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10◇それぞれ思い出しませんかぁ?その3◇

フィオナ視点です





おじいちゃんに外にいると言われて、飛び出したまでは良かったが外と言われてもどこなんだか?相手がどんな人なのか聞くの忘れたことに気が付いた。

でもそんな杞憂は無用だった。


家の裏手に回った時にその人はすぐに見つかった。


ざっとシルエットを見ただけでもわかるような若い女性だった。

思い描いていたのと違った人物だったことで、拍子抜けした。

いままでは男性がおじいちゃんを訪ねて来ることが多かった。目的は様々だが、ほぼ勇者の一行だったおじいちゃんに取り入って、高位貴族に便宜を図ってもらいたいという下心をもってきていた。

少ないがその中には女性もいた。煽情的で欲情をそそる様な肉感的な女性。おじいちゃんを色仕掛けで篭絡するつもりだったらしい。

おじいちゃんは元神官だったというのにだ。

それに分かりにくいがおばあちゃん一筋だ。おばあちゃんが亡くなってもそれは変わりない。


質素な服を着て楽しそうに何かを口ずさんで薬草を干す作業をしている女性は、いままでおじいちゃんに近づこうとしていた人たちとは違うと感じた。耳に心地よく聞こえてくる声、歌が心配して焦燥感に駆られてささくれていた心を癒すようにじんわりと染み渡ってくる。私がこの女性は警戒をする必要がないと感じさせていた。私は魔力は少ないけど、おじいちゃん譲りの勘の良さがあった。

悪そうな人でない。

思わずほっとして知らず知らずに詰めていた息をはいた。

そう思っていたところ、いつの間にその女性に近づいている影に気が付いた。


アシュ?


そういえば家の中に一緒にいなかった?


アシュは気配を消して彼女に近づいているようで気が付く様子はない。

私はなぜかその様子を動くことができずに見つめていた。

嫌な予感がした。

心がざわつく。


腕を伸ばさなくても触れるくらいに近づいているというのに全く気が付かない。

その様子をどこか楽しそうに口元を綻ばせて見つめるアシュ。

声が漏れたのか、やっと気が付いた女性は驚いて振り向いたがそこから二人とも動く気配がない。


二人はお互いを食い入るように見つめあっていた。


そして、私は初めて人が恋に落ちる瞬間を見てしまった。


振り返った女性は、驚くほど綺麗な容貌をしていた。

質素な服に包まれていても、顔はとても華やかできれいだった。

おじいちゃんに連れられてお城に行くこともある私は、美人といわれる類いの女性はよく見ている。

それこそ、この国の王族とも面識があるのだ。王族は美麗な容姿の代表といっても過言ではない。お城にいる様な華麗な美しさのある女性は数多く知っている。


しかしそれらの華やかな美しさとは違う、華やかでありながら清廉とした美しい女性、いやまだ幼さのある少女から大人に変わる絶妙な年頃だろう美しい少女?


そんな彼女にアシュは恋をした。


そんなことは普通はわからないだろう。

でも、私にはわかるのだ。


だって、私はアシュが好きだから。


アシュに恋している私だからわかる。


アシュの瞳に恋情の熱が灯ったのが・・・


私が、私を見てくれるアシュに求めていた熱がそこにはあった。


私以外の女性を見つめて・・・


私が欲しかった、恋情がそこに・・・



そう思った瞬間、かあっと頭に血が昇り沸騰するような感覚になり、気が付くとアシュと女性の間に割り込んでいた。


そこから口に出した言葉は止めることができなかった。

目の前の女性の口撃をやめてしまえば、瞳からこぼれそうになるものがあることに気が付いていたから。

このもって行きようのない感情を、どうしようもない胸を掻きむしりたくなるような気持ちが、目の前の女性を口撃することでしか収めることができなかった。

いや収まるどころか、彼女が傷ついた顔をすればするほど遣る瀬無い気持ちにさせられて、余計に止めることができなかった。止めに入ったアシュに、怒りに拍車がかかりさらにとどまることができなかった。


