表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「となりの席のアカシックレコード〜全知全能だけど、空気だけは読めません〜」  作者: 源三郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/60

第14章 委員会は自分で選びます

新聞の見出しには、途中式がなかった。


だから、本文を確認する。


明石コトハはそう記録した。


では、誰かの役割を決めるときはどうだろう。


見た目。

点数。

噂。

過去の記録。


それだけで、人の担当を決めていいのか。


この日のホームルームの議題は、委員会決めだった。


黒板に、白金歌音が委員会一覧を書いている。


図書委員。

保健委員。

体育委員。

文化祭実行委員。

美化委員。

新聞委員。


最後の文字を書いた瞬間、二年三組の空気が少し揺れた。


新聞委員。


昨日、号外でひと騒ぎあったばかりである。


凡田一は、なるべく目立たないように座っていた。


委員会決めで一番大事なのは、早めに視線を消すことだ。


不死川勇気は逆に、なぜか手を挙げかけている。


「何に立候補する気だ」


「全部!」


「委員会はスタンプラリーじゃない」


星宮ミーナは机に突っ伏したまま言った。


「私は放課後が忙しいので、放課後活動が少ない委員がいい」


白金がすぐに反応した。


「星宮さん、放課後に何が」


「家庭の事情」


「ご家庭の活動量が多すぎます」


桜庭先生が教卓から言った。


「では、各委員を決めます。できれば立候補で」


その言葉に、教室全体が静かになった。


立候補。


高校生にとって、時に小テストより重い二文字である。


コトハは、不明事項記録帳を開いた。


『委員会』

『適性に基づく役割配分』


凡田は嫌な予感がした。


「コトハ」


「はい」


「何をする気だ」


「最適配属案を作成します」


「やめろ」


「図書委員には、読書記録上の滞在時間が長い生徒を。保健委員には、負傷頻度の高い生徒を。体育委員には、運動能力が」


「個人情報で委員会を決めるな」


コトハは真顔で不死川を見た。


「不死川さんは保健委員への適性が高いです」


不死川が胸を張る。


「俺、けがしやすいからな!」


「患者側だろ」


「星宮さんは放送委員への適性があります」


ミーナの肩が跳ねた。


「なんで」


「人前で声を出す活動記録が多いためです」


「家庭の事情!」


「白金さんは新聞委員への適性があります」


白金が目を見開いた。


「なぜですか」


「情報の検閲と校正に強い関心を示しています」


「それは昨日の被害対応です」


「桜庭先生は体育委員顧問への適性が」


教卓の桜庭先生が、静かに言った。


「明石さん」


「はい」


「本人に確認しましょう」


教室が、すっと静かになった。


コトハはまばたきする。


「本人に」


「はい。適性がありそうに見えても、本人が望むとは限りません」


凡田は、少しだけ感心した。


昨日の新聞と同じだ。


外から見える情報だけでは、本文はわからない。


ミーナがぼそっと言った。


「私は新聞委員だけはやめて。書かれる側で手一杯」


白金が冷ややかに言った。


「新聞委員は、事実確認ができる人を希望します」


「それ、昨日の反省会?」


「委員会決めです」


コトハはそのやり取りを見て、少しだけ考えた。


「役割は、外部から見える情報だけでは決定できません」


「お、昨日の新聞から学んでる」


「はい。見出しだけで判断すると、誤配属が発生します」


「委員会を物流みたいに言うな」


白金が黒板の前に立った。


「では、まず立候補を募ります」


誰も手を挙げない。


沈黙。


不死川が手を挙げた。


「体育委員!」


「理由は?」


「走れそうだから!」


「まあ、いいんじゃないか」


白金が黒板に名前を書く。


ミーナが小さく手を挙げた。


「美化委員なら、放課後短い?」


白金は答える。


「日によります」


「じゃあ美化で」


「理由が消極的ですが、立候補として受理します」


「やった」


凡田は、とにかく目を消していた。


