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不思議の森のうささん ξ

 時刻にして午後3時少し前。ウサミーミさんに案内されてたどり着いたのは彼女の住むキャロット村である。鬱蒼とした森の中、突然目の前が開けて現れたのは「江戸かよ」とツッコミを入れたくなるような光景であった。木造長屋が建ち並び、そこはまさしく時代劇の世界。どうやって整備したのか水路まであり、もう隠れ里のレベルを超えていた。


「奥の方の小さい家が、私の住む家なんです。先ずは私の家で今日の収穫を確認しましょうか」

 言いながら俺を見て。

「カトーさんはくれぐれも家の中でアイテムボックスを解放しないで下さいね。家、壊れちゃいますから」


「……分かった」


 俺に注意をする。


 実はあの後クマに案内させて殺人蜜蜂の巣を奪いに行ったのだが、余りにも巣が大きく、持ち運ぶのに苦労したのだ。大きさにして普通乗用車一台丸々収まるくらい。バレーボール大の蜂が作る巣だけあって、とにかくデカかった。それを強引に持って運ぼうとしたら途中から折れそうになったので、ダメ元でアイテムボックスに突っ込んでみたら、意外な事にすんなり収まってしまったのだ。異次元ポケッツである。銅鑼右衛門である。パンツマンには無限の可能性があるようだ。


 とにかく俺のアイテムボックスには蜂蜜タンクが入っており、その蜜は最高級品だそうだ。殺人蜜蜂から蜜を採るなど、まともな神経をしてたら絶対しないから、まずお目にかかれない貴重品なのだ。俺だって普段なら採ろうだなんて思わなかった。総撃墜数223匹。具体的な撃墜方法は秘密だが、クマが大活躍だったとだけは言っておこう。疲労で眠ってしまったクマは、道中俺の背中でうなされていた。パンツマンを解除した後だったから、なかなか重くて大変だった。そのクマをウサミーミさんの隣の家(なんとクマの家だ)へと運んでから、ウサミーミさんの家へと入る。家というより半分調理室のような所で、大きな調理台の上に今日の収穫を並べた。


 真っ赤な実の入ったマギヤン瓶が次々と並んで行く。俺は結局5個しか採れなかった。ボンゾ7、セーラ15……あれ、なんで増えてるんだ?


「カトーさんが蜂蜜を取りに行ってる間に、また少しだけ採ってたんですよ。莓将軍さんも手伝ってくれました」


 セーラがそう言うと、後ろで控えていた莓将軍が手に瓶を持ってやって来る。


『お前の分、採っタ。少ないが、踏んでダメにした詫びダ』


「莓将軍……」


 優しすぎる。俺は涙ぐみながらありがとうと言った。一瓶だが、物凄く嬉しかった。本来ならば仕事上ルール違反なのかもしれないが、ウサミーミさんは笑顔でそれもカウントしてくれた。


 結果は俺が6個×500+2000で計5000Y。

 ボンゾが7個×500+2000で計5500Y。

 セーラが15個×500+2000で計9500Yだった。


……セーラ、強すぎ。




 で、肝心の蜂蜜であるが、これがまた困った事に値段が高すぎて払えないらしい。


「一応、昔に売買された記録があるんですが……マギヤン瓶一つで7万Yで取り引きされてたみたいなんですよ。カトーさんの持ってきた巣がどれだけ蜜を貯めてるか分かりませんが、多分全部買い取ったらお店が潰れちゃいます。なので沢山は買い取れないんです、ごめんなさい」


 当たり前の話だろう。俺も納得している。第一そんな高級蜂蜜、買おうなんて人もあまり居ないだろうし、あるだけ邪魔という事にもなりかねない。しかし俺が巣を丸々持っててもなぁ……。



「なあカトー。それなら巣の処理を手伝ってもらって、蜂蜜だけ何本か瓶詰めにしてもらえばいいんじゃねえか。その時の手間賃として、この店にいくらか残していくとか」


「そうだな。俺もアイテムボックスの中にいつまでも巣を入れてたくないし。大体、巣を採ってきたのだって俺の個人的な憂さ晴らしだから、本来なら丸々ウサミーミさんにあげたっていいんだ」


 俺たちの発言にウサミーミさんと莓将軍がびっくりしていた。ウサミーミさんのうさ耳なんてぴょこんと直立している。……和んだ。


「ああ、そうだ。今日はこれからボンゾさんの家に行くから、今から採る蜂蜜をお土産に持って行こう。ウサミーミさん、大きめな瓶があったら売って下さい。それに詰めていきますんで」


「えっ!? あ、はい、今持って来ます!」


 パタパタと音を立てて、ウサミーミさんは家の奥へと走って行く。セーラは嬉しそうに俺の腕に抱きついてきた。……ん?


「カトーさん、凄くいい考えだと思います! クレアさんたち、絶対喜びますよ!」


「すまねえな、カトー。確かにうちの嫁たちゃ甘いもんに目がねぇんだ。多分……いや、絶対喜ぶだろうな。しばらく機嫌もいいだろうし、俺が一番助かる。ありがとう」


 ボンゾ……その言葉にはなんだか哀愁が漂ってるが、頑張れよ?


