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その男、名探偵につき  作者: 小高まあな
第五章 名探偵の場合
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05

 俺はもう完全に他の女の子と手を切って、真面目に茗ちゃんと向き合っていくと決めた。それは俺が勝手に決めただけだと知ったのは、遺産相続が決まってから一年半ぐらいあとだろうか?

 晴れて探偵事務所のオープンが決まった日だ。

 前々から、事務所を開く時には何か看板犬のような動物を飼いたいと思っていた。犬はちょっと大変だし、と思っていた時に出会ったのがキューだった。ペットショップで売れ残っていた九官鳥。

 言葉を覚えすぎて逆に買い手がつかないと店主が言っていた。それが俺にぴったりだと訳もなく思った。

 そのまま連れて帰り、事務所の俺の机の隣あたりに置く。

「これからよろしくな、キュー!」

「ゴンベイ!」

 そうだ、あの頃からあいつは変な言葉を言っていた。誰か客が覚えさせたんだろうな。

 そうこうしているうちに、茗ちゃんがやってきた。オープン祝いと言って。

「よかったね、慎吾」

「ありがとう、茗ちゃんのおかげだよ」

 答えると、茗ちゃんは弱弱しく笑った。珍しく。

 そして、ちょっと言いよどむようにしてから、

「いいきっかけだから、私たち、別れない?」

 とんでもないことを言い放った。

 え、別れるって、何!?

「慎吾も事務所開いたし、私も司法修習始まるし、いい機会だと思うの。いつまでもこんな……過去にとらわれて傷の舐め合いみたいなことをしていても仕方ないでしょう?」

 知らなかった。茗ちゃんがそんなことを考えていたなんて。

 そして、そんなの絶対嫌だった。俺はもう、傷の舐め合いがしたいから茗ちゃんと一緒にいるわけじゃなかったから。本当に好きだったから、だから一緒にいたのに、そんなこと言われるなんて。

 パニクった俺が口にした言葉は、

「わかった。それじゃ別れよう」

 だった。

 あっさりとした別れの言葉に、茗ちゃんがちょっと泣きそうな顔をして、

「それで、今日からまた新しく付き合おう」

 俺は変なことを口走った。意味がわからん、と今なら思う。でもその時は、なんとかして別れたくなくて必死だったのだ。

「傷の舐め合いとかじゃなくて、本当に。俺、茗ちゃんのこと大好きだよ?」

 茗ちゃんはくしゃっと顔を歪めて、

「あなたは、何にもわかってないっ!」

 そのまま右手を振り上げると俺の頬を叩いた。

 ばっしん! と超いい音がした。

「ウヒョォ!」

 キューが変な声で鳴いたことは、よく覚えている。

 そうやって殴られたものの、最終的に俺の提案は受け入れてもらえた。茗ちゃんとしても、俺に好意を抱いてくれていたのは間違いないことだったから。

 それ以来、変な傷の舐め合いとかじゃなくて、普通の恋人として付き合っている。ちゃんと、茗ちゃん一筋で。

 一つ問題があるとすれば、探偵事務所を開いてしばらくしたころから、俺が完全に名探偵になってしまったことか。

 おちおち旅行にも行けやしない。

 以上、回想終わり。ちょっと長くなってしまった。


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