だが、コトハがこちらを見る。


「凡田くん」


「何」


「君は、どの委員会を選びますか」


「できれば選ばれない方向で」


「それは選択ではなく回避です」


「高校生活には回避も必要なんだよ」


コトハは少し考えた。


「私は、図書委員を希望します」


教室が少しざわつく。


凡田は目を丸くした。


「図書委員?」


「はい」


「なんで」


「本には、見出しと本文があります」


「急に昨日の話がつながった」


「私は、見出しだけで判断しない練習をします」


白金が少し柔らかく笑った。


「よい志望理由だと思います」


コトハは、黒板の図書委員欄に自分の名前が書かれるのを見ていた。


それは、誰かに割り振られた役割ではない。


自分で選んだものだった。


では凡田はどうするのか。


白金が黒板を見た。


「図書委員は二名です。明石さんと、もう一名」


教室がまた静かになる。


凡田は視線を机に落とした。


落とした。


しかし、コトハが横から小さく言った。


「凡田くんは、回避しますか」


その言い方は責めていない。


ただ、聞いている。


第11章で、コトハは質問を覚えた。


今度は、凡田が質問されていた。


「……まあ」


凡田は小さく息を吐いた。


目立たない委員会を選ぶなら、ほかにもあった。


仕事が少なそうな委員会。


誰とも深く関わらずに済みそうな委員会。


いつもの凡田なら、そちらを選んでいた。


でも、黒板の図書委員欄には、もう明石コトハの名前がある。


一人で、見出しではなく本文を見ようとしている名前が。


「図書委員なら、そんなに悪くないか」


白金がすぐに黒板へ名前を書いた。


『図書委員 明石コトハ 凡田一』


「早い」


「立候補として受理しました」


「まだ立候補って言ってない」


コトハは、ほんの少しだけ笑った。


「よろしくお願いします」


「こっちこそ」


黒板に並んだ二つの名前を見て、凡田は少し変な気分になった。


席が隣なのは、くじ引きだった。


掃除当番も、宿題も、小テストの見直しも、だいたい巻き込まれた結果だった。


けれど、図書委員は違う。


少なくとも今の一歩だけは、自分でそちらに行った。


その瞬間、不死川が叫んだ。


「図書委員って本を運ぶのか? 俺も手伝う!」


「お前は体育委員だろ」


「走って運ぶ!」


「本がかわいそう」


放課後。


図書室へ行くと、司書の先生が大量の返却本を指さした。


「これを分類して、棚へ戻してください」


凡田は山を見た。


「初日から重い」


コトハは本の背表紙を見つめている。


「分類」


「好きそうな言葉だな」


「はい」


「でも、人間の分類とは違うぞ」


「本は、本人の許可なく分類してもよいのですか」


「本はたぶんいい」


「では、最適分類案を作成します」


「普通に棚番号を見ろ」


コトハは返却本を三つの山に分け始めた。


『人類の知識を増やす本』


『人類の情緒を揺らす本』


『表紙で判断すると危険な本』


凡田は一番右の山を見た。


「図書館にその分類棚はない」


「必要だと思います」


「気持ちはわかるけどない」


そこへ、不死川が体育委員の腕章をつけたまま顔を出した。


「本、運ぶんだろ! 手伝うぞ!」


「走るなよ」


「図書室だからな! わかってる!」


不死川は小声で叫びながら、返却本の山を両腕に抱えた。


そして、静かに全力疾走しようとした。


「静かな全力疾走って何だ」


司書の先生が無言で人差し指を立てる。


不死川はその場で急停止した。


本の山だけが、少し遅れて前へ行こうとする。


凡田とコトハが同時に手を伸ばした。


ぎりぎりで支えた瞬間、コトハが真顔で言った。


「危険図書です」


「危険なのは運搬方法だ」


ミーナもなぜか廊下からのぞいていた。


「図書室って静かなのに情報量多いね」


白金がその背後から顔を出す。


「図書室では静かにしてください」


「すでに静かな全力疾走だった」


「概念がうるさいです」


コトハは、崩れかけた本を抱えたまま真剣に言った。


「図書委員業務は、想定より防衛戦に近いです」


「近くない」


「では、分類を修正します」


