サイン、そして既知
とりあえず上の様子を知りたいから『天眼』をブライアンたちの方に向ける。
音で離れて行くのは分かるが、追尾する以上は動向の確認は必要だ。
ブライアンが先程の門番に何か話しかけているのに、門番は一切彼の方を見ることなく階段を上がって行く。
それでもめげることなくブライアンは話し続けている。
何がしたいのか分からないその様子をしばらく見ていると、彼が小さく指を動かしているのに気がつく。
親指を上下させている。
「(なんだ? 別に何かある訳でもないのに……)」
不自然な行動に首を傾げる。
しかしあの状況で意味のない行動をする理由はない。
「(指だけ動かす……合図か? でも誰に──もしかして、俺……?)」
ブライアンには『千里眼』のことを簡単に説明していた。もしそれを前提に合図を出しているのだとしたら注視しておいた方が良い。
合図と仮定するなら意味は単純だろう。
「(弾け、看守を? 違うな。グッドサイン、はこの世界にあるのか不明だし、上下させる必要がない。上下? 上へ行けってことか!)」
ハンドサインを解明出来たことに少しだけ喜びを感じた、その瞬間だった。
「──で、そこに居るんですよね。踊り場の。出て来てください」
「(!? な、んでバレてっ)」
看守に気取られた。
気配を殺していたにも関わらずに起こった事実に身体が強張ってしまっているのを感じつつ、彼の動向を窺う。
「……何故出て来ないのですか? 居るのでしょう?」
確信を持った声で訊ねてくる。
これ以上は不信感を募らせてしまう。下手をして応援を呼ばれてしまえば完全に身動きが取れなくなる。
そう分かっていてもモモ看守で出て良いのかが問題なのだ。
「(声に敵意は感じないから仲間か?)」
俺が居る踊り場の影に視線を落とし、手に持っている武器を構えることもしていない看守だが、ブライアンの失態を突いて連行した連中の仲間なのだから敵だ。
それを当てなくてはならない。
「(──無理だろ……っ! どんな確率だ!)」
最低でも俺が堅牢署に来てから見た看守の誰かだとしても百数十人。そこから正解を引くのは現実的ではない。
「(可能性は低いけど刑法官のどっちかか部長にでも化ければもしかしたらで騙せるかもだが……)」
その二択であれば刑法官の方が良いだろう。
今もブライアンたちが石階段を上って行く音が微かに聴こえる程にここは反響する。
そしてあの看守は確実に誰かがブライアンと一緒に来たと考えている。
加えてブライアンが階下へ行っていたことを知っている。恐らく彼が事前に置いていた看守たちを退かしてまで門番を代わった。
刑法官と繋がっていなければそこまで強引な手段を取るとも思えない。




