千年の孤独を超える光★
「――よし、これで、やっと……っ」
薄暗い石造りの工房に、私の震える声が小さく響いた。
机の上に広げられた巨大な羊皮紙。そこには、千年の歳月を費やして私が編み上げた、前代未聞の超大魔法――次元境界線突破型・単一生命体帰還方陣――の術式が、完璧な構築美を湛えて完成していた。
ふう、と小さく息を吐き、額に張り付いた銀糸のような髪を細い指先で払う。
その拍子に、尖った耳がピクリと揺れた。
鏡を見るまでもない。そこに映るのは、透き通るような白い肌に、どこか儚げな美貌を持ったエルフの少女。
それが今の私――ルナリアだ。
だけど、私の魂の根底にあるのは、まったく別の記憶。
二十一世紀の地球。日本という国で、ごく普通の男子高校生として生きていた「五十鈴飛鳥」としての記憶だ。
「長かった、なんて言葉じゃ足りないよわね……本当に」
自嘲気味に微笑む声は、鈴を転がすように可憐で、すっかり女のそれだった。
それもそのはずだ。いくら精神の根っこが少年のままだとしても、私はこの世界で千年間も女性として生きて、周囲から大魔導師ルナリアとして扱われてきたのだから。仕草も、言葉遣いも、生きるための処世術として、とっくに身体に染みついてしまっている。
けれど、エルフの明晰な頭脳は、前世の記憶を恐ろしいほど鮮明に保ち続けていた。
学校帰りに買い食いしたコンビニのチキン、部屋でいじっていたスマホの画面、家族と囲んだ食卓、友人と笑い合った何気ない日常。
昨日のことのように思い出せるそれらが、千年間、私の心を支え続ける唯一の光だった。
エルフの寿命は長い。だからこそ、周りの人間たちが老い、去っていくのを何度も見送った。同族以外に誰も私と同じ時間は歩めない。その孤独に耐えられたのは、ただ一つ、「絶対に地球へ帰る」という執念があったから。
「待っててね、みんな。……もう、誰もいないかもしれないけれど。それでも、私はあの青い空の下に帰りたいの」
胸の奥に燻る「少年」の心を奮い立たせ、私は立ち上がった。
ボロボロになるまで着古した、千年の研究の相棒である黒い魔導ローブを翻し、部屋の中央へ歩み出る。
床に刻まれた魔方陣が、私の意思に呼応するように淡い燐光を放ち始めた。
「集え、世界の根源たるマナよ。我が悲願の終着点をここに示せ」
両手を掲げ、詠唱を紡ぐ。
身体中を巡る膨大な魔力が一気に沸き立ち、視界が真っ白な光に包まれていく。千年の孤独の終わり。
懐かしい故郷への扉が、今、目の前で開こうとしていた。
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