エピローグ
数年の間に、プラトニア王国の魔術は大きく発展を遂げた。
まず、魔術の常識が変わった。その発端はアリアが植物から教えてもらった古代魔法を再現したことにある。魔力を持たない彼女が魔法薬として再現する古代魔法は、それまでの常識に当てはまらない、新しい魔法だった。アリアが道を切り拓いたおかげで、今では魔力を持たなとも、アカデミーに入学し魔術師として学ぶ者も多くいる。
そして、古代魔術を種から種へと受け継ぐ植物たちを研究することで、長い間謎だった建国の秘密も暴かれつつある。現在有力な仮説は、植物は魔力を吸収することだ。だからこそ古代魔術は滅び、王国は溢れんばかりの緑で覆われている。
植物を研究すれば新たな古代魔法が見つかるであろうことは勿論、国家全体の魔力を向上させることにも繋がるだろう。
「アリア、いないのか」
クロードが研究室を覗くと、アリアの姿がなかった。
クロードは迷うことなく、新設された大温室に向かう。ここはアリアの研究のため、クロードが新たに設置した大規模な温室だった。アリアの叔父・アルヴェールが所有していた温室と統合して、これまで以上に数多くの種類の植物が栽培されている。
「クロード様」
麦わら帽子を被ったアリアが、薬草の影からひょっこり顔を出した。やはり、庭いじりをしていたらしい。王太子の婚約者となってからも、アリアのこういうところは少しも変わらないのだった。
「クロード様、見てください。クロード様がくださった辺境の地の種が、ようやく花を咲かせました」
「これか?」
「ええ、そうです。ほら、やっぱり、クロード様の目と同じ色の花だったでしょう」
青い小花がやさしく揺れている。アリアは土で汚れた顔のまま微笑んだ。
「まったく、熱心だな。鼻に土がついているぞ」
「えっ、本当ですか。どうしましょう」
クロードは笑うと、アリアの鼻先を指で拭った。くすぐったい気持ちでいっぱいになる。もうすぐ春が来る。温室の花は咲き誇り、アリアの特別な力もまた、さらなる開花を見せるだろう。
二人は視線を交わすと、どちらからともなくキスをした。
了