おじいちゃんの声が聞こえるまでは。


おじいちゃんの声にやっと、口を閉じることができた。

中に入れというおじいちゃんの声に従って、家に急ぐ。彼女の横を通り過ぎるときに垣間見えた頬は色を無くし涙にぬれていた。

それを見た瞬間に心に広がる苦々しさ


「・・・言い過ぎたわ」


私よりも明らかに幼い少女に向かって、感情の赴くまま吐いた言葉は取り消せない。

けれど謝ることもできない。いまだに何者なのかという疑問が残っているから。

それでも、私の感を信頼するのであれば、この子は悪い子じゃない

それはわかる

でも、感情のコントロールが効かない。


アシュのあの瞳の熱を思いだせば、またどす黒い感情に支配されそうになる。


今は時間がほしい。


あの子をこの目に入れたくない。


家に入り懐かしい自室へ入ると、堪えていた涙が決壊した。


失恋の痛みと、初対面の少女への心ない言葉・・・


狭量な自分に嫌悪する。


そして長年慈しんできた初恋が報われないかもしれないことに涙した。






あの後、私は不貞腐れて部屋に籠った。と、おじいちゃんは思ってくれたかな?多分あの子はそう思ったに違いない。誰にも部屋の扉をノックされることなく一人で過ごした。

気が付けば、私はそのままベッドに倒れこんで眠っていた。締め忘れたカーテンの開け放たれた窓から燦燦と陽光が顔にふりそそぎ、重い頭を無理やり起こした。


「はあぁ」


久しぶりの我が家なのに思いため息が出るのは許してもらいたい。

扉ひとつ隔てた向こうにいるのがいつものメンバーであってほしい。顔を合わせたくない、向こうに行きづらい。

私の家のはずなのになんでこんなに居づらく思わなきゃいけないのよ!

泣いた後で、顔が浮腫んでいるようだ。

ああ、それもこれもあの子のせいだと思うと、フツフツと怒りが込み上げてきた。お門違いだってわかっているけど腹が立つものは仕方がない。

そうよ!ここは私の家よ

なんでいきなり湧いて出てきたような小娘に私が遠慮しなきゃいけないのよ。


気にすることないのよ。

私は悪くないもの。

堂々としていればいいんじゃない!

そうして開いたドアの向こうから食欲をそそる香りがして昨日の昼から何も食べずにお腹がすいていることにきがついた。


「おはようご、ざ、います・・・」


居間に顔を出すとそこには、あの子がキッチンに向いていた。

開いた扉の軋む音を聞いてこちらを振り返った顔は、笑顔から一瞬にして強張り、それでも懸命に絞り出した硬くなったままのぎこちない笑みを浮かべていた。

その顔を見ただけで彼女の心情は察して然るべきだろう。

昨日の私の余計な暴言を思い出す。


「ああ、やっと起きたか?」


「おはよう、ごはんたべるだろ?」


私だって意気込んで開けたドアを閉めてしまいたくなったけど、そこにはおじいちゃんとヒューがいないだけで、アシュとジェフはそろって座っていたから我慢した。

浮腫んだ顔を見せたくなくって、部屋の中を一瞥しただけで、さっと洗面室に足を急がせる。


「あれ?」


甕の中の水を盥に移そうとして、異変に気が付く。

台に置かれた盥の上に取っ手があるだけ。その横には何もない空間だけが存在していた。

いつもある盥の隣の甕がない。どこに持って行った?


