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キミのタマはボクのモノ 巻の二  作者: しかも・かくの
第一章 由々しき病と麻太智の試練について
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第十四回

 顕成(あきなり)の伏す室には闇が(わだかま)っていた。

 元よりとっくに日は落ち、昼間の光は失せている。

 だがそのような常の暗さとは異なる不吉な影が、壁や床一面にべったりと張り付いているかのようだ。

 麻太智(またち)は病人の傍らに座した。まるで石像のように精気のない体のうち、そこだけ別物のように見開かれていた眼が、ぎょろりとこちらを向く。

「あ、荒城殿! 何をなさるおつもりですか!?」

 麻太智が太刀を抜くのを見て、寝床を挟んだ反対側で顕光(あきみ)が悲鳴じみた声を上げる。

「御安心を」

 抜き身の刀を麻太智は構えることなく、ただ静かに己の膝の上に置いた。

「顕成様を害しようというつもりはありません。あくまで万一に備えてです。顕光殿の身は私が全力で守ります。どうか信じてください」

「荒城殿が、私を……」

 麻太智が真っ直ぐに視線を向けると、顕光はもじもじと面をうつむかせた。もしも明るい場所で見れば、赤く上気しているのが分ったかもしれない。

 麻太智は嘘はつかなかった。が、考えを全て口に出したわけでもなかった。

 顕成を傷つけるためではなく、顕光と清乃きよの、そして自身を守るためなら、刃を振るうことを厭いはしない。麻太智は武人である。いつでも人を斬る覚悟はできている。

内侍(ないし)殿」

「はい」

 麻太智に促され、清乃が朱色の持ち手のついた鈴を取り出す。

 微かな響きが室の中を震わせる。闇が身動いだような気が麻太智はした。

 (あま)(すず)だ。

 (あお)(きみ)が所持する霊宝である。隠世(かくりよ)の清浄なる気を励起し、以って現世(うつしよ)の邪悪なる気を縮退する力を持つという。

 今の清乃の内には君の霊力の一部が宿っている。鈴を鳴らし、顕成の魂を揺り動かすことができるはずだ。

 清乃は目を瞑った。細く長く息をすることを繰り返し、やがてそれが絶え入らんばかりに静まった頃、おもむろに鈴を振るう。

「ぐぅっほっ」

 咳とも空えずきともつかない異様な声が顕成の口からほとばしり、体が弓のように反り返る。

「父上っ!」

 顕光が腰を浮かせた。取りすがって押さえつけようという格好だが、麻太智はすかさず押しとどめた。

「落ち着かれよ!」

 武術の遠当てにも通じるような、気合のこもった発声だ。顕光はあえなくその場に尻餅をつく。

「下がっていなさい。おそらく、もうすぐだ」

 抜き身の太刀の柄に手を添え、顕成を麻太智は見遣った。

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