02-12:いのーぶ入部試験
今更だけどスマホ推奨。
疑問なんですけど、なろうってパソコン読みが主流なんですかね? 自分は普段スマホ基準で書いてるので、文字の並びが変わるパソコンだとこの作品見づらいんじゃ疑惑が最近芽生えてきたところなんですよね……
まぁ、気にしないって方も気にするよって方も、今後とも私の作品をよろしくお願いします。
実は真宵のせいで早帰宅週間になっている王来山。しかし、そんなことは知らんとばかりに、子供たちが世間の平和を守る為に作られた異能部は活動する。
否、しなくてはならない。
……が、今日は空想が出現する予兆もなく、上から犯罪捜査の補助や異能犯罪者の捕縛依頼も来ていない。異能部的には、平時よりも穏やかな日であった。
そんな異能部は今日、新しい部員を迎え入れる……
「これより、望橋一絆の入部試験を行う!」
───為の、入部試験が始まろうとしていた。
異能部部室棟。他の部活動とは優劣を付けられる程差異のある、様々な施設が一つに併設された場所。
地上三階地下二階の、計五階建て巨大施設である。
基礎体力を鍛える為のトレーニングルームや、畳が敷かれた受け身訓練場、肺活量を鍛える為に作られた屋内プール、ドミナ謹製の試作回復装置が置かれた医務室、客人を招く応接室、寝泊まりができる仮眠室、身体の汚れを落とせるシャワールーム、今までの活動記録が全て置かれた資料室、元ハッカーが居座る引きこもり部屋、副部長が司令塔をする為の部屋等……
最早部活動の枠組みを超えた施設がてんこ盛り。
これも全て、アルカナ皇国を守る主戦力であるからこそである。
そして、これだけの施設を与えられる程、異能部は危険な仕事が多く、多くの人民から期待されている。
「君も既に知っての通りだと思うが、もう一度私自ら教えておこう。私たち異能部は便宜上学内の部活動と同じ扱いを受けているが、その実態は政府直轄の戦闘部隊だ。活動内容は多岐に渡るが、その全てに戦いの要素がある故、どうしても命の危機が常に付き纏う」
部室棟地下二階。道場のような内装の訓練場にて、二人の人影が向かい合う。
片や、竹刀を床に突き、異能部の理念を語る撫子。
片や、緊張した面で説明を聞き、頷く異邦の青年。
異能に目覚めたばかりの青年、望橋一絆が異能部に入部する為に、部長である神室玲華と対峙していた。
上層の観客席は、既に複数の人影が座っている。
真宵を含めた異能部他部員、特務局から審査の為に寄越された燕祇飛鳥と、他捜査官。そして、学院に在籍する教職者数名。二十にも満たない観客が、二人の言動に意識を向けていた。
無数の視線を受けながらも、二人は物怖じせずに、入部試験を目前にした談話を続ける。
「……もとより、君には前線に出てもらうつもりなど毛頭なかった。保護対象として、私たちが君を守り抜くつもりだった……のだが」
玲華を含めた異能部総員の心配な想いとは裏腹に、彼を、望橋一絆を巡る事態は急転した。例の騒動にて、同行していた部員二人の不注意により空想生物との戦闘に巻き込まれた彼は、何の因果か未知の異能を発現してしまった。
それ故に、彼をただの保護観察対象にすることはできなくなった。
それは、彼自身の確固たる決意とは関係なく……
「アルカナ政府上層部───円卓会は色々ときな臭くてな。君の異能発現を知った瞬間、掌を返すように望橋一絆を異能部入りさせろと命じて来たんだ」
「……そう、なんすか」
「あぁ。無論最初は私も抗議したが……」
そこで言葉を遮り、玲華は凪いだ瞳で一絆を見る。
ただ、ただそこには───彼の決意に敬意を表した戦士の炎が、静かに揺らいでいた。
「君は戦うと望んだ。だから抗議を取り消して、君の受け入れを最優先したよ。
……本当に、あの時は驚いた」
ほんの数日前を懐かしそうに想起しがら、新日本の平和を背負う女傑は、ほんの少し異能を出力する。
それだけで、玲華の雰囲気がガラリと変わる。
皆を率いる女傑から、天を駆け地を征する荒々しい英雄の様へと。
「まったく、人の可能性は無限大だね。胸が鳴るよ」
静寂が広がる戦場に、空気が痺れる音が鳴る。
「……さて」