コトハは右端の山から一冊を戻した。


『表紙で判断すると危険な本』


その札を、そっと裏返す。


裏には小さく書かれていた。


『本文確認待ち』


凡田は笑いそうになって、少しだけこらえた。


「それ、棚じゃなくて姿勢だな」


「姿勢」


「置き場所じゃなくて、読み方」


コトハは札を見つめた。


「読み方は、分類できますか」


「たぶん、本人が決める」


「本にも本人がありますか」


「著者はいる」


「では、著者確認待ちです」


「遠ざかった」


コトハは少し考え、札をもう一度裏返した。


『本文を開いてから決める本』


凡田は今度こそ小さく笑った。


「それなら、ありかもしれない」


問題は、その札の下に本が集まりすぎたことだった。


派手な恋愛小説の表紙を開くと、中身は税制改革の入門書だった。


筋肉質な剣士が表紙の本を開くと、内容はやさしい園芸日記だった。


かわいい猫が表紙の絵本を開くと、三ページ目から地域防災マニュアルになった。


凡田は頭を抱えた。


「この学校の蔵書、どうなってるんだ」


「表紙と本文の差異が大きいです」


「大きすぎる」


不死川が園芸日記をのぞきこんだ。


「この剣士、花育てるのか」


「剣士じゃなくて、たぶん園芸部員だ」


「でも表紙でめちゃくちゃ戦ってるぞ」


ミーナが猫の絵本を開いた。


「猫、避難経路を説明してる」


白金が静かに本を閉じた。


「分類担当者の精神状態を確認したいですね」


コトハは三冊を見比べた。


「つまり、表紙は見出しです」


「そうだな」


「本文を開くまで、猫が防災する可能性を排除してはいけません」


「そこまで一般化するな」


司書の先生が奥から、申し訳なさそうに言った。


「それ、文化祭で作ったダミーカバー企画の残りです」


全員が止まった。


凡田は言った。


「まずそこに本文を書いておいてください」


司書の先生は、こくりとうなずいた。


コトハは不明事項記録帳に書いた。


『ダミーカバー:見出しと本文の差異を意図的に発生させる罠』


「罠じゃない」


司書の先生は、少し考えてから言った。


「せっかくなので、その本だけ一度、展示にしてもらえますか」


凡田は聞き返した。


「展示?」


「表紙ではなく、一ページ目を読んで選ぶ棚です」


コトハの目が、わずかに明るくなった。


「本文選択棚」


「名前が硬い」


「では、本文確認カウンター」


「役所っぽい」


白金が腕を組んだ。


「趣旨はよいと思います。表紙の印象と本文の内容を確認してから借りる。昨日の新聞部にも必要な姿勢です」


「白金、昨日から新聞部にだけ当たり強くない?」


「事実です」


結局、返却台の端に即席の小さな展示が作られた。


表紙は伏せる。


かわりに、最初の一文だけを紙に書いて置く。


凡田が税制改革の入門書を開いた。


『この国で最も身近な冒険は、給与明細の中にある。』


「冒険?」


不死川が即座に手を挙げた。


「それ借りる!」


「お前、税制だぞ」


「冒険なら行く!」


白金が園芸日記を開く。


『今日も、土は裏切らなかった。』


ミーナが静かにうなずいた。


「ちょっと読みたい」


「わかるのか」


「家庭の事情で、土が裏切る日もある」


「どんな家庭だ」


コトハは防災マニュアルを開いた。


『猫は避難袋に入りません。人間が先に落ち着いてください。』


全員が黙った。


凡田は言った。


「これは普通に役に立つ」


「はい。猫は本文で防災していました」


「その言い方はまだ変だけどな」


不死川は税制の本を抱え、ミーナは園芸日記を抱えた。


白金は防災マニュアルを手に取る。


「では私はこれを借ります。猫の項目だけ確認します」


司書の先生が小さく拍手した。


「初日から展示が成立しましたね」


凡田は展示台を見た。


表紙を伏せた本たち。


その横に、コトハが書いた小さな札。


『本文を開いてから決める本』


たしかに、これは図書委員の仕事なのかもしれない。


ただ棚へ戻すだけではない。


誰かが開くまで、見出しの奥にあるものを待っている。


コトハは一冊を手に取った。


表紙には派手なタイトル。


