「あなたが白咲加奈ね?」
私はいつもより少し早く家を出る。赤い包みに包まれた箱を持って。
──ピンポーン
「はい、どちら様でしょうか」
そう言いながら、金色の彼は制服姿で扉から出てくる。
私は赤い包みを両手で持って、
「お弁当作ったんだけど……」
比呂は「あー」と言うと、欠伸をして包みを受け取り、
「悪いな」
「ううん、大丈夫。私もう行くね」
「ああ」
私は身を翻して走り出す。目の前の景色は不思議といつもよりも明るく感じる。
嬉しさで心が踊っているのが自分でも分かる。自然と頬が緩んだ。
──ドシン
「ひゃん!」
あー、私、浮かれすぎかな。
私は起き上がって、今度は転ばないように慎重に歩く。
歩きながら、さっきのことを思い出すと、胸の膨れるような心地よさにポッと頬を薄いピンク色に染めて微笑み、カバンを抱きしめた。
─────
───
─
私は嬉しくて学校についてもずっと上の空だった。私は頬杖をつきながらずっとボーッとしている。
「かーな、かなー、ねぇ、かなってばー!むぅ……」
「ひゃぁっ!」
私の首筋に冷たい感触が。ビクッとして目をパチクリさせると、飛鳥さんが私を覗き込むように見つめて、ニヒヒと笑っている。
「飛鳥さん?」
「加奈ずっとボーッとしてたけど、何かいいことあった?」
「……うん、まあね」
「ふぅーん」
飛鳥さんが私の心を探るようにジッとこちらを見つめてくる。
それを綺麗と思ってしまう私は変なのだろうか。
「な、に、かな……?」
「なーんにも」
飛鳥さんはそう言ってニヤッと笑う。
うぅ……絶対何かあるよね
「さ、次移動教室だし、もう行こ?」
「うん」
私は立ち上がって、飛鳥さんの横を歩く。
廊下を歩きながらふと窓を見ると、
え?比呂?とその横は……
「飛鳥さん」
「ん?何?」
私は窓の外の中庭を歩く2人を指差して、
「あの人って……」
「んあーー、副会長の雪代エリナ先輩じゃん。担任の妹だよ。すっごい美人だよね。ん?横にいるのは……彼氏?まあどちらにせよお似合いだよねー」
「……そうなんだ」
「どうした?暗い顔してるよ?」
「ううん、何でもない。」
副会長が比呂と一緒に?何してるんだろう。一体どういう感覚なのかな?
お似合い……
なんだろう。何だかモヤモヤする。すっごい嫌な感じ。胸がきゅっと締め付けられる気分。
私は歩きながら2人の様子を見つめていた。
羨ましいな、私もあんな風に比呂と……
─────
───
─
私は朝とは打って変わってずっとモヤモヤした気持ちで過ごしていた。
「失礼しました」
昼休み、提出物を先生に届け、職員室を出たあと、
「ちょっと、待って」
背後から声がした。私なのかな?と思い、私は足を止めた。
「あなたが白咲加奈ね?」
呼び止められたのが自分だと分かると、私は振り返って後ろを見た。
「え?」
心臓が強く跳ねる。
この人は……
そこにいたのは白銀の長い髪の毛を持つ美しい女性。
中庭で見かけた、比呂と一緒にいた人物──生徒会副会長の雪代エリナ先輩。
どうして私なんかに……
スーッと気の遠くなるような気分。
私はエリナ先輩の綺麗な真っ白の瞳に見つめられて身動き一つ取ることが出来ずにただ固まっていた。