 そんな会話をする俺たちを、莓将軍は腕を組ながら黙って眺めていた。顔は見えないが、多分微笑んでいたと思う。ああ、これがこの世界での俺の居場所で、大切な仲間たちなんだ。なかなかいいやつらだろう? 俺がそう笑いかけると、莓将軍は小さく頷いてみせた。









 巣の解体は、家の裏の庭で行われた。


 殺人蜜蜂の巣は前述の通り乗用車一台分、それも形状がラグビーボールのように中央がパンパンに張っている。余りのデカさ。急遽村の人たちに手伝ってもらっての作業となった。そこで採れた蜂蜜だが……。


 凄まじい量で、蜂蜜風呂が出来そうなくらい。村人総出の瓶詰め作業となり、もうこうなってしまうと皆に振る舞うしかなくなる。ここまでしてもらって、一人じめできる神経は俺には無い。とりあえず一升瓶三本は確保したから、それでいいや。そう思って、俺はウサミーミさんに言った。


「この三本以外はウサミーミさんに差し上げます。この蜂蜜を使って、手伝ってくれた皆に何かご馳走してあげて下さい。そのまま分けてあげても構いません」


「い、いいんですか!? これ、一財産ですよ!」


「俺はもう充分貰ったし、今日は色々楽しませて貰ったから。二人にも親切にして貰ったしね。なぁセーラ。ボンゾさんも、結構楽しめたよな」


 問いかけると、二人は笑顔を浮かべて言った。


「私は森で仕事が出来てとても気持ち良かったです。ウサミーミさんや莓将軍さんと作業するのも楽しかったですよ。毎日来たいくらいです」


「俺も充分楽しんだぜ。こうして土産も持たせて貰ったし、こんないい仕事はなかなか無え」


「ほら。という事で、俺たちはそろそろ帰るよ。後の事は、申し訳ないがウサミーミさんに任せたい。いいですか?」


「は、はい! 分かりました! それでは私は早速村の皆さんの為にこれから何か作ろうと思いますので、名残惜しいですがこの場で失礼させていただきます。莓さん、皆さんを森の外までお送りしてくれますか?」


『了解』


 そして、ウサミーミさんはこちらに頭を下げる。


「本日は素晴らしいお仕事ぶりでした! また機会がありましたら、キャロット村にお越し下さい。仕事以外でも、皆さんなら大歓迎です!」


「ああ。きっとまた来るよ。今度は客として、ウサミーミさんのお店に来ようと思う」


「是非ともお越し下さい、お待ちしております!」


 俺たちは気持ち良く別れの挨拶を交わすと、ウサミーミさんの家を後にした。村人たちからも、蜂蜜ありがとうという声がかけられる。やれやれ、話を聞かれていたようだ。まあこんなイベントなかなか無いだろうから、この村にとっては良い娯楽となっただろう。俺たちは村人たちに見送られながら、意気揚々と村を後にした。






 キャロの森を抜ける。


 森には莓将軍の先導が無ければ確実に迷うような、認識阻害の結界が敷かれていた。森を出る際に、莓将軍から小さなアミュレットのようなものを手渡された。


『これがあれバ、迷わなイ。次から付けて来イ』


「ありがとう。是非また遊びに来るよ。今日は世話になったな」


『なぁニ、こっちも楽しかっタ。またナ』


 片手をあげて、背を向ける莓将軍。そっけない態度ではあるが、それで嫌な感じはしない。俺たちが見守る中、登場した時のように森の手前で波紋を作ると、その中へと消えて行った。


「……莓将軍、か」


「けったいな名前だが、性格は悪くねえようだな。腕もいい。あいつがいるなら、あの村も安泰だろうよ」


「もっとお話出来たら良かったんですけどね。けど、カトーさんと何やら通じ合ってるような感じでしたし、恋人としては警戒した方がいいんでしょうか」


 ……?


 セーラは何を言ってるんだ?


「なぜ莓将軍を警戒するんだ。あいつがセーラに何かしたのか?」


「いえ、そうじゃないんです。莓将軍さんは女の方ですから、カトーさんが莓将軍さんの事ばかり見てたら嫌かなって思ったんです……って、カトーさんは気づかなかったんですか?」


「いやセーラ、コイツが気づかないのも無理はねえ。俺だってカトーが居ない時にあいつがナメクジに驚いて悲鳴をあげて、それで初めて気づいたからな」


 なんと。女性だったのか。分かるワケがないって。ナメクジに驚いて……ああ、ルビーベリーを採ってくれた時か。


「そうだったのか。でもまあ心配するような事は無いさ。確かに俺は莓将軍と組んでみて感覚的に通ずるものがあると思ったが、それは戦闘面でだからな。第一パンツマンを見て固まらないやつなんて初めて見たぞ、肝が座ってるにも程がある」


 奴はなかなか見所がある。そんな風にウンウンと頷くと、ボンゾが呆れたように言った。


「セーラから聞いちゃいたが、実際目にするとアレだな。カトー、おめぇは変態だ。変なやつというより、変態なやつなんだ」


 言いにくい事をサラリと言いやがるな、この親父は。


「ボンゾさん、言わないで下さい。この事については私も諦めてますから」


 泣きたくなってきた。確かに悪のりしてるとは思うが、これを無くしたら俺が俺でなくなる。


「あの状態じゃ仕方ないんだよ。ステータスが急上昇するかわりに、気分も異様に高まるんだ。だからなるべくあの状態にならないようにしたいんだが、今回は相手が悪かった」


「……こんな事言ってるが、どうなんだセーラ」


「嘘です」


 セーラ……。


「とりあえずおめぇは自重しろ。何よりも、セーラの為に」


「分かった」


 そう言うしかあるまい。残念ながら、パンツマンはしばらく休業という事になりそうだ。まあ、またいつか復活して弾けまくるさ。正義の味方は決して負けないのだから。











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