第3話:死の味
乾いた土の上に倒れこんでいた大輝が目を覚ましたのは、正午をまわった頃だった。
ゆっくりと体を起こし、あたりを見回す。
地面に描かれていた魔法陣は消え、紗亡が言っていた、いわゆる領域というやつも消えていた。
静かな森の中に居るのは、大輝一人だった。
あの少女___黯神紗亡は、そこにはもう居なかった。
そして、大輝が背負っていたはずの星羅も、そこにはもう居なかった。
大輝は紗亡の発言を振り返り、彼女が星羅を連れて行ったのかもしれない、と思った。
重い足を動かしながら、誰かが紗亡を目撃しているかもしれない、などと手がかりがあることを期待し、ナイトネアへと向かった。
ナイトネア領に足を踏み入れた瞬間、大輝の視界に飛び込んできたのは血の海だった。
地面には、恐らくナイトネアの国民であろう者たちが大量に横たえていた。
その一人一人が激しく吐血しており、彼らの血が地面の大部分を埋めて尽くしている。
大輝の目の届くいたるところに死体は転がっていた。
そのどれもが外傷はなく、ただ大量の血の上に倒れていた。
…星羅のものと、非常によく似た症状だった。
突然、心臓を激しい痛みが襲った。
小刻みに身体が震えだした。
立っていることもかなわなくなり、流れ落ちるように膝をつく。
目に映っていた死体の散らばった景色がぼやけ出した。
死を確信した。
いつの間にか、膝元にも血だまりらしきものができていた。
それが自身の口から溢れ出たものだと気付いたころには、身体は平衡感覚を失い、またも意識を失ってしまったのだった。
_________________________________________
「____!」
繰り返し呼びかける声に応じるかのように、大輝は意識を取り戻した。
まだ生きている人がいたのだろうか…?力を振り絞り、顔を声の主の方へと向ける。
立っていたのは、緋色に染まったこの国にちっとも似合わない、白色のスーツを着こなした金髪碧眼の男だった。
「やっと目覚めたか。奇石野大輝というのはお前だな? 。…じゃあこれが奇石野星羅か?」
そういって男は左手に何かをとり、大輝の顔に近づけた。
…星羅の顔だった。
首から滴る血は、それがつい先ほど分断されたものであることを示していた。
…この男がやったのだろう。大輝は衰弱しきった目で、男を睨み付ける。
言いたいことや聞きたいことは山ほどあったが、喉に力を入れても、出るのは声ではなく血だった。
「…どうやらそのようだな。では、これにて終幕だ。さらば」
男はそう言って、右手の人差し指を地面の方へ向けた。
その瞬間、大輝の体は尋常じゃない圧力を感じた。
上から押し潰されるような感覚だった。
肋骨が折れ、皮膚を突き破った。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い_____________
間もなくして圧し掛かる力に耐え切れなくなった肉体は地に広がるように飛散し、大輝がだったものは血肉と化した。
奇石野大輝、1度目の死だった。




