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その男、名探偵につき  作者: 小高まあな
第四章 弁護士の場合
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06

 その日、帰宅したのは、日付変更間近だった。明日、土曜日を休みにしたいがために、強引に仕事を詰め込んだからだけど。

 そう思って小さくため息。

 第三土曜日は、なるべく空けるようにする。慎吾との約束だ。とはいえ、その本人が今不在なんだけど。便りがないのは無事な知らせ、そう思いたいけど。

 もう一度ため息をつきながら、玄関のドアをあける。

 一人暮らしの部屋。

 ただ、そこには明らかに私のものではない、それでも見慣れたくたびれたスニーカーが脱ぎ散らかされていた。

 苦笑ともため息ともつかないものが口から漏れる。

 自分の靴と一緒にそれをきちんと揃えると、部屋に入る。

 部屋には人の気配はなく、ただダイニングの灯だけは小さくついてた。

 テーブルの上には小さめに作られたおにぎりが置いてある。

「オカエリナサイ」

「ただいま」

 くーちゃんが出迎えてくれる。

「貴方のご主人様はどこ? くーちゃん」

 ふざけて問いかけながら、おにぎりを一つ頬張る。

「ゴンベイ! ゴンベイ!」

 おにぎりを食べながら、寝室の方に向かう。相変わらず、絶妙の塩加減と力加減で作られたおにぎりですこと。最後の一口を飲み込む。

 寝室のベッドの上には、泥のように眠る彼の姿があった。どこで何をやっていたのか。額と、腕に傷がある。

 ベッドの端に腰掛けて、その髪を撫でる。かろうじてシャワーは浴びたようだけど、濡れたままで、きっと明日の朝はすごい髪型になっているのだろう。

「……茗ちゃん?」

 うっすらと目をあけて、一瞬驚くぐらいかすれた声で呟かれた。

「ん。おにぎり、ありがとう」

「ん……」

 目は眠そうなまま。左手で手を握られる。

「……大丈夫?」

 色々聞きたいけど、それだけ告げる。

「うん」

 彼は微笑んでそれだけ言い、また目を閉じた。すとん、と左手が布団の上に落ちる。

 掛け布団を直し、その場を後にする。

 また傷を作って帰ってきて。

「駄目なご主人様ね」

 くーちゃんに笑いかける。夜だから布をかぶせて寝かせてあげる。

「おやすみ」

「オヤスミ」

 残ったおにぎりにラップをかけた。しまおうと冷蔵庫を開けて、息をのんだ。

 冷蔵庫にはきんぴらごぼうと、鮭の塩焼きと、冷や奴が用意されていた。

 ああ、もう……。

 おにぎりをしまうと、やや乱暴に扉をしめる。

 どこの世界に、二週間も連絡せず、帰ってきたと思ったら怪我をしていて、それも自分の家ではなく恋人の家に来て、大怪我をしているくせに料理をする馬鹿がいるんだ。ここにいるけど。

 きっとおにぎりは、私の帰りが遅くなった時点で夜食用に切り替えたんだろう。どういう細やかな気配りだ。

 本当にどうしようもない人だけど、気遣いだけは出来るんだから。そういうところが、本当憎らしいぐらい愛おしい。

 思わず舌打ち。

 連絡してくれれば、はやく帰ってきたのに。

「仕様の無い人……」

 言いながらも少しだけ口元が緩むのが自分でわかった。

 コンタクトを外して、化粧を落として、シャワーを浴びて。軽く髪を乾かして。日付はとうに変わっている。

 明日は休みだからゆっくり起きればいい。朝ご飯には、用意してもらった料理を二人でわけあって食べればいい。お昼にはなにか美味しいものを食べよう。

 どんな事件で、一体何があったのかはわからないけど、一人で抱えないで頼ってきてくれたのは嬉しい。

 目覚まし時計をいつもより遅い時間にセットする。

 セミダブルのベッドいっぱいをつかって彼が寝ているから、一瞬ためらったものの、ちょっとつっつくとすぐに避けてくれた。

 隙間にそっと滑り込む。

 よく見たら、背中にも湿布が貼ってある。

 心配させるな、ということだけは明日怒ってやろう。それぐらいの権利、私にだってあるはずだ。

 彼の手が、私の右手を掴んだ。

「……おやすみ……」

 起きているんだか寝ているんだかわからないけど、そういわれて苦笑する。

「うん、おやすみ」

 手をそっと握り返して、目を閉じた。

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