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黒龍の国シリーズ 断罪龍は今日もお腹いっぱい  作者: 下菊みこと


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10/10

病弱な義妹に散々デートを邪魔された婚約者ラブのヤンデレ貴公子がとうとう義妹を贄にするお話

私の婚約者の義妹は、本当にどうしてくれようかと思うほど邪魔ばかりしてくる。


「タバサ…その、今朝妹がまた発作を起こして…」


「それはお気の毒に…では今日のデートは諦めて彼女のところに行ってください」


「タバサ、本当にすみません。君のことは心から愛しています。わがままばかりで本当に申し訳ない…ですが、そんな優しい君にますます惚れ込んでしまう僕はきっと…いえ、情けないことを言いました。忘れてください」


「ふふ、いいえ?そんな情熱的な言葉忘れられません。その言葉を聞けただけでも、今日は会えてよかった」


「僕も君の顔を一目見られて本当に嬉しい。離れるのが惜しいくらいに…すみません、もう行かなくては。いつか必ず、埋め合わせはしますから」


婚約者は私に背を向けて馬車に乗り込む。


過ぎ去っていく馬車を見送って、私はため息を吐いた。


彼のことは本当に好き、愛してる。


彼からの愛情も、疑う余地もないと思ってる。


あの義妹さえいなければ…くそぅ。


「…シエル様。貴方は私を大事にしてくれる。貴方はいつも言葉を尽くしてくれる。貴方はたくさんの思い出もくれた。そんな貴方が、どうしようもなく愛おしい」


「お嬢様…」


侍女がポツリと独り言を溢す私を気遣わしげに見つめる。


この侍女は幼い頃からずっと一緒の乳姉妹でもあるから、私に甘い。


「ねえ、シエル様が私を愛してくれているのはどう考えても間違いないわよね?」


「はい、お嬢様」


「私もシエル様を愛してるわ」


「はい、お嬢様」


「でも、シエル様のご両親が…ね」


シエル様のご両親は別に私を疎んでなどいない。


むしろ未来の後継の妻として愛してさえくれている。


ただ、どうしてそのお花畑思考で貴族社会を生き残れたと聞きたくなるほどお人よしなのだ。


だから、あの義妹さえ引き取って育てている。


そして、本当は嫌がっているシエル様に「気の毒な境遇の子なのだから」と優しくすることを強いている。


「もうちょっと…貴族的な考えの方々ならよかったのだけど」


「あのお人よしはそうそう治らないでしょうね…」


「そうなのよね…ああ、やだやだ」
























シエル様は私と幼い頃に婚約を結んだ。


家同士の都合で、親に勝手に定められた婚約ではあったがお互いに一目惚れ。


それからはずっとお互いに一途で、愛し合ってきた。


「シエル様は私だけの王子様なのよ」


「ええ、お嬢様をあれだけ溺愛されるシエル様はお嬢様に相応しいかと」


そんなシエル様のご両親は、去年女の子を一人養子に迎えた。


その子は、彼の両親が目を掛けていたという平民の家の娘だった。


両親を病で相次いで失い、路頭に迷っていた彼女。


それをシエル様が偶然見つけ、餓死する前に保護したことでそのまま養子縁組することになった。


…そんなシンデレラストーリーにすっかり頭をやられた彼の義妹は、シエル様を〝運命の人〟だと思っている。


「彼女、どうして私とシエル様がここまで相思相愛なのに私からシエル様を奪えると思ってるの?」


「バカだからでしょう」


「シンプルな答えね」


「それ以外にないですから」


私とシエル様の婚約は、お互いの心も伴っているとはいえ結局のところ家同士の利益によるもの。


私から奪うなんて、まず無理。


ちょっと考えればわかることなのに。


…元々庶民の生まれなのだから、わからなくても仕方がないのかもしれないけれど。


シエル様のご両親は、あの義妹に甘い顔をするだけで貴族社会のそういう厳しさを教えない。


「シエル様のご両親も、ある意味虐待だと気付かないのかしら」


「厳しくするのも優しさですのにね」


「ええ、まったくその通りよ。シエル様にも、義妹にもお気の毒だわ」


彼女は本当にお気の毒だ。


今は幸せな夢の中にいるが、いつかは現実を見る。


彼女は結局、絶望を知る。


「本当に、お気の毒に」


まあせいぜい、今のうちにいい夢を見ていればいい。
























そう思っていたのだけど。


「はぁ?あのお優しいシエル様が義妹を黒龍様に捧げた?嘘でしょう」


「いえそれが本当で…しかもあの方はシエル様とお嬢様を散々困らせたからか黒龍様に本当に食べられて…」


「ええ…えぐい…」


