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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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自由奔放

「お前、何処をどうすれば、護衛隊の副隊長になれるんだ?」

 町長の顔が、今度は不思議そうな表情へ変わった。弥素次が思っている疑問を、町長は素直に育也に聞いている。

「柳秦まで飲まず食わずで行って、王宮の入口で入隊させるまで絶対動かないって座り込んだ」

「その程度で入隊出来るのでしたら、誰でもなっていますよ」

 冗談のように言った育也に、思わず弥素次は言い返してしまった。ちらりと育也がこちらを振り返る。

「座り込んだのは、本当だ。但し、丸一日座り込んでたら、いつの間にか意識なくなってて、気が付いたら仮眠室に寝かされてた。で、帰れって言われたけど、帰るくらいなら死んだ方がましだって思いきり騒いで、出された食事も食べなかったら、最後に隊長が来て。それで入隊させてもらった」

 益々頭が痛いと思う。要するに護衛隊の隊長が、育也に根負けしてしまったのだ。根性を持っているなら、どうして他のことに発揮できなかったのか。他のことに発揮していれば篠木にずっといられたのではないのかと思うのだが、本人は分かっていないようで、更に続けて話しだしている。

「入隊させてもらったけど、使い走りは嫌だったからさ、学業も武術も死ぬ気で覚えた。ついでに言うと、学業は隊長直伝、武術は妖霊山の主直伝」

 連が育也を呼んだ理由は、連自身が育也に武術を教え込んだ処にあるのかと、漸く納得いく答えが出て来た。直に教えた者なら、まず信用出来る。信用出来るからこそ、呼ぶ気になったのだ。だが、やはり育也は頭痛の種だと思う。この無謀とも言うべき副隊長は、弥素次が予想するより遥か上の行動をしてくれるような気がしてならない。この人の親は、どんな育て方をしたのか疑問に思えた。

「参ったな、お前がここまでやるとは思ってもみなかったよ」

 特大の溜息と共に呟かれた町長の言葉は、最初に言った言葉の時のような雰囲気が消えていた。

 満面の笑みのまま、育也は被害届を町長に差し出した。被害届を渡してどうする気だろう。中を見ずに返すつもりではないと思うが、行動に疑問を感じる。

「これ、詰所から拝借した盗賊の件に関する被害届なんだけど、被害届が出てない人の中で、行方の分からない者がいないか調べてほしいんだ。盗賊が出没し出してからの期間が、そんなに長くないから多くはないと思うけど」

 何故か、上目遣いで町長を見ている。女性が、男性に対して何か頼む時のような仕草だ。

「育也、意味が良く分からないのですが、どうして被害届が出ていない行方不明者を調べるのですか?」

 今一、理解し辛い。

「簡単だよ。盗賊が出没し出してからの期間がそんなにないのに、あれだけ多く出没してるし、道から外れた場所でも出没してただろう。あれってさ、獣道に沿ってると思ったんだ。獣道も知ってるってことは、盗賊の中に、この辺りの地理に詳しい奴がいるとみたからだ。そう考えると、被害届が出ていない奴の方が、盗賊の中にいる確率は高くなってくる」

「でも、それで分かったとしても、盗賊に辿り着けませんよ」

「絞り込んだ奴の行動範囲を調べて、盗賊の出没した場所と比較する」

 育也の言うことは尤ものように思えるが、何処か抜けているとも思う。

「絞り込んだ者達の、行動範囲が同じだったらどうするんです?」

「後は直感で」

 どうしてそこで直感が出てくるのか、不思議になる。別の角度からも見てみる必要があると、気付かないのだろうか。

「もう一つ、もし誰が盗賊の中にいるか分かっても、行方が分からなければ捕まえることも出来ませんよ」

「あ、やっぱり」

 分かっていて言ったのか。別の角度から見るくらいのことは、普通にしてほしいものだ。口を挟まずに聞いていた町長まで、苦笑いを浮かべているではないか。

「仕方のない人ですね。惣一さんを盗賊から助けた時に、一人だけ盗賊になって間もない者がいると感じておりましたので、育也が言うようにこの辺りに詳しい者はいると思います。ただ、先程も言ったように、いたとしても行方が分からなければ同じですから、少し視点を変えてみましょう」

 じっと育也が、見詰めている。次の言葉を待っていると思うと、言葉を続けた。

「被害届を出している人で、森に詳しい方を探しましょう。森に詳しい方なら獣道が何処を通っているかも、雨風を凌げそうな場所も知っていると思うのです」

「そっか、それなら行方不明の奴探すよりも楽だよな」

 別段、楽をする為に言った訳ではないのだが、どうも育也は楽だと思っているようだ。

「まあ、確かに楽でしょうね。でも、被害届の中を見ずに渡してしまうと、誰を探して良いか分からなくなりますよ」

 そうだったと呟いた育也に、町長は意味ありげに笑った。

「それなら、育也の父親が一番詳しいよ」

 町長の言葉に、育也の顔が嫌そうな表情をしている。

「そうなのですか?」

 聞き返すと、意味ありげな笑みのまま町長が頷いた。

「育也の父親なら、東中一通りの横通りと南横一通りの間で商売しているよ」

 育也の父親は、商売人だったのかと思いながら育也を見ると、相変わらず嫌そうにしている。育也はともかくとして、気のせいか町長が教えた通りはどこかで聞いたような気がする。

「育也、行きましょう」

「行かない。絶対行かない。何が何でも行かない。命令したって絶対行かないからな」

 自分の親に会うのに何を嫌がっているのか、まるで我儘を言って親を困らせている子供と同じだ。

「育也、子供ではないのですから」

「いーやーだ!」

 子供染みた育也の態度に呆れて、小さく溜息を吐いた。本当に、柳の護衛隊隊長殿は、どうして育也を副隊長に任命してしまったのか、疑問に思ってしまう。連れて行