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それから、保育園児が高校生になるくらいの時間が流れて、それでもあたしたちはこうして一緒に遊んでいる。

最近はちょっと回数も減ったけど。

ノリくんが怒りっぽくなってあんまり部屋に入れてくれなくなったけど。


「そんなに好きだったのー?」


アヒルの嘴でノリくんを突つくと、うっとおしそうに見られた。


「お前が嵌めたんだろ…」


「なによう、素直じゃないなぁ。部屋に飾ってるくせに。アヒルさんにはウソついちゃいけないんだぞー!」


ちゅちー! ちゅちー! ちゅちー!


繰り返して鳴らすと、ノリくんが溜息を吐いた。


「好きなら好きって言いなさいよ」


ふふん、と笑って言うと、またギロリと睨まれる。


「なら言ってやる」


ベッドからノリくんが起き上がって、あたしの目の前に立った。

成長期の男子の身長はあたしなんて軽く見下ろす程で、あたしはノリくんを見上げる。

睨まれたままだけれど、やっぱり少しも怖くない。


「亜依が好きだ」


ちゅちー!


アヒルさんが鳴く。

驚いて思わず力が入っちゃったせいだ。


「え? ウソ? へ?」


戸惑うあたしの手にノリくんの手が被さる。


ちゅちー!


ぎゅっと握られてまたアヒルさんが鳴く。


「ウソつくなって言ったのお前だろ」


掠れた声が呆れたように言う。

低い男の人の声で。


「ノリくん、あの、あたしもう帰───」


「逃げんな。誤魔化すな。はぐらかすな。なぁ、亜依」


カッスカスなんて言ってたのに、掠れた声も、気怠げな表情も色っぽくて。

呼ばれた名前に含まれる熱がわかった。


大人の顔で、大人の声で、大人の眼差しで、ノリくんはあたしを動けなくさせてしまう。

まるで知らない人みたいだ。

さっきまでのちょっと短気であまのじゃくなノリくんはどこに行っちゃったの?


「亜依は、俺のことどう思ってる? その気がないなら、休日ももう遊ばないし、こうやって部屋に入るのもやめてほしい。 期待だけさせられるのはもうイヤだ。中途半端に側にいられると、ツライんだ」


問いかけとお願いに、こんがらがる思考の中で考える。


今あたしはノリくんの部屋にいて、手を握られてて、それで告白されている。

そもそも今日ここに来たのは、あたしを避けるような態度のノリくんの真意を聞くためで。

避けてるようならなんでなのか聞いて、できればずっと仲良くしてほしいってことを伝えようと思ってて。

でも、今のが告白なら避けてるってことではないわけで。

だけどあたしがお断りしたらもう側にはいられなくなるってことで。

でもあたしはこれからも側にいたくて…。


あれ、つまりそれって?



やっと導き出された結論に、あたしはノリくんを見上げた。

真剣な顔は、睨まれるより怖く感じた。

だけど握られた手は痛くなくて、むしろあったかくて気持ちよくて。


ちゅちー!


ノリくんの手に力がこもって、アヒルさんがまた鳴いた。

早く言えって急かすように、はっきりしろって責めるように。


それに後押しされて、あたしはあの日のノリくんみたいにボソッと呟いた。


「…すき」


ちゅちー!


アヒルさんが鳴く。


「ほんとうだな? 後からやっぱりなしもダメだからな?」


ノリくんが顔を近付けるから、あたしは身を捩って逃げる。あーもー恥ずかしい。

でも、ウソじゃないことなんて、ノリくんだってわかってるはずでしょ?




だってアヒルさんには、ウソついちゃいけないんだから。


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