動し、外の気配を見る。
現れたのは、荷を背負った中年の男だった。
「水と、少しの食料を分けてほしい」
声は丁寧だが、疲労がにじんでいる。
ロウは一呼吸置いてから答える。
「量は決まっています」
男は頷く。
「泊まりは?」
エリナが聞く。
「しない。日没までに出る」
ミルナが小さく首を振る。
「嘘、ない」
ロウは保存棚を見て、一瞬迷う。
――生活を削るな
――止まれなくなるな
――選べ
――囲うな
昨日の板の文字が頭に浮かぶ。
「分けます」
量を決め、渡す。
男は深く頭を下げた。
「ここは、ちゃんとしているな」
それだけ言って去っていく。
ユウトは家の影から一部始終を見ていた。
夕方、焚き火を囲む。
「……どうだった?」
ユウトが聞く。
「基準どおりです」
エリナは簡潔に答える。
「生活は削っていません」
ロウは少し苦笑する。
「正直、迷いました」
「どこで?」
「もう少し、あげたくなった」
その正直さに、ユウトは頷く。
「それで?」
「止まりました」
ミルナが短く言う。
「……囲わなかった」
沈黙のあと、ユウトは静かに言う。
「合格だ」
「試験だったんですか?」
ロウが笑う。
「違う」
一拍置く。
「確認だ」
エリナが火を見つめる。
「いなくても、回る」
「回るな」
ユウトは頷く。
今日、彼は何も決めていない。
だが、村は崩れなかった。
それどころか、少しだけ強くなった。
判断が共有されるとき、
村は人ではなく、基準で立つ。
余白の村は、
今日、初めて“自力で判断した”。
火は静かに揺れる。
ユウトはその揺れを見ながら、思った。
これは、もう俺の場所ではない。
俺たちの場所だ。
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