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「となりの席のアカシックレコード〜全知全能だけど、空気だけは読めません〜」  作者: 源三郎


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第21章 迷子のお知らせです、監査官アルシヴ様

体育祭は終わった。


宇宙記録の誤接続も、いったん収束した。


黒板は普通の黒板に戻り、購買の列も日本時間で動いている。


けれど、宇宙情報管理局は何も見ていなかったわけではない。


そして翌日。


青蘭高校に、ひとりの監査官が来る。


ただし、教室へはなかなか来ない。


翌朝の二年三組は、拍子抜けするほど普通だった。


黒板に光の文字はない。


校内放送も乗っ取られていない。


不死川勇気ふじかわ・ゆうきが朝からうるさい以外、特に異常はない。


「異常なしだな」


凡田一ぼんだ・はじめが言うと、明石コトハ(あかし・ことは)は不明事項記録帳を開いた。


「異常なし、と記録します」


「それ記録すると異常っぽい」


星宮ミーナ(ほしみや・みーな)は机に突っ伏していた。


「体育祭の翌日に授業あるの、人類の設計ミスだと思う」


白金歌音しろがね・かのんが即答する。


「出席してください」


桜庭レイコ先生が教室に入ってきた。


「はい、朝のホームルームを始めます」


その瞬間、校内放送が鳴った。


『ピンポンパンポン』


凡田は反射的に天井を見た。


「またか」


しかし放送は、いつもの事務的な声だった。


『迷子のお知らせです』


教室が一瞬止まる。


『宇宙情報管理局よりお越しの、監査官アルシヴ様。現在、二階渡り廊下付近で迷子になっております。お心当たりの方は、職員室まで』


凡田はゆっくりコトハを見た。


「来たぞ」


コトハは小さくうなずく。


「監査官アルシヴです」


「迷子だけど」


「はい」


「宇宙情報管理局、大丈夫か」


桜庭先生はこめかみを押さえた。


「明石さん、説明できますか」


「監査官アルシヴは、宇宙情報管理局の外部査定担当です」


「方向音痴なのか?」


「空間把握能力は高いはずです」


放送が続いた。


『なお、アルシヴ様は現在、理科準備室を銀河辺境資料庫と誤認されています』


凡田は言った。


「高くない」


白金が立ち上がった。


「迎えに行きましょう」


不死川も立つ。


「俺も行く!」


「迷子が増えるので座っていてください」


結局、凡田、コトハ、白金の三人で迎えに行くことになった。


廊下は普通だった。


ただ、体育祭の翌日特有のだるさがある。


貼りっぱなしの応援ポスター。


片づけ忘れたはちまき。


廊下の隅に置かれた段ボール。


コトハはそれを見ながら歩く。


「昨日の記録が、少し残っています」


「記録っていうか片づけ忘れだな」


「でも、昨日があった証拠です」


白金が前を歩きながら言った。


「感傷に浸る前に、監査官を回収します」


「回収って言った」


二階の渡り廊下に着くと、銀色の髪の少女が立っていた。


青蘭高校の制服ではない。


白い外套。


無表情。


手には、薄い光でできた端末。


ただし、彼女は非常口の案内板を真剣に見つめていた。


「ここが、第三星系観測坑道ですか」


凡田は言った。


「非常階段です」


少女は振り向いた。


「あなたは」


「凡田一。こっちは明石コトハ」


コトハは静かに頭を下げる。


「お久しぶりです、アルシヴ」


アルシヴはコトハを見た。


ほんの一瞬、表情が動いたように見えた。


「現地体験者」


コトハの指が少しだけ動く。


第19章で、彼女が記録帳に書いた言葉。


アルシヴは端末を見る。


「記録存在が、自身を現地体験者と定義しました。監査対象として極めて異常です」


凡田は口を挟む。


「挨拶の前に異常判定するな」


アルシヴは凡田を見る。


「あなたは、平凡歩行によって異常増幅を抑制した個体」


「その呼び方やめろ」


白金が礼儀正しく言った。


「監査官アルシヴ様。二年三組はこちらです」


アルシヴはうなずく。


「案内を受諾します」


三歩進んで、反対方向へ曲がった。


白金が即座に言う。


「そちらではありません」


「空間座標は一致しています」


「廊下の座標は一致していません」


凡田はつぶやいた。


「宇宙座標で学校を歩くな」


なんとか教室へ戻ると、クラス中がアルシヴを見た。


ミーナが小声で言う。


「銀髪監査官、属性強い」


不死川は興奮している。


「監査って戦うのか?」


「戦いません」


アルシヴは教卓の前に立った。


「宇宙情報管理局監査官、アルシヴです。明石コトハの現地活動について、再査定を行います」


教室が少しざわつく。


再査定。


その言葉だけは、コメディの温度を少し下げた。


コトハはまっすぐ前を見ている。


凡田は隣で、その横顔を見た。


アルシヴは続ける。


「第15章から第20章にかけて発生した記録異常は、管理上重大です」


凡田が思わず言う。


「章って言った」


白金が小声で注意する。


「そこではありません」


アルシヴは端末を操作した。


「明石コトハは、記録存在としての安定性を低下させています」


コトハは静かに聞いている。


「したがって、監査終了後、帰還推奨が出る可能性があります」


教室の空気が止まった。


帰還。


凡田の胸に、その言葉が少し遅れて入ってくる。


ミーナが顔を上げる。


不死川も黙る。


白金は表情を引き締めた。


コトハだけが、小さく言った。


「帰還」


アルシヴはうなずく。


「元の記録領域へ戻ることです」


凡田は、昨日の放課後を思い出した。


戻ってきました。


いつもの放課後へ。


それなのに、また別の「戻る」が来た。


彼は言った。


「とりあえず」


全員が凡田を見る。


「監査するなら、まず教室の場所を覚えてからにしろ」


アルシヴは無表情に答える。


「合理的です」


コトハが、ほんの少しだけ笑った。


監査編は、迷子のお知らせから始まった。


読んでくださってありがとうございます。


体育祭編が終わり、監査官アルシヴが再登場しました。


今回はかなり重要な話の入口ですが、本人はまず校内で迷子です。

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