第0話 罪と罰
0)罪と罰
空は遠く、丸く、灰色だった。
時刻は昼間のはずなのに、円形の天窓から差し込む光は濁っている。
照明はあるが、広すぎる最高法廷の隅々までを照らす力はない。まるでこの国の縮図のようで、アレクは、くつり、と口の端を吊り上げた。
「っつ……!」
途端、頬の筋肉に引っ張られたのか、潰された喉が激しく痛み出す。
変に力が入ったからだろう、汗と埃で汚れた長衣の下で、体のあちこちが一斉に悲鳴を上げた。
苦悶の声が漏れそうになったけれど、奥歯を強く噛み締めなんとか堪える。
無様に悶える姿を見せたくなくて、アレクは意地で背筋を伸ばした。汗と埃に塗れた小麦色の髪が惨めに揺れた。
(クソ野郎どもが。地獄へ落ちろ)
アレクは無理矢理立たされた場所から、国を病ませる者達をねめつける。
下卑た笑みを浮かべる裁判官。売国奴に媚を売る貴族達。そして――堂々と国王の席に座る簒奪者を。
文句の一つでも言ってやりたかったが、声が出ない。
だが、言葉を発することができたとしても、誰もアレクの言い分など信じないだろう。これは仕組まれた断罪の場なのだから。
(この国はいつから、法治国家じゃなくなったんだ?)
結果は最初から決まっている。だから誰が何を言おうと、何をしようと、結論が覆りはしない。
抗う術を持たない哀れなアレクは、己の命運が尽きる瞬間を、黙して受け入れる他なかった。
「……――被告人は金級冒険者、司祭、領主の縁戚という社会的信用を利用して、ユージン第二王子、ノルバート侯爵令嬢、グレンウィル伯爵令息、および平民の学生二人に近付き、彼らを誘拐、監禁。禁呪を使用して彼らの判断力を奪い、国家転覆計画への加担を――……」
裁判長がつらつらと罪状を読み上げる。禁呪、という単語が登場した途端、聴衆達がざわめき出した。
禁呪は人倫に悖る、使えば極刑に値する術だ。しかも王族と高位貴族の子弟に使用したとなれば、首を切るだけでは済まされない。
(随分とまあ、立派な話になってるな)
アレクは思わず笑いそうになった。
真実と捏造の割合は半々といったところか。動機は異なるけれど、子供達に対して行ったことは概ね合致している。よくできた筋書きだと、考えた者を褒めてやりたい。
(でも、禁呪を使ったのは事実だし。責任は取らないと)
どんな事情であれ、罪は罪。ふさわしい罰を受けるべきだろう。
連中の強引なやり方は気に食わないが、覚悟は既に決めてある。
(そう、俺は分かっていた。この結末を)
証人席にも、傍聴席にも、子供達の姿はない。そのことに安堵する。
尊厳を踏みにじった犯罪者の顔など、二度と見たくはないだろう。自己満足に過ぎない謝罪をするつもりはないし、許されようとも思わない。
ただ、祈りたかった。可能性に溢れた彼らの未来が、ただただ明るくあるように。
(どうか、幸せに)
裁判長の声が途切れる。
彼の後ろ、最も高い位置にある椅子を占拠する王弟は、アレクを見下し高々と告げた。
「ここに裁きは下された! アレク・リードを国家転覆罪で……死罪とする!」
アレクは笑う。今度こそ、焼け付いた喉を遠慮なくふるわせて。
(ああ。――それで、いい)




