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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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四人四様

 翌日、まだ夜も明けぬ時刻。亜己に見送られ、弥素次達は店を後にした。賢治は夢の中だった為、亜己に任せている。夜も明けぬだけあって、殆んどの者が眠っている町の雰囲気は、今から盗賊退治に行くことすら気に留めていないようで、出口で見張りをしている衛兵達も、外へ出て行く一行を引き止めようともしない。

 一日目は、篠木の町と盗賊の根城の中間にある、寝泊まり出来る場所まで移動する予定だ。まだ、夜が明けていない為、表情こそ見えないものの、前を並んで歩いている惣一と連は、二人の心情を表すように惣一は何処か不安げに歩き、連は明らかに楽しそうに歩いている。何処をどうすれば盗賊退治に行くのに楽しそうにする者がいるのだろうと、弥素次は内心呆れつつも二人の後に付いて行く。隣にいる育也は久し振りに森に入るせいか、懐かしそうにしながら、女らしい素振りを時折見せている。意地を張り、いくら男のように振舞っていても、やはり女であると認識させられる。任務とはいえ、女である育也に護衛されるのは、弥素次でもどうかと思うのだが、育也が護衛隊副隊長という立場上、立てておくべきだろう。

「なあ、一つ聞いてもいいか?」

 前の二人に聞こえない程度の声で聞いた育也の視線が、好奇心を前面に押し出して弥素次を見上げている。

「どうぞ」

 何を聞きたいのか分からないが、聞かれて困ることはない。

「あのさ、ちょっと前に聞いたんだけど、檜の妖利山≪ようりざん≫の主の曾孫って本当なのか?」

 本当に、好奇心だけで聞いていると思う。今は全く関係ないことだが、どうしても聞きたかったのだろう。育也の視線が、弥素次の答えを待っている。

「本当ですよ、祖母様は主の娘ですから。でも、誰に聞いたのです?」

 今度は弥素次が聞き返すと、育也は返事をする代わりに連を指した。

「覚えているのか、忘れているのか、さっぱり分からない人ですね」

 子供の頃に会っていることは忘れていたが、どうでも良いことは覚えているらしい。連に振り回されているような気さえしてしまいそうで、頭が痛いと思う。

「いい加減なんだよ、妖婆は。千年単位で生きてるから、何でも適当になってる」

 笑って見せた育也の言葉に、思わず納得してしまう。連が山の主だと知らない時、妖としての能力が高く、掴み処がない連に対して警戒していたこともあった。

「適当になってしまうから、掴み処がなく見えてしまう」

 笑いながら頷いた育也の視線が、再び好奇心を前面に押し出した。

「妖の能力とか、あったりする?」

「さあ、どうでしょう。父と叔父上には多少あったようですが、人の血が濃い私には、無いのかもしれませんね」

 弥素次よりも妖の血が濃かった筈の前国王は、多少の能力を持っていていたが、人と同じように死んでしまったのだ。前国王よりも更に薄い血の弥素次に、妖の能力があるのかといえば、皆無に等しいだろう。

「そっか。でも、誰かに会う度に、俺と同じこと言われるの嫌じゃない?」

 聞いてはいけなかったかもしれないと思ったのか、育也が申し訳なさそうな表情を見せた。気を遣っているようだが、何処か女らしい仕草が見受けられる。

「面と向かって聞くのは、親しい者だけですよ。それに、嫌味のように聞く者にはこう言って差し上げるのです。羨ましいでしょう、と。でも、本当は曾孫だというだけで、何もないのですよ」

 弥素次にとって、曾祖父が誰であろうと別段何もない。妖利山の主が曾祖父だからといって、得をしたことはない。

「だろーな。じゃなかったら、今頃盗賊退治になんか行ってないって」

 育也の言葉通りだ。妖利山の主が手を出していれば、弥素次は三年も逃亡する羽目にはならなかった筈で、同時に王族のことに何も関与しないと明確に表していた。

 一刻程で森へ着くと、休憩もせずに中へ入って行く。更に一刻程歩くと、惣一と出会った場所まで辿り着く。此処で惣一に会わなければ、今頃何処で何をしていただろうかと思いながら通過し、昼近くには道から獣道に入る分岐点に差し掛かった。

「この辺は森の中でも周囲が見渡せるから、何か来た時はすぐに分かる。だから、何時も此処で昼飯を食うんだ」

 惣一が、木々から離れた場所にある岩に腰を下ろした。木々の葉が日を隠しているおかげで、岩の回りは涼しげに感じる。連が背負っていた白護を降ろすと惣一の隣を陣取り、周囲を見渡す。二人と向かい合わせに、地面に腰を下ろすと、惣一が亜己の作ってくれた握り飯を手渡してくれる。早速頬張ると、ふわりとした米の甘い味が口の中に広がっていく。美味しいと思いながら、また一口頬張る。逃亡している筈の自分が、森の中で長閑に昼食を摂れるとは、弥素次自身思いもしなかった。惣一達に感謝しつつ、何の気なく連を見た。何時もと変わらぬように見えるが、連の視線は時折、鋭く周囲に向けられているように思える。弥素次の隣で、同じく握り飯を頬張っている育也も、周囲に向けられる視線が鋭い。弥素次もゆっくりと、周囲に視線を廻らせた。何かいるような気配が感じ取れる。もう一度、連を見る。

「盗賊かと思ったんだが、別の客らしい」

 苦笑いを浮かべた連の視線がこちらに向けられた。追手かと思う。連がいることで、追手も焦りだしたのか。しかし、追手とは違う気もする。食べ終えると、外套の中に腕を隠し、腰に差していた玄封の柄をしっかりと握る。

「追手は、一昨日半分を動けなくしてやったんだ。援軍が来るまでは襲い掛かってこない」

「援軍は来なくとも、盗賊に紛れて襲うってのはあるかもしれないけど」

 同じく外套に腕を隠して、育也は周囲の気配を探っている。

「確かに」

 連が頷いてみせると、育也が楽しそうに笑った。

「追手だったら、暫く大人しくしてもらう」

 少々手荒い気もするが、暫く大人しくしてもらうには丁度良いかもしれない。玄封を鞘ごと抜く。

「血の気が多いな、お前は。ま、気持ちは分からんでもないが」

 呆れているのかと思ったが、そうではないらしい。育也に言葉を返してから横に置いておいた白護を持つと、連が立ち上がる。

「おいおい、大丈夫か」

 守る術のない惣一だけが、不安そうに呟くと、連は惣一をちらりと見た。

「お前は動くな。動くと返って危険になるぞ」

 育也が何も言わずに惣一の背後に回り、外套を取る。腕の長さくらいの棒を両手に握っている。

「育也は二刀遣いなのですか?」

 弥素次と歳の近い者が二刀遣いだというのは、珍しいことだ。外套を脱ぎながら聞くと、育也が意味ありげに笑った。

「ま、見てろよ」

 連はその場から動かず、白護も構えないまま立っている。

「出て来いっ!」

 腹に力を入れて、育也が叫んだ。一瞬で凍りつくような雰囲気に包まれる。

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