「ねえ、水がないんだけど!」


洗面室から顔を出してアシュたちに声をかける。

アシュたちの顔を見ると、悪戯を仕掛けた時のように顔を合わせて笑ってこっちを見ていた。

これは私が洗面室に入った時からどうなるか、観察していたっぽい。

しかも聞いたのに、ジェフとアシュで面白そうにして黙っている。


「ちょっと!・・・」


「あっ、あのっ!」


洗面室から一歩足を踏み出して、文句を言おうとしていたら存在を忘れたように無視していた、彼女がこちらに来ていた。

顔は強張ったままで一生懸命話しかけてくる。

彼女に押し込められるように一緒に洗面室に入ることになった。

まあ、女ふたりで洗面室なら問題ないけど、気まずい・・・。


「あのっ、水はこのレバーを横にしてください」


彼女は私の戸惑いに気が付いてないのか、奥の盥に進みレバーに手を伸ばした。

盥の上につけてあるレバーをクイッと横にむけた。

するとレバーの下から水が出てきた。

よく見るとレバーの下には小さな管が付いてきてそこから流れ出ていた。


なんだ、これ?


「これは水道の蛇口で、このレバーについている魔石に『横になると水が出る、縦になると水が止まる』というように魔法を付与しているんです。」


そういって、またレバーを縦に動かして、彼女の言う通り水が止まった。

何これ?

魔石?魔法を付与?

付与って何?


確かに言われてみれば、レバーの根元に青い小さな魔石が付いている。

これって、多分私たちが、雑魚魔獣を倒した時に溜まりすぎて、売ることもできない使い道のない魔石を物置小屋に蓄えに蓄えていたもの?


「台所のシンクにも同じようにしています。」


まだなんか言ってるけど、私の頭の中は固まってそれらが全く入ってこない。

わかるのはどうやらこれらをしたのはおじいちゃんじゃなく、この彼女であるようだということ。


「何なの、あなたは?」


この時の私はひどく奇異なものを見る様な目をしていたと思う。

いや、完全に奇異なもので警戒心バシバシと出していた。


この魔石の装置の説明をしていた彼女は、私の低く訝しそうな声で昨日のことを思い出したのか、かろうじて取っていた笑顔が不自然に歪んだ。

笑顔でいたいのにできなかった。そんな表情だ。


「フィオナ、今は早く身支度を整えてこっちにこい。こんな狭いところで話せることじゃないだろ」


ジェフの声が近くできこえて、彼がこの狭い洗面室に入れずに入り口から覗いて声をかけてきた。

助かった。別に昨日のように泣かせたいわけじゃない。かといって気を許すようなことはできない。


「アイリも」


ジェフに促されて彼女は出て行った。

ふーん、『アイリ』っていう名前か。昨日私が引きこもっていた中でも、みんなとも交流していたんだ。

なんだか、面白くない

昨日のアシュのことを思い出したら胸がぎゅっと苦しくなった。

レバーを動かして水をだし、顔をバシャッと乱暴に洗う。水は甕にためた水を使うよりも冷たくて匂いもない冷涼な水だった。外の小川の水がそのまま流れ出たような水。

いったいこれは、どうなっているのかしら?


不思議におもいながら顔をあらって、盥のある壁に掛けられている鏡に気が付く。

顔を洗って濡れた顔が映る。これもなかったものだ。随分と家を空けていたけど、どのくらい開けても、12歳から冒険者として家を出ていてたまに里帰りをしても変わることのない家だったはず。変化があったのはやっぱりあの子のせい。

それには別に怒りはない。けど面白くないのは仕方がない。なんかもやもやする。

このまま、ここに籠っても昨日と同じで先に進まない。

おじいちゃんはいないけどジェフがいるなら大丈夫。うまく私のストッパーになってくれるはず。

近くに置かれてあった、手拭いでゴシゴシ顔をぬぐった。手拭いからは寝具と同じ香りが優しく漂った。もちろんこれも、今まで香ったことがない。洗濯なんてしなかったおじいちゃんだもん。




私はこれからいくつ間違い探しをするのだろう。











枕が香ったのは、ポプリ的なものがを枕に仕込まれているためで、洗剤の香りじゃないんですね。




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