表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シスコン兄貴奮闘記  作者: 恵/.
第一話 妹を守るため、魔術師になります
12/134

今の俺は人の姿を留めていない


  ◇



 ……古本屋を出た俺たちは、これまた近くのカフェに来ていた。店内は女性客が大半で、俺は明らかに周囲から浮いていたのだが、光子からのお誘いなので断れなかった。というか、断れる状況でもなかったんだけど。

「どうかしら? いい雰囲気でしょ?」

 確かに、店の雰囲気はいい。よくないとすれば、それは……俺たちの、正確には俺と優香の間に漂う雰囲気か。

「……光子。どうしてこの馬鹿兄貴を連れてきたのよ?」

 優香が、「私、今とても不機嫌です」と言わんばかりのオーラを発しながら尋ねた。……我が妹よ、そんなに兄と一緒が嫌か?

「あら、いいじゃない。私はお兄さんとお話したかったし」

「で、でも……」

 光子が構わないと言ってるのに(というか、そもそも彼女から誘ったんだし)、そこまで言われると悲しくなってくる……。

「ほら、お兄さんが今にも泣きそうな顔してるし、いい加減諦めなさい」

「分かったわよ、もう……」

 光子に宥められて、ようやく優香は俺の同席を許してくれた。……いいじゃないか。光子は俺にとっても幼馴染みたいなものなんだから、一緒にいても。それとも何か? 俺と二人っきりがいいっことか? ―――すんません、調子に乗りました。だから、そんなに冷ややかな目で見ないでください。

「それで? お兄さんは優香と、どこまで行ったの?」

「?」

「ぶっ……!」

 光子の発した問いに、優香が何故か、飲んでいた紅茶を噴き出した。だ、大丈夫か……?

「な、なんてこと聞いてるのよ……!?」

「え? 私はただ、優香とお兄さんがどこまでいちゃいちゃ、チュッチュしたのか聞いただけなんだけど?」

「んなことするか!」

 ……優香。光子の戯言に、また踊らされてるのか。よし、ここは兄らしく、助け舟を出してやろう。

「そうだな。優香にはよく踏まれたり、蹴られたりしてるな」

「あら、結構ハードね」

「あ、兄貴ぃーーー!」

 あれ? もしかして、やらかしたのか、俺? いつも優香には暴力振るわれてると、事実をありのままに言ったつもりなんだが……。

「……兄貴、ちょっと表に出なさい」

「は、はい……」

 まあ今更だけど、店の雰囲気ぶっ壊してるしな。いい加減、兄妹喧嘩は外でやったほうがいいか。

「いってらっしゃい」

 そして、この原因を作った張本人(光子)は、楽しそうに俺たちを見送っていた。……っていうか、絶対にこの展開を見越してただろ。

 結局、俺は優香にボコボコにされて、そのまま休日を終えたのだった。



  ◇



 ……翌日の放課後。俺は訓練のため、空き地へと向かった。

「……お前、どうしたんだよ、その顔? というか、顔の造形が変わってるぞ?」

「いやまあ、色々とあってさ……」

 その件についてはスルーして欲しい。

「まあいいか。今日の訓練を始めるぞ」

 ありがとう、それ以上食いついてこなくて。多分、今の俺は人の姿を留めていないだろうけど、仕方ないことなんだよ、うん。



「……そう。お兄さん、人間止めたんだ」

「止めたっていうか……まぁ、私が悪いんだけど」

 その頃、優香は光子(+その執事)と共に下校していた。二人が話しているのは、昨日の顛末だ。

「それは謝るべきよ。お兄さんも、悪気があったわけじゃないし」

「そうだけど……って、元はといえば光子があんなこと言うからでしょ!?」

「あ、ばれた」

「当たり前でしょ!」

 いつもの通り賑やかな二人を、執事がそっと見守る。そんな彼らに、道行く人々は思わず目を留め、けれどすぐに興味を失う。そんな異様とも言うべき光景が、この界隈では常であった。

「でも、謝ったほうがいいのは本当よ。……いつまでも、一緒にいられるとは限らないんだから。悔いのないようにね」

「光子……うん」

 幼馴染を諭す光子。彼女の言葉は、かつて優香の身に起きた、あの事件を踏まえた上で出てきたのだろうか。

「お兄さんに謝って、仲直りして、それからちゃんといちゃいちゃするのよ」

「うん……って、最後のはやんないわよっ!」

 真面目な話をしているのかと思えば、途中でふざける。このお嬢様は、一体何を考えているのか。その答えを、優香は未だに知らないのだった。

「そうね……あんまりくっつきすぎるのも、考え物かもね」

「そうよ。兄妹なんだから、適切な距離ってものがあるのっ! でも、兄貴はそれを平然と踏み越えてくるし……もう、ほんとシスコンなんだから!」

 そういう意味じゃないのだけれど……という呟きは、怒り心頭の優香には聞こえていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