空気が変わる。彼女の気迫が、空間を塗り替える。
「説明するまでもなく君は理解してくれるだろうが、最後に警告しておく。これから私は君を試す。全霊をもって私に、私たちに力を見せてくれ」
竹刀を掴む両腕に、力が周り、紫電が迸る。
「それと私は優しくない。君をダメだと思えば、国の方針に逆らってでも君を落とす。無論、挑戦は何度でも受け入れるつもりではあるが……」
美しい青色の髪が、静電気に煽られ逆立つ。
一連の流れは、彼女の、神室玲華の異能を知らない新参者である彼向けた……
異能力が───【雷】の力だという開示。
手加減に手加減を重ねて、微弱な雷だけを使うと、観客席にいる同胞たちに態度で示す。
強力無比すぎる異能の一端を、彼に向けると。
そして、問う。部長として、玲華は一絆に聞く。
「望橋一絆───異能部に入部する覚悟は、あるか」
これより始まるは試練。18歳の若さでありながら人類最強に数えられる女部長による模擬戦。
望橋一絆が背負わされた運命の、二つ目の試練。
異能に目覚めたばかりの青年は、変わらぬ熱き意志をもって、挑む。
眼前の女傑の気迫に負けぬよう、堂々と。
「勿論あります。なにせこれは全部、俺の意思だ」
「そうか……そうだな。では、全力を尽くしてくれ」
「……よろしくお願いします」
誰かに敷かれたレールの上など、走りたくもない。
異能【架け橋の杖】を右手に喚び、左肩を占拠する小さな光の精霊を引き連れ、望橋一絆は矛を構える。
今の己ができる全身全霊を……示す。
歩みを止める事を知らぬ異邦人は、戦場へと駆ける未来を、再び受け入れた。
「制限時間は7分だ」
「はい───……行きます!」
「来い!」
第二の試練、異能部入部試験が……始まった。
◆◇◆◇◆
「ッ、らぁ!!」
「ふっ……隙が大きいぞ! はぁっ!」
「ぐ……まだ、まだァ!」
竹刀と長杖がぶつかり合う。拮抗は一瞬、力押しは玲華に分配が上がり、一絆は何度も振り払われる。
それでもめげずに、彼は負けじと武器を振るう。
威圧と能力開示目的で出された紫電は、二三度目に姿を消し、玲華の腕力を僅かに上昇させる強化機構となって、彼女の力を一心に押し上げる。
「ふむ……悪くないな。棒術とは珍しい」
若輩の一絆が選んだ戦術は、異能の杖による棒術。
「<光の盾>! 二枚展開!」
『〜〜〜!』
「成程、それが精霊の……だが、甘い!」
「ちっ、どんだけ耐えれる!?」
『〜〜〜!!』
「成程了解、まったくわからん!」
『!?』
そして、同居人たちには内緒でこっそり喚び込んだ最初のトモダチ、“光の精霊”との【契約】───必要な時に呼べば来てくれる召喚の契約を行ったことによる、精霊術師の戦いを無自覚に再現した戦術の二つ。
光の盾を二枚張り、一つは自分の防御用に、もう一つは玲華の動きを阻害、邪魔する為に展開する。
杖を振るい、盾を振るい、脳をフル回転して戦う、今の一絆ができる全身全霊全力の戦い方。
尚、契約云々はする前からバレていたモノとする。
精霊との【契約】の仕方は、改めて杖を触った時に発覚した。脳裏にリストアップされるかのように選択肢が浮かび上がったらしい。
それを用いて、彼は契約の一発成功を成し遂げた。
【契約】以外の項目は【召喚】しかなく、それ以外の能力行使は力量次第で増える。つまり、一絆自身が強くならない限り、異能も成長しない。
生きる為に戦う選択をした一絆は、まだまだ未熟。
弱いなりに考えた結果、持ち前の身体能力を酷使する羽目になったが……それで得られる報酬には見合う痛みであると、彼は理解している。
「凄いぞ望橋くん!! 君は今、既に私の……私たちの予想を大きく超えている! 素晴らしいな、君は!」
「っ、らぁ!」
「うん、うんうん。いいセンスだ。荒削りな段階でここまで動けるとは……あちらの地球には未発達の才能が幾つも埋まってるのか?」
「それは俺も……知らねぇ、な!」
「そうか!」
玲華は純粋な気持ちで一絆の戦いを褒める。己には遥かに届かない強さだが、普通を生きてきた一般人が持つには惜しい実力。それを今、彼女は見せつけられている。
