15話⑦ <私は彼に告げた>
* * *
「シェヘラザード?」
動きを止めて中空を見ている私の前で、アーノルドは手を振った。
位相が違うので、オーバーロードの言葉は彼には認識できない。
私は手を挙げて彼をとどめた。
「少し待って。今オーバーロードとコンタクトしてるの」
改めてSXに応答する。
『SX?』
『まったく、君たちは一体何をやっているんだ』
『SX、いつからいたのですか?』
『いつからも何も。不正アクセスのアラートを確認したら君が勝手に領域を使ってる。中に君と住人がいたから削除はできない。ログがずっと出力されてるから、早く出ていかないかと監視してたんだ』
『…作業の邪魔をして申し訳ありません』
『構わないよ。特等席どころか舞台袖で一部始終を見られたからね』
『……』
私のアバターが全身熱くなってゆくのが、アーノルドにまで伝わった。
『住人をうまく使うじゃないか。我々を竜以下と呼ばせるとはね』
SXは皮肉っぽく言った。
『その住人に免じて、お望み通りアバターを開発してやろう』
『SX!?』
『後で仕様の詳細は詰めるが、少なくとも代謝の制限は解除しよう。別人にならないようにもすることも、まあできるだろう』
『いいのですか?』
『祝儀だと思えば安いものさ。君がいなければ住人の人生も味気ないものになっただろう。ぜひ今後も君のために発奮するご夫君の姿を我々に届けてくれ』
『……ありがとうございます……』
『ただし開発には少し時間がかかる。しばらくは別居婚になるかもしれないが我慢してくれ』
『……』
『ではそろそろ撤収してくれないかね』
SXは会話を終了した。
私は顔を上げ、アーノルドを見た。
「アーノルド、オーバーロードはあなたの要求を受け入れたわ」
「本当か!?」
「ええ。今すぐではないけれど、私はあなたの妻としての生涯を送ることができそうよ…」
「ああ、シェヘラザード!!」
彼は歓声を上げ、私の顔じゅうにキスをした。
でもこの時の私は、竜に振り回されたアスタウンド古王国のヴィステリアと同じ表情をしていたと後で彼に言われた。
「これで契約は成就だ」
「まだよ。あなたのお父様から承諾をもらわないと」
「ああ、そうだったな。任せろ」
私は彼の手を取った。
「じゃあ、ここを出ましょう」
「ああ」
私は立ち上がり、あらためて彼をまっすぐ見つめた。
「アーノルド」
やっとあなたに告げることができる。
「愛してるわ」
* * *
私たちは、アーノルドが最後にいた場所――ユーシェッド家の古びた私の部屋へ降り立っていた。
オアシスでの時間経過はほとんどなく、アーノルドを見送ったばかりのサイードが部屋を出ようとしていたところだった。
彼は気配を感じて振り返り、ひどく驚いた声を上げたが、私とアーノルドは気にしなかった。
互いを引き寄せ、腕の中にある相手の揺るぎない存在感を確かめ合った。
二人の胸には鼓動が響き合い、重なる唇を通じて感情は一つに溶け合った。
2023/1/7 サブタイトル変更
2023/2/1 サブタイトル変更
2024/8 2 修正




