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大切なもの  作者: アンスリウム
高校生
20/22

「部活!やろうぜ!」



入学して1週間くらい経った。特には何も起きなかったが、どうやら俺の噂が学校に流れたらしい。


クラス、いや学校で避けられている。


具体的には、俺を見る目が冷たいのと俺が通るとみんな避けて道が空いたりする。


結局中学の時と同じだ。唯一の違いは嫌がらせがないことぐらいだな。



昼休みになると周りがチラチラと俺を見る。教室に居づらい。だから、いつも中庭へ行って1人で食べている。


中庭は人が少なく周りの目もあまり気にしなくてすむ。



木を背もたれにして芝生の上に座ると白咲に貰った弁当を開ける。美味いし栄養のバランスが良い、いつも工夫されていてメニューが違う。



白咲にお世話になりっぱなしだな……




ここは木陰になっていて涼しい。食べている間、心地よい風が吹き抜ける。


気持ちがいい。





「おい、獅村ーー」





弁当を食べ終えて本を読みながら涼んでいると、遠くの方から声が聞こえてきた。



またあいつか。最近やたらと俺に話しかけてくる奴がいる。こいつはこいつでクラスで人気者なんだがな。正直めんどくさい。



俺は顔を上げない。気づいていないふりをする。足音がだんだんと近づいてきて、





「おい、無視すんなって」





こいつはそう言って俺の肩を叩いてくる。





「はぁ、何?何の用?」





顔を上げると、そこには黒髪でボサボサの鳥の巣みたいな髪型の男が笑みを浮かべていた。





「なあ、俺さ新しい部作りたくてさ、人集めてんだよ。頼む獅村!入ってくんね?」





鳥の巣は少し前かがみになり、両手を合わせて言う。





「なんで俺なんだよ。もっと他にいるだろ?それに俺が入ると他のやつ辞めんだろ」





こいつが俺と一緒にいること自体こいつに悪影響を及ぼす。こいつが俺を選ぶ理由が分からない。





「お前しかいないんだって、な?頼むよ。それに他の人も辞めないから」





「意味わかんねェ。それにその自信はどっからくる」



「だってお前いい奴だろ」





完全に虚を衝かれた。そんな答えが来るとは思っていもいなかった。





「は?」



「俺知ってんだぜ。獅村、入学式のとき女の子が絡まれそうになってたの助けただろ?それに噂だって信じてないしな」



「それは……」





屈託のない笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでくる。疑うことを知らないような子供のような顔、誰が見ても警戒心が薄れるだろう。


それはこいつから滲み出ている人柄が成せることなのかもしれない。



そんなことを考えながら、俺は眉尻を下げていると、まるでずっと昔からの友達みたいに俺の肩に腕を回して白い歯を見せる。





「な?いいだろ?」





俺はとうとう折れて、





「ああ、分かったよ」



「よし!」





拳を握り締めて、空へと突き上げた。




「けど、その代わり俺あんまり部活に顔出さねえから」



「へぇ?何で?」





間の抜けた返事をすると、ガッツポーズのまま固まり、目を見開いてこちらを見ている。





「いろいろあんだよ」





奏を1人で家に残すのはまだ心配だからな





「まあ、来れるときだけ来てくれれば助かる。俺は安達幸助よろしく!」



「よろしく、それで何の部活なんだ?」



「それはだな〜、映像部!映画作ったりすんだよ。俺が監督で!獅村が演者!」





安達はビデオを撮るポーズをしている。顔から映画がどれだけ好きなのかが伝わってくる。



まじか……、やっぱり断ろうかな。





「なんだよその顔。今さら断るとかねぇからな」





やっぱりバレたか





「へいへい」



「んじゃ、とりあえず今日の放課後な!」





そう言って安達は走って何処かへ行った。俺はため息を吐いて、これから先のことを憂いていた。



─────

───





「白咲さん、今日こそは……ぐはっ!」



「加奈ちゃん、俺と……あべし!」



「加奈さ……ぐぇ!」





飛鳥さんが男の子を一蹴するいつも通りの放課後。私はそれを苦笑いしながら見ている。



なんだか申し訳ない気が……

でも、不思議と男の子もだんだん喜んできている様な……



私は顔をブンブン振って、その考えを追い払った。



倒れている男の子たちの側で飛鳥さんはパシパシと手をはたきながら、





「まったく。どいつもこいつも懲りないわね。まっ、今日は私のかかと落としが決まったから。気分はいいけど」





飛鳥さんも楽しんでた!!





──ガラガラッ





「なつき!」





ドアが開いたと思ったら、安達くんだった。安達くんは私の側にいる飛鳥さんを見つけるとこちらに向かって走ってくる。





──ドシッ、ドシッ、ドシッ、





あ、踏んだ。





横たわっている男の子を踏んづけながらやって来た。ドシッと音がするたび男の子たちは声を上げながら笑っていた。





笑っていた?





「あっ、ごめん!てか何でここで寝てんだ?」





やっぱり気づいてなかったんだ。まあ、普通はいると思わないもんね。





「そういう趣味なんだって、放っときなさい。それよりどうしたの?」





飛鳥さん、趣味って……あながち間違ってはいない気もしなくは無いけど。





「それがさ、部活!やろうぜ!」





安達くんは机をバンと叩いて言う。ちょっとびっくりした。





「あー、前から言ってたやつね。私はいいよ」



「さっすがなつき!」



「し、しょうがないわね……」





安達くんは飛鳥さんの手を取ってそう言う。飛鳥さんは少し頬を赤く染めていた。



照れているのかな?可愛いなあ





「それでさ加奈ちゃんはどうかな?」



「え?わ、私!?」



「うん!」





安達くんは真剣な目で私のことを見つめてくる。そんなに見られたら……照れる。





「わ、私は、文芸部に入ろうかなって思ってて……」





ごめんなさい。





「うっそ、まじ!?じゃあ小説とか書けんの?」





安達くんの意外な反応に私は目を丸くした。





「い、一応だけど……」



「じゃあ!兼部でいいからさ、お願い!ね?」



「うん、兼部でいいなら」



「よっしゃ!これで脚本が!」





脚本?



安達くんは私の手を両手でギュッと握って、





「ふぇっ!?」



「サンキュー加奈ちゃん!ほんと助かるよ!」





て、手が……

ドキドキしてきた。は、恥ずかしい!





──スパーンッ!



あ、いい音。



快音と同時に安達くんは崩れ落ちた。





「何馴れ馴れしく加奈の手握ってんのよ!この変態が!」





飛鳥さんはハリセンを肩に乗せて、倒れている安達くんをビシッと指差して言った。

というかハリセン……





「加奈、ごめんね。この変態が迷惑かけた」





飛鳥さんは足で安達くんを突っつきながら言う。



あははは……安達くん大変。





「うん、大丈夫だよ」



「そ、良かったわ」



「うっ……、迷惑は否定しないんだ」





下から安達くんの声が聞こえると、





「黙れ!」





──スパーンッ!





またいい音。



ハリセンが後頭部に直撃して安達くんは身体が跳ねると、動かなくなった。



安達くん……なんかごめんなさい。



なんとなく謝ります。


すみません。

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