戦闘力だけを見るなら、純粋な戦闘力が低い姫叶や裏方で暗躍するタイプの多世、司令室で状況判断や命令などの頭脳作業が専らの廻よりも上だろう。まぁ、この三人より強くなくては困るのだが。
称賛する。玲華は心の底から、彼を褒める。
異能部入りしても文句ないだろう。円卓会の方針に従って、彼を問答無用で異能部入りさせるのも間違いではないだろう。一絆は確実に、強くなれる。
これから、もっともっと……成長する。
だが、まだ……まだ見せてもらわねばならない。
制限時間はたったの7分。その僅かな時間で、彼を見極めなければならない。全ての時間を有意義に使う為、二人は一心に切り結ぶ。
押されているのは勿論一絆。
光の盾で妨害を繰り返すが、その全てを一刀の元に切り払われる。
壊される度に、魔力を消費して盾を補填する。
「竹刀で壊れるかよ、普通……!」
「これが私の普通だよ」
「なッ、るほど! そりゃ納得ですわ!」
徐々に一絆から減っていく異能の、空想の力。よくゲームにあるような、MP概念と同じように、異能にもそれは当て嵌る。使い過ぎれば減っていく。溜まるまで力の行使は不可能。
総じて魔力と呼ばれる空想エネルギーを、鍛えてもいない魔力器官から、少なくなってきた魔力を捻り出す。最初の検診で多いとされていた魔力量も、使い方がいまいちわかってない今では、無駄に浪費する。
ダメな部分が多く、それに勘づく一絆は、それでも自分を認めさせる為に、全力を尽くして挑む。
挑み続ける。
「やはり……良いな、君は。琴晴くんの言う通りだ」
二人以外の息の音とぶつかる音以外聞こえない程、白熱とした訓練場に、玲華の言葉が漏れ響く。
巨狼に立ち向かった彼を、彼女は正当に評価する。
機転も利く。思考も回る。誰かを守る意思がある。確固たる自我を持ち、誰かの為に、自分の為に強くなれる。やらねばならぬことを、やる覚悟がある。
悲観しようと、立ち直れる“強さ”がある。
それら全てを、玲華は認める。認めた上で、問う。
「我々異能部は、常に危険と隣り合わせ! 空想たちの被害や異能犯罪者に怯える無垢な市民を守る為に、常に、いつ何時でも命懸けだ! 生きる為、救う為、君はそれらの為に必要なモノは……なんだと思う!?」
玲華は、異能を纏わぬただの竹刀で切り結ぶ。内に走らせる紫電で活性化した筋肉は、身体能力もなにもない一絆では遠く及ばなるなる程の力。
だと言うのに、一絆は力を込め、杖を勢いのままに振るい……竹刀を、強化された玲華を、今までよりも大きく、後ろに打ち払うことに成功した。
玲華と観客の度肝を抜きながら、真意を問う言葉にやっと彼は返答する。
「戦う力! 意志! とかそんなもん!」
「……ふっ、正解だ!」
曖昧な答えにはなったが、一絆は世の真理を叫ぶ。それを間近で聞かされま玲華の表情は、打ち払われた驚きから、満足そうな笑みに変わる。
そして……獣のような獰猛な笑みを浮かべた。
「残り一分か。丁度いいな……これからすることに、君が意識を保っていれば……」
再び、両腕に紫電が迸る。ビリビリと空気を鳴らす玲華の異能は、訓練場を震わせる。
さっき以上に眩く光り、目を痛めつける【雷】。
紫電は───否、雷光は腕を走り、手の先を、指の先をなぞり、強く握られた拳の中の竹刀に伝播する。
「すぐに、君の入部を認めよう」
異能を纏った竹刀を手に、最後の一手を込める。
「……うす」
緊張で喉を鳴らした一絆は、入部試験の最終項目を前に、今まで以上に気合いを込め、雷を腕に纏わせる眼前の英雄を睨みつける。
そして、左肩に乗った光の精霊とアイコンタクトを取って、杖の先端に巨大な光の盾を展開する。
大きく、大きく、今の己ができる最大の防御を。
血が煮え滾るような熱さと、カチカチ震える視界、限界まで酷使された未発達の身体で、彼は迎え撃つ。
「私の異能の名は【双神葬雷】───ご大層な名前の通り、仰々しい神器の名を冠した雷を操る異能だ」
紫の雷光を纏う竹刀で、玲華は居合の構えをとる。
「故に神速。いや、雷速で……君を斬る」
