喉を、そして良心
しかし俺はそれに気がついてはいない体でジェスチャーを続ける。
その後ろで少しだけ這い進んで、より一層に存在を見れるようにした蛇に角を伸ばさせる。
そしてそれが俺を狙っている風にする。
「おい!! 後ろだ! 後ろに魔獣が……っ!!」
例え俺に怪しい雰囲気があっても目の前で魔獣が人を狙っている状況では見過ごすのは難しい、という相手の善意を利用させてもらう。
心苦しく、そして少なからず声を上げられてしまう作戦だ。
それでも手立てがこれ以上ない!
「──あがぁっ!?」
「刑法官様!!」
彼の声に応えて背後を振り返ると同時に『水流操作』で蛇に角を向けさせたままこちらに突進させた。
その氷の角が俺の右肩を大きく削る。
今はなるべく魔獣が攻撃を仕かけ、血飛沫が飛んだというのを認識させたい。
しかしどこから血が出たのかという正確な場所は見せないようにしたい。
身の丈の合わない幻術をまとっているためどこから血を出した判明されては困る。
そのため血が吹き出たと同時に威力で身体が飛ばされたようにして手すりにぶつかる。恐らくこれで余程目が良くない限りは正確な位置を把握されない。
「だだ、だい、大丈夫ですかっ?!!」
その出来事に門番が慌て出す。
実際に血が流れているのは肩からだが、気づかれないように『水流操作』で触れて喉元から流れている風にする。
「このっ、魔獣が!」
階段でこちらを様子を窺っている風にしている蛇を槍で牽制する。
そうして駆け寄って来た看守は氷の蛇を警戒しつつ、こちらの様子を尋ねる。
「刑法官様、ご無事ですか?!」
「がぁ、ぅあ……」
「──っ、喉が……!」
発音しないように舌を動かさず、音をくぐもらせるイメージで発する。
その現状と傷を見た門番は顔を強張らせる。
「(これで数秒でもしゃべらずに済む。あとは……)」
ようやく手の届く位置にまで来てくれた彼にゆっくりと手を伸ばす。
「絶対大丈夫でずがっ!?」
氷の方に注意が向いているお陰で楽に触れられる。
そして触ったと同時に『麻痺』を使って動けなくさせる。
「ふぅ……」
芝居を終え、立ち上がる。
そして立ったまま動けずにいる彼を担ぎ上げる。
ふと気になり『天眼』を自分が見えるように切り替える。
そこには首を怪我した青年の男の腰の部分から直立不動の中年男が生えているではありませんか。
「(側から見れば奇妙でしかないな)」
興味が湧いたことを少しだけ悔やみながら眼を元の方に戻してから看守を運ぶ。そうして彼が門番をしていた位置で横して置く。
まだ全身麻酔の様な調整を行えないから『麻痺』で意識までは奪えない。
だからこのまま『麻痺』が解ければ一連の流れを話される。
「ウォーミル。寒いけど後遺症はないから」
『ウォーミル』を使い、彼から徐々に体温を奪う。
門番の首に触れ続けて温度を測る。人が意識を失う具合はこれまで散々試してきたので問題なく出来る。
そうして二分以内にことを終わらせる。
『天眼』には澱みなくブライアンが連行されており、あと少しで上に着く様子が映る。
「(行くか)」
結局強引な手段で突破した。脱獄、刑法官への拷問の幇助、看守への暴行。考えるのも嫌になる罪の積み重なりだ。
それでもこれは俺の、俺だけの罪だ。だから問題ない。
「(とりあえず今は戻っておかないとブライアンと話も出来ない)」
足音を殺しながら石階段を上り始める。




