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アイラブ☆吾が君  作者: 白亜凛
運命の糸のゆくえ
27/57

妹がほしい18

 

 次の朝、洸は少し遅れて朝食の席に着いた。


「おはようございます」


 飛香はすでに食べ終わり、リビングで紅茶を飲んでいる。


「おはよう」


 チラリと飛香を見た洸は、眩しいものでも見たように目を瞬く。


「大丈夫ですか? あまり眠れなかったとか?」

「うん、ちょっとね。慣れない格好をしたせいかな」

 そう言いながら、脳裏に浮かんだのはワンピースの中の飛香の体で、洸は頭痛がする思いで額に手をあてた。


「昨日渡すのを忘れた。飛香、これもプレゼント」

「え? プレゼント、ですか?」


「開けてごらん」


 早速、中の箱を取り出して開けた飛香は、満面の笑みで驚いた。

「シンデレラの靴!」


「履いてみて、サイズは一昨日買った靴と同じだから合うとは思うけど」

「はい」と頷いた飛香が早速履いてみれば、案の定サイズはぴったりだ。


「すごいーー! すごい素敵です。でも私にはこの素敵な靴を履く機会があるかなぁ? あ、そうだ、洸さん結婚式には私も兄と一緒に呼んでください。そうしたらこの靴が履けます」


 ようやく立ち直ろうとしている睡眠不足の頭を、ゴンと叩かれたように洸は一気に不愉快になった。


「だったら、その靴を履いて、僕の隣に立ってみる?」


 ――え? 僕は今、何を言ったんだ?


 飛香はツツツと洸の隣に来て並んだ。

「うふふ。どうですか?」


 洸は、飛香の前に移動すると、飛香の手をとって片膝を床についた。


 そして飛香の手の甲にそっとキスをする。


「とても素敵ですよ、お姫さま」


 今日は洸の母も帰ってくる。夕べの電話で母が、今夜は飛香を連れてオペラを見に行くと言っていた。『オペラに履いていったらいい、パーティだってこの前のように碧斗に連れられて参加することだってあるだろう?』

 そう言おうとしたが、なぜだか口は鉛のように重たく言葉になって出ることはなかった。


 スッと立ち上がった洸は、そのままリビングを出た。


 扉の手前に立っていたアラキに、「お姫さまごっこだよ。また寝るから昼まで起こさないで」そう告げた。


 ――全てが悪夢だ。

 だけど大丈夫、もう一度寝て目覚めれば、すっかり消えているに違いない。


 そう思いながら洸は軽く頭を振った。


 カチャっと小さな音を立て、廊下に出た洸に、アラキは何も言わなかった。朝食は念のため部屋に届ければいい。そう思いながら、少し不思議そうにもしくは不安そうに洸の背中を見送っている飛香に、ニッコリと微笑みかける。


「紅茶をもう一杯いかがですか?」

「ありがとうございます。本当に、みなさんによくして頂いて、なんとお礼を言ってよいか」


「いえいえ、飛香さんがいらして邸に花が咲いたようだと皆も喜んでいます。もちろん私も」


 飛香は少し困ったように微笑んだ。今は全てを取り繕うような無邪気な笑顔は作れない。


 ――ここで起きたことは何なのだろう?


『だったら、その靴を履いて、僕の隣に立ってみる?』

 西園寺洸はどういう意味で、あんなことを言ったのだろう?


 まるで何かを刻む烙印のように、洸の唇の感触が手の甲に残っている。


「少しホームシックになってきました」

 ついそんなことを言ってしまうほど、早く家に帰りたいと本気で思った。


「子供みたいですよね、すみません」


「お茶、わたしもご一緒させてもらってよろしいですか?」


「あ、はい、もちろんです」


 最初からそのつもりだったのか、トレイには予備のカップが既にある。飛香の向かいに腰を下ろしたアラキは、そのカップに紅茶を注いだ。


 そして少しだけ身を乗り出し、声を落として言った。



「誰にも言いません。もちろん西園寺家の人々にも。教えて頂けませんか? 飛香さんの身に、本当は何があったんです?」

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