彼女の異能は、神室玲華を“神速の英雄”と呼ばせる強さを持つ、万物頂点の異能の一つ。エーテル世界に生まれていれば、間違いなく勇者の一人に数えられていたであろう、なんて推測を可能とさせた女傑。
勇者にも、魔王にも実力を認められた、己らを除き異能部で最も強いと謳われる部長が、征く。
期待を込めて、たった一振りの一撃を。
「行くぞ───<雷閃>」
離れた距離はゼロに、たった一刀で盾は両断され、雷速の一撃が一絆のこめかみを穿つ。
パンッと勢いある音が遅れて鳴り、轟音が続く。
瞬きする暇さえも与えない一閃は、一絆の意識を容易く刈り取っしまう。
筈だった。
「……っ、らぁ……!」
「! ほう……!」
飛びかけた意識をギリギリで保って、一絆は反撃に出た。後ろに退けられた頭を前に、光を直視して嫌にチカチカする目を酷使し、手落としかけた杖を握り。
大きく大きく、玲華の横腹に向けて振るった。
彼我距離ゼロ、超至近距離の一撃が……決まる。
「……くくっ、やるじゃないか。望橋くん」
「あー……流石に、無理か」
しかし、ただ押し当てただけで終わってしまった。
疲弊した身体での全力は虚しく、まともにダメージを与えることも叶わず。
一絆は顔を上げて、格上の強者と目を合わせる。
にこやかに微笑み、玲華は一絆を称賛する。
……そして、試験終了のアラームが鳴った。
「さて、望橋一絆くん」
「……はい」
音を聞いてすぐ、竹刀の構えを解いた玲華は、額を流れる汗を裾で拭いながら、居住まいを正す。
笑みは一転、試験官としての厳しい顔つきになる。
それを受ける一絆は、気絶して倒れそうな身体を気合いで持ち上げ、直立して審査の結果を聞く。
「合格だ。君の入部を認めよう」
異能部入部試験───合格。その発表が、訓練場にいる全ての人間の耳に届く。
瞬間上がる歓声、彼を褒め称える拍手の数々。
明るい世界に包まれながら、望橋一絆の仲間入りが正式に認められた。
彼の奮闘は、観客達の目に色濃く、確かに写った。
「っ、しゃあ……! 、っと」
「おっと……そうだね、場所を移そうか」
「す、すいませ……うぉっ!?」
勝利の雄叫びは、小さく小さく口から漏れた。
緊張で張り詰めた空気が割れ、同時に身体が安堵に支配される。結果、疲弊した一絆の身体は崩れ倒れてしまう。青白く染まった顔から見るに、今すぐ意識を失ってもおかしくない状態だった。
無理もない話だ。模擬とは言え、死力の戦い。
最初に戦った時のように何度もダメージを負い、異能の覚醒でアドレナリンがドバドバに出た時とは違うのだ。たった7分とは言え、今まで以上に気を張った戦いになった。それに、相手が相手。もし異能部を敵キャラにした格闘ゲームがあれば、ラスボスの位置に君臨するのが神室玲華である。隠しルートで出会える裏ボスはそれよりも強く、なんなら二人いるが。
兎に角、鍛錬不足故の魔力消費量の大さや、異能の使い過ぎによる疲弊で倒れた一絆。それを玲華は片手で支え、痛まないように身体を抱き上げる。
そして跳躍。二階の観客席にひとっ飛びして着地。
すぐさま【天使言語】による回復能力を持つ日葵に一絆を託した。
彼の隣で慌てふためく光の精霊は、今回ばかりはすぐに帰らず、心配そうな顔つきで覗き込んでいる。
「頼んだ」
「はーい。おめでとー、一絆くん」
「おぅ……」
『〜……』
「ははっ、ありがとな」
『♪』
指で頭を撫でられ、精霊は嬉しそうに微笑む。
そんな一絆だったが、人類には理解できない天上の歌を耳にし、身体を癒される安堵感、安心で身体の力を抜いてしまい……その一瞬で、再び身体が崩れる。
同時に、意識もどんどん深く沈んでいく。
「……ぐ、やばい」
「無理なら寝ても構わないよ。後で話そっか」
「……いっすか」
「いいよ」
「あざ……………ぐぅ」
「待って今すごい首ガクンってなった」
『〜〜〜!?』
「おい誰か支えろ!」
「最後の最後でやりすぎたか……」
「ふぇ、と、トラウマががが」
「ご臨終です」
「不謹慎!!」
限界が来てしまう。これは不味いと思った一絆は、気絶する前に玲華たちに一言許しを得て、承諾された瞬間、意識を手放した。
やいのやいのと騒ぐ同年代の声は、彼の眠りを妨げることは終ぞ無かった。




