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第十八話:決意の夜明け


「うっひょい!俺の勝ち〜〜!!」

「フライングしてなきゃ僕が勝ってたよ!」


食堂までのレースは、どうやらアーサーが勝ったらしい。

トーマはその勝敗には不満気な様子だ。


「はーっやっと追いついたわ……あっ、なんだかいい匂いがする〜」

「ふふ。少し冷めたから、すぐに温め直すね」

「私も手伝うわ!」


遅れてきたシャロンとユーリンも食堂にたどり着き、二人はスープを用意するために厨房へと向かった。


「ほんとにいい匂いがするなぁぁ〜〜もうお腹ペコペコだ〜!!」

「そういえば常備用のクラッカーがあったので、僕取ってきますね」

「おう!俺も手伝うぞ!!」


皆はそれぞれに分かれて、夜食の準備を進めた。






そして、4人が食堂のテーブルに集合し、夜会は始まった。


夜食はシャロンの作った具だくさんな海鮮スープと、船に常備されているクラッカー。


「うわぁっシャロンのスープ美味しい〜〜!」

「本当に。お料理上手なんですね、シャロンさんって」

「さっすがシャロンだなぁ!!」

「そんなじゃないよ…っ」


シャロンは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯く。


彼にも食べさせてあげたかったなぁ……なんて、考えは振り払って。


「ねぇ、シャロンさん、ユーリンさん。今までどんな所を旅してきたんですか?僕、聞きたいです!」

「ふふ、そうねぇ〜」

「よぉっし俺の出番だな?!!よーーく聞けトーマ!今から俺様の数々の武勇伝をーー」

「アーサーの話はいい」

「あれ、トーマさっきから俺の扱い酷ーー」

「どっから話そうか?ね、シャロン」

「うん、じゃあ…私たちが冒険を始めたのはね……」



それからしばらく、食堂から聞こえる4人の楽しそうな話し声が途絶える事は無かった。






これまでの旅路、訪れた街、食べたもの、戦った敵……これまでのたくさんの想い出の数々を、3人はトーマに語った。


トーマはその全てを、目を輝かせて聴いていた。



「……っでね、その時のアーサーったらもうーー」

「違うぞーユーリン!あの時はーー」


シャロンは隣に座るトーマに目を向け、微笑んだ。


「楽しいね、トーマ君」

「はい…!皆さんの話が面白くって…」

「うん、良かった…!じゃあーーー今度は、トーマ君の番、ね?」

「……はい。全部、聞いてくれますか?」

「もちろん!ね、二人とも」

「私もトーマの話、聞きたいなぁ!」

「どんと来い、だ!!」

「…うん、それじゃあーー」



ーートーマが初めて語った、自身の過去の話。

3人はその話をただ静かに聞いていた。




数年前のこと。



トーマは人間界で大切な家族と暮らす、ごく普通の子供だった。


船乗りの父に、料理上手な母、そして可愛い妹。

トーマはそんな家族の事が大好きだった。


そして、船乗り一家である父の家系を継ぐべく、トーマは幼い頃からよく父と一緒に船に乗っていた。


船の操縦の仕方、航海図の見方、地形、天候、海に住む生物の知識。

トーマは幼いながらも様々な海の知識を父から学び、一人前の船乗りを目指していた。



そんな平和な生活が続いた、ある日の事。




この日もいつものように父と海に出ていた。


しかし、昼過ぎになると天気が急変。

突然の嵐が父とトーマの船を襲った。


ひどい雨風に、揺れ。


陸に近づくこともままならず、とても危険な状態だった。


「トーマーーー!!!」

「父さんっ!!!」


それまで何とか持ち堪えていた二人の小型船だったが、一際大きな荒波と暴風雨に耐えきれずに、転覆。


トーマは海に落ち、波に揉まれながらも意識を失った。









「おーい。君、大丈夫かい?」


「……う…?」


どこからか声が聞こえ、ふいに意識が戻る。


「おーい?生きてるかい?」


「……ん、うう…」


重い瞼を無理矢理持ち上げる。


どこだ、ここは…?


僕は、死んだ…のか?


「なんだ、生きてるじゃないか」


「……?」


先程から声のする方にゆっくりと視線を移すと、そこには爽やかな笑みを浮かべる、一人の青年。


「あ…あなた…は…?」

「僕はセイン。よろしくね」

「こ…こは……」

「魔界だよ?」

「ま…かい……?」

「そう、魔界。」


魔界……?