しかし中身を開くと、静かな短編集だった。


「見出しだけでは、わかりません」


「本でもそうだな」


「はい」


コトハは、ゆっくり本を棚へ戻した。


「役割も、本も、本文を見ます」


凡田は隣で本を抱え直した。


図書委員になったことは、少し面倒だった。


でも、悪くはない。


静かな図書室で、コトハが一冊ずつ本を見ている。


それを横で手伝う。


たぶん、こういう委員会もある。


さっきまで、コトハは本を分類しようとしていた。


凡田は、それを止めようとしていた。


けれど今は、同じ本を開いて、同じ棚を探している。


止めるだけではない。


隣で見る。


そのほうが、たぶん少し難しい。


「凡田くん」


「何」


「一緒に探すと、棚の場所を覚えやすいです」


「それ、全知っぽくない感想だな」


「はい」


コトハは少しだけ本を抱え直した。


「だから、記録しておきます」


「記録するほどのことか」


「はい」


コトハは、棚の番号を見上げたまま言った。


「私は、全部を知っていたとき、探す必要がありませんでした」


凡田は黙った。


「でも今は、探しています。間違えます。君が止めます」


「止めてばっかりだけどな」


「今日は、止めたあとに一緒に見ています」


その言い方が、妙にまっすぐだった。


凡田は手元の本を棚へ戻した。


「……まあ、図書委員だからな」


「はい。図書委員です」


コトハは少しだけ笑った。


「隣の席以外にも、隣があります」


凡田は、なんとなく視線をそらした。


一緒に探す。


たったそれだけの言葉が、思ったより教室の隣席より近く聞こえた。


そのとき、返却本の山の下から、古い冊子が一冊滑り落ちた。


『青蘭高校 体育祭 実施要項』


凡田は冊子を拾った。


「図書室に体育祭の資料?」


コトハが表紙を見つめる。


「分類が不明です」


中を開くと、過去の種目表が挟まっていた。


リレー。

玉入れ。

棒引き。

騎馬戦。


コトハの指が、騎馬戦の文字で止まった。


「四人一組」


「うん」


「上部一名、下部三名」


「言い方がすでに嫌だな」


「役割が、固定されています」


「体育祭の種目だからな」


コトハは少しだけ考えた。


「委員会は選択できました。体育祭も選択できますか」


凡田は冊子を閉じた。


「一応、希望は出せる」


「一応」


「その一応が、だいたい面倒なんだよ」


コトハは、その言葉を不明事項記録帳に書きかけて、やめた。


まだ、本文を見ていない。


白金が廊下から顔を出した。


「図書委員のお二人、活動は順調ですか」


白金が冊子に気づく。


「あら、体育祭の古い資料ですね。ちょうど明日のホームルームで種目決めをします」


凡田は固まった。


「明日?」


「はい」


コトハは冊子を見つめた。


「次の役割選択案件です」


「案件にするな」


コトハは、不明事項記録帳を開いた。


『役割は、押しつけではなく選択できます』


その下に、もう一行。


『見出しではなく、本文を見ます』


さらに、少し迷ってから。


『隣に行くことも、選択できます』


図書室の窓から、夕方の光が差し込んでいた。


本の山は、まだ半分も減っていない。


でも、二人で棚を探す時間は、思っていたより静かで。


思っていたより、悪くなかった。


読んでくださってありがとうございます。


今回は、委員会決めと図書委員の話でした。


見出しだけで人を決めない。

役割は押しつけるものではなく、自分で選ぶこともできる。


コトハと凡田は、少し面倒な図書委員になりました。

席が隣になったときとは違って、今回は少しだけ自分たちで隣へ進んでいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
面白い、続きが気になる、明石コトハの青春をもっと見たい、と思っていただけましたら、
下の評価欄から★評価・いいね・ブックマークで応援していただけると、とても励みになります。
あなたの一つの反応が、次のエピソードを書く力になります。
目次へ戻る 感想を書く レビューを書く
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