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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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作戦会議

 翌朝、再び森の中を歩く。眠気を覚ますように、森の冷たい空気が息を吸い込む度に肺に入り込んでくる。心地よく感じながら弥素次は、獣道を踏み締めていた。昨日同様、前を歩く惣一と連の雰囲気は変わらない。育也は昨日のように懐かしそうに森を見ることもなく、神経を張り詰めたような、緊張した面持ちで歩いている。さすがに、副隊長を務めているだけあると思う。昨日と表情が違い、何処か毅然とした雰囲気を纏わせていた。育也が隣にいるおかげか、自然と自分の気も引き締めてしまう。惣一か連が隣なら、然程気を引き締めてはいなかっただろう。

 朝日が森に差し込んでくると、暖められた空気は白く、靄がかかったように木々の間に立ち込めていく。朝日が靄を捉えるように照らし、真っ直ぐな帯を見せるように地面に降り注いでいた。

日が上に来る頃には、広かった獣道も徐々に狭くなり、いつしか見分けもつかない道に変わっていた。森の装いは明るい日とは対照的に、不気味な程の静けさが漂ってきているように思える。道なき道を更に奥へと進んで行く。何処かで見たような景色だと思いつつも、盗賊達の根城を目指す。

「随分奥に、根城があるんだな」

 連が感心したように、呟いている。

「人も妖も、早々入って来ないからなあ」

 連の言葉に、周りを警戒しながら惣一が答える。

「一度迷うと、獣道に辿り着くのも大変だよな」

 惣一と同じく周りを警戒している育也が呟いた言葉で、そうかと思い出す。

「済みません、惣一さんと初めて会った日の前日に、ここを通りました」

 自分が森の奥で迷っていたと自覚させられ、弥素次は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 連が呆れた顔で、冷たい視線を向けてる。

「よく盗賊と遭遇しなかったよな」

 連と同じく呆れた顔で育也が言うと、弥素次は苦笑いを浮かべたまま、私もそう思いますと返した。

「呑気過ぎるんだ、お前は。だから、濡れ衣を着せられて、逃げなくてはいけなくなる。もう少し、しっかりしろ」

 済みませんと、連の言葉に素直に誤ると、連はくすりと笑いかけた。

「ま、お前がその性格だから、付き合い易くていいんだが」

「結局、今のままでいろって、言いたいだけだろ」

 面倒臭そうに育也が言うと、連は言葉を出さずに笑ったままだった。

 昼食を摂れそうな場所で、一旦休憩すると再び歩き出す。もう、根城までは近い筈。気を引き締めているが、もう一度、今度は意図的に気を引き締めるように弥素次は深く呼吸した。

 昨日の会話で連達が言っていた言葉が、思い出される。連が追手の半分程度を負傷させても、後から援軍は必ず来る。今は援軍が来なくとも、残っている者達が盗賊にまぎれて襲って来る可能性も視野に入れておかねばならない。弥素次と育也だけでは、すぐに囲まれる可能性もあるが、連という未知数の妖がいる。惣一を守りながらという前提つきだが、連が何処まで手を出してくれるかに掛かっているかもしれない。連の性格上、全く手を出さないで見ているというのもあり得る。盗賊の人数が把握出来ていない上に、追手まで紛れ込まれては、こちらの分が悪くなりそうだ。

「あの小屋だよ」

 日が傾きだした頃に、惣一が言いながら指差した。指した先に、木造の古い小屋が見える。

「まだ、戻って来ていないようだな」

 そう言うと、連は足早に小屋を目指す。すぐに後について行く。小屋のすぐ傍まで来ると、連は周囲を見渡して小屋から見えない場所を確認すると、移動して立ち止まった。

「さて、どうするか」

 小さく呟いて、連は腕を組んだ。

「戻ってきたとこで、奇襲かけるか」

 連の右側を陣取って、育也が小声で言う。

「周りが開けているので、奇襲をかけるにはよく作戦を練った方が良いでしょうね」

 三人の後ろで、弥素次が言葉を返した。小屋の周りは、外敵が来た時にすぐに対処できるよう、木々を倒して面積を確保している。木々の間から出たとしても、すぐに見つかるだろう。