そんなもの、あるわけがない。

よく見れば月の色も海の色も、少しおかしい。


ああ、なるほど…


「…僕、死んだんだ」

「ねぇ僕の話、聞いてた?」


うわの空のトーマに、セインと名乗った青年は続ける。


「ここは、魔界。天国でも地獄でもないよ。君は生きてるんだから」

「……??僕はどうして、そんな所へ…?」

「さぁ…?どうしてだろうね。」

「じゃあ、元の場所へ帰るには…どうしたら?」

「ごめんね、僕もよく知らないんだ。」

「……。」


この男の表情は読めない。

今のは本心?いや……


「それより、君。何か特技はあるのかい?」

「…え、特技?どうしてそんな事ーー」

「ここで生きていくために必要だからさ」

「……」


少し不審に思いながらも、答える。


「……船、かなーー」

「船?君、船の操縦が出来るの?小さいのにすごいなぁ。」

「うん…」


そういえば、一緒に居た父は無事だったのだろうか。周りを見る限り、ここに居たのは僕一人だったようだけど。


それを知る術は、今は無い。


「そうだ、じゃあ君に船を一隻プレゼントするよ。最低限の生活も保証してあげよう。」

「船を…?」

「そう。元の世界へ帰る方法が分かるまで、君はその船で暮らせばいい。その代わりーーー」


ほんの少しだけ変化したセインの表情に、トーマはぞくりと背筋に悪寒が走るのを感じた。


「この魔界に生きている限り、君には、魔王の手下として、協力してもらうよ」

「ーーーっ」


トーマはセインを前に、声を発することが出来なかった。

ただ彼の冷たい瞳を見つめる。


この男の助けがなければ、僕のような人間はこの世界では生きていけない。

言葉で語らずとも、彼の瞳が確かにそう語っていた。


トーマには、彼の要求を飲む以外に、選択肢は無かった。


こうしてトーマは、この魔界で船乗りとなった。


そしてトーマがセインの正体を知ったのは、それよりもずっと後だった。











「……それで、僕は…」

「そっか…」

「こんな小さい子まで魔王の手下にするなんて…やっぱりあいつって最低ね」

「安心しろトーマ!!俺たちが華麗に魔王をやっつけて、お前も一緒に元の世界へ連れて帰ってやるからな!」

「うん、ありがとーー」


話がひと段落すると、トーマは大きく一つあくびをし、うつらうつらし始める。


「トーマ君、眠そうね」

「んー…」

「もう遅いものね」


急激な睡魔に襲われたトーマは、とうとう堪えきれなくなったのか、そのまま机に突っ伏して静かに寝息を立て始めた。


シャロンは近くに置かれていた毛布を、眠ってしまったトーマの肩にそっとかけてあげる。


「…トーマ君、寝ちゃったね。」

「トーマの奴、疲れてたんだな〜!俺も眠いー」

「じゃあそろそろ、解散にーー」




「………っねぇ、二人とも。待って。」




シャロンは、何やら思いつめた様子で口を開いた。


「…シャロン?」


「……最後は、私の、番。だからーー」


シャロンは胸の前で拳をぎゅっと握りしめ、ゆっくりと息を吐く。

その手がひどく震えていた事に、二人が気づかないはずは無かった。


シャロンは少しずつ言葉を紡ぐ。


「だからーーーっ聞いて、くれる?…私の……っ私と、クラウドに……あの時何が、あったのかーーー」


シャロンは顔を上げ、真っ直ぐに二人を見つめた。その瞳に迷いはなかった。


「…分かった。話して、シャロン」


アーサーは俯いたままであったが、ユーリンはシャロンの目を見つめ返し、ゆっくりと頷いた。


シャロンはユーリンに頷き返すと、ぽつり、ぽつりと語り始めた。


二人と離れた後に起こった出来事、とった行動、セインの攻め口、そして、彼のーーークラウドの語った言葉、一言一句を思い出して。


アーサー達の元へ戻るまでの全てを、シャロンは二人に語った。


「…っそ、れでーーーっ……」


とうとう泣き出してしまったシャロンに、ユーリンは目を向けられなかった。


アーサーは珍しくも、俯いて押し黙ったままである。

ユーリンは優しくシャロンの肩に触れた。


「…もう、いいよシャロン?」

「ごめ………っ私……」

「………。」



重い沈黙。

直後、その沈黙は思わぬ一言によって破られた。




「…あっ、悪ぃ、俺ちょっとトイレ!ずっと我慢してたんだよー」



「えっ?!ちょっと、アーサー!!」


突然顔を上げたアーサーは、ユーリンの制止に見向きもせず、そそくさと食堂を出て行ってしまった。



「もう…あいつこんな時に、何考えてるのかしらーーー」


ユーリンはアーサーの出て行った扉から視線をシャロンに戻した。


それに気づいたシャロンは涙を拭い、笑顔を浮かべてみせた。


「ふふ、アーサーらしいね?」

「そう…だけどーーー」

「辛い話をして、ごめんね…。でも、聞いてもらえて良かった」

「そうだね…。話してくれて、ありがとう、シャロン」

「うん、それじゃあそろそろ、部屋に戻ろっか」

「…そうね!私、トーマを部屋まで運んでから戻るわ。シャロンは先に戻ってて!」

「うん、分かった」


ユーリンはトーマを起こさないようにそっと抱き上げると、そのまま食堂を出て行った。


一人取り残されたシャロンは、テーブルの上に残された食器と鍋を片付け、テーブルと床を綺麗に拭き上げた。


「アーサー…」


アーサーはまだ戻らない。


しばらく食堂で帰りを待っていたシャロンだったが、とてもじっとしていられずに、食堂を飛び出した。




シャロンは船内を一周した後、甲板にたどり着く。


ーー嵐は去ったようだ。


先ほどの嵐が嘘のように、空にはいつもの赤い月と、それを覆うようにたくさんの星がその周りで輝いている。


嵐の後だからだろうか、今日の空はいつもよりも雲が少なく、星がより輝いて見えた。


ーーそろそろ夜明けの時間だろうか。


…と、言っても魔界に夜明けが来ることは無いのだけれど。


不意に甲板の先に立つ人影が視界に入り、シャロンは立ち止まった。


そのどこか寂しげな背中に、シャロンは声をかけるのを躊躇ったが、ここに無言で立っているわけにもいかない。


「アーサー」

「…あっ、シャロン?!何だ?お前も眠れないのかー?俺もトイレでスッキリしたら妙に目が冴えちゃってさぁ〜。さっきまでは眠かったのに、おかしいよな!」


アーサーの浮かべた取り繕ったような笑顔に、シャロンは少し俯く。



「……アーサー、ごめん、ね…」


「なっ…何の事だー?!俺は謝られるようなことされてないぞ?!……さては、昨日俺が冷蔵室に隠していたプリン食べたのってーーー」

「アーサー」

「……。」


アーサーの表情が、ほんの一瞬だけ翳る。


「あっ…あぁ……!そういえば俺、さっきめちゃくちゃ眠くってさ〜〜実はシャロンが話してる途中で寝ちゃった!崖から落ちたって話あたりだったかなぁ?ほんっとごめん!怒ってる?」

「……っ」



嘘。


アーサーは確かに話している間ずっと、俯いていた。けど。


アーサーの目が、私が話をする前とは明らかに違っていたことには、私だけでなくユーリンも気付いていたはず。


落ち込めば落ち込むほど口数が多くなるのも、アーサーの癖。


…そもそも、私が背後に立った時点で、普段のアーサーなら気付くはず、だからーー。



「……そっか。ううん、いいの。」


シャロンはそう言って、笑顔を浮かべた。


そのまま二人でしばらく、星を眺める。






「…ごめんな、シャロン。」







不意にアーサーがそう溢した。


驚いたシャロンは慌ててアーサーに視線を移す。





「俺、何もできなかった……」



「アーサーは……っ!!」



咄嗟に出かかった言葉は、それ以上は続かなかった。


ーーだって、アーサーが…

あまりにも悲しい顔をしていたから


それに、私にアーサーを慰める資格なんて、無い。


だって、だってーーー

私だって…いや、私こそ何もーーーっ


直後、泣き出しそうな顔で俯いてしまったシャロンの頭に、アーサーが優しく触れた。


「…ごめん。俺、アイツがいなくなって、ちょっと弱気になっちゃった……不安にさせたか?」


シャロンはふるふると首を横に振る。




「……じゃあ、もう泣くのは、これで最後にしような」



その言葉に、弾かれたように顔を上げると、アーサーと真っ直ぐに目が合った。その直後ーー

堪えていた涙がシャロンの頬を伝った。


彼の瞳も、いつもより明るい空のせいか、はたまた別の原因か、ほんの少しだけ輝いているように見えた。



「……アーサー、私ーーーっ」



伝えるべきか悩んだクラウドの言葉。


ずっと伝えたかった、私の言葉。




ーー駄目だよね。




アーサーを想う、たった一人の大切な友人のために。

何より、私をあんなにも想ってくれていた、彼の気持ちを裏切らないためにも。




…この想いは、胸にしまっておかなくちゃ。




「ううん、やっぱり何でもない」


喉まで出かかった言葉を飲み込み、代わりに笑顔を作った。



その後、少しの沈黙の後ーー




「……アイツは、絶対生きてるよな」



アーサーがぽつり、と呟いた。

まるで自分に言い聞かせるようにーー


「…うん。私は、信じてるよーー」


「俺も、信じるぞ…!!」


アーサーはパッといつもの笑顔を浮かべた。シャロンもまた、それを見て嬉しそうに微笑む。


「頑張ろうね、アーサー」

「おうよ!」


二人は拳を打ち合わせた。


その顔にはもう迷いはなかった。




























その様子を甲板の入り口付近から見ていたユーリンは静かに俯き、表情を翳らせていた。


鳳月でございます。

色々ありましたが、これでスッキリ再出発!…ともいかなさそうな人もいますが、さてどうなる勇者パーティ?!


次は由豆流のターン!乞うご期待!


誤字脱字の指摘、感想のコメント等々いつでもお待ちしております!!

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