我が国には生贄制度がある。他国の人間には、なんてことをするのかと言う人もいる。けれど、我が国はその生贄制度で栄えてきた。そのおかげでみんな飢えずに済むのだ。


黒龍様の好む『魂の穢れた者』を毎月数人捧げるだけで、黒龍様のお力で不毛の大地であったこの国でも沢山の農作物が実るようになった。


罪人なんて国中探せば毎月幾人も見つかるので生贄探しにも困らない。特に、公には裁けないが罪を重ねたワケあり貴族の断罪にはぴったりだ。


一応、表向きには国の為に身を捧げた尊い命とされるので残された者たちにとってはむしろ名誉となる。残された者たちに金銭の報酬もある。アフターケアもばっちりだ。王族や貴族は生贄制度の真実を知っているから、影では色々言われるが。


しかも、冤罪だった場合黒龍様の好む『魂の穢れた者』判定から外れるので食べられない。むしろ身の潔白を証明して生還できる。


「そして、シエル様はなんてことをしたんだと詰ったご両親から爵位を無理矢理…いえ失礼、つまり代替わりなさいまして…」


「あのシエル様が!?」


なんともまあ、すごいことになった。


「あ、お嬢様とは近いうちに結婚できるようすぐにでも準備をなさるそうです」


「待って待って待って情報量が多い…」


「…ですが、つまりシエル様とお嬢様にとってはハッピーエンドでは?」


「…たしかに!」


これは、本気で黒龍様に祈りを捧げなければ。

















side シエル


正直、僕は妹は悪くないと思っている。


全て、甘やかすだけの両親が悪い。


僕にも甘やかすよう強要してくる両親が元凶だ。


…でも、邪魔なものは邪魔なのだ。


「教会に贄を捧げる手続きを取る。準備してくれ」


「はい、坊ちゃん」


「もういい歳なんだから坊ちゃんはやめてくれよ、爺や」


そう言って笑いかけると、爺やは泣いた。


大袈裟ではなく、本当に泣いた。


「あの旦那様と奥様に育てられてこうも立派になるとは…涙が止まりません」


「タバサと僕の邪魔になる奴は消すよ。当たり前だろう。その方が後々みんなのためにもなる」


「ええ、ええ、その通り。貴族とはそういうものです。では準備致します。家督についても」


「任せた」


「この爺やにお任せあれ」


これは、この国の人間であればよく取ることのある手段。


名誉は最低限守りつつ、確実に邪魔者を排除できる。


…まあ、本当に妹が病弱なだけなら無実の証を持って帰ってくるのだけど。


それは多分、妹の態度から考えてもないだろう。


幼稚な手段でしか、僕とタバサの邪魔をできなかったバカな妹。


「お気の毒に、とは思うよ。元凶は僕の両親だ。存分に恨んでくれ。もちろん、僕のこともね」



























side タバサ


「妹さんのこと、なんと申し上げればよいか……」


「黒龍様の贄として、名誉の死ですから」


「…私からも、彼女を諌めればよかったのかしら」


「それは無駄ですね。妹は完全に僕狙いでしたから…けれどせめて、本当の家族と天国で再会できたことを祈りましょう」


「ええ、祈りましょう。でも、シエル様は今家督相続でお忙しいでしょう?お身体もお心もご自愛くださいね?」


シエル様は気遣う私に微笑んだ。


「ご自愛ください、というならどうか…出来る限りそばにいてください」


「…シエル様?」


「君と過ごせることが一番の癒しだ」


シエル様らしい甘い言葉に、なんだかこんな状況なのに嬉しくなる。


私はシエル様に抱きついた。


「…可愛い人だ。愛していますよ」


「はい、私も愛しています」


正直、義妹を贄にして家督相続まで無理矢理してしまった彼の内なる苛烈さにはちょっとびっくりしたけど、この愛に変わりはない。


「妹を贄に出す男なのに?」


「どうか、そんなことを仰らないで。黒龍様の贄にしてやりたいと思う相手なんて、人生で一人くらいはいるものです。シエル様の場合、それがたまたま義妹だっただけです」


「…君は本当に、僕を愛してくれているのですね」


そっと、優しく抱きしめ返されて愛を感じる。


ああ、私達は義妹が贄になってくれたおかげでこんなにも幸せだ。


喜びから、背伸びをしてそっとシエル様の額にキスをした。


「…ふふ、君は本当に僕を喜ばせる天才だ」


「これから先の人生、もっと喜ばせて差し上げますよ」


「では僕も、君をたくさん喜ばせなければね」


そう言って罪悪感など一つも滲ませず笑う彼が、それでも私は大好きだ。


義妹には本当にお気の毒にとは思うが。


私たちは、彼女を犠牲にした分まで幸せになろうと思う。

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