「そのまま突っ込んだ方が、手っ取り早そうだけど」

 何も考えていないらしい育也の言葉で、連が溜息を吐いた。

「誰が先陣を切るんだ?」

 連の問いに、育也がにっこりと笑みを浮かべながら連を指差した。

「俺は弥素次の護衛。弥素次は婆に協力してんだろ。だったら、国王唆して、盗賊退治を依頼させた張本人が行くのが筋じゃん」

 確かに筋だけは通っているが、それを簡単に言ってのける育也に呆れてしまう。もう少し考えてから、言葉を口にして欲しいものだ。

「お前、その依頼を誰の為に、したと思っているんだ?」

 連に睨まれたが、育也は平然とした顔でさあっと惚けてみせる。

「目的は盗賊退治ですが、大男が倒れてしまえば、後は烏合の衆ではないのでしょうか」

 どうせ奇襲をかけるなら、手早く終わらせてしまいたい。盗賊と遭遇した時、大男は一番後列の中心にいた。妖霊山の主のように見せていたくらいだ、盗賊の頭は大男と見るべきだろう。

「戦意喪失でも狙う気か?」

 連の言葉に、頷いて見せる。

「恐らく、盗賊達を動かしているのは大男です。ならば、動かす者を倒してしまえば、動かされる者達は命令されないですから、統率は必然的に乱れるでしょう。そうすれば、必要以上にこちらも動かずに済みます」

 弥素次の言葉に、連はくすりと笑った。

「では、育也の言ったように奇襲をかけるとしよう。但し、大男を見つけた時点で、弥素次は狙いを大男に定めろ。他の者は私と育也で相手をする。それから、惣一はここにいろ。ここなら、盗賊達には見えない筈だ」

「俺一人で?」

 一層不安そうな表情を見せると、連はくすりと笑った。

「陽影≪ひえい≫を置いていく。姿を見せてやれ」

 ふわりと幾つかの黄色く淡い光が、連の肩の上で舞ったかと思うと一つの光になり、中から鳥の羽根のような翼が広げられる。次いで柔らかそうな黄色い毛に覆われた尾が出、光を振り払うように体全体を振る。出てきたのは黄色い毛に全身を覆われた、猫くらいの大きさの見たこともない生き物。深い緑の目が印象的で、鼻先に向けて尖っている口を持っている。後ろ足で連の肩にとまっており、空いている前足は小さいながら鋭い爪が見えた。

「小闘竜≪しょうとうりゅう≫、霊獣だ」

 聞いたことはあったが、神話の生き物を実際に見るとは思わなかった。盗賊退治に来たことも忘れ、観察するように見入ってしまう。育也が陽影の両脇に手を伸ばすと、抱き上げてじっと見詰めている。

「ふかふかして、縫い包みみたい」

 抱き上げられても嫌がる様子すら見せない陽影を引き寄せて、育也が頬ずりしてしまう。陽影も答えるように、頬ずりし返している。

「お、大人しいんだな」

 恐々と陽影を見ていた惣一だが、大丈夫だと思ったらしく軽く息を吐いた。

「霊獣は、言葉が理解できる。個々に違う能力を持っているから、人やある程度能力のある妖相手なら、十分守ってくれる。育也、そろそろ行くぞ」

 連の言葉に、育也が陽影を惣一に預ける。預けられた惣一は、陽影を抱えたままこちらを見た。

「三人共、気をつけて」

 惣一の言葉を聞いて連が軽く頷くと、先陣を切って小屋へ歩き出し、育也は笑顔を見せて連に続いて歩き出す。行ってきますと声をかけると、弥素次は二人の後を追って歩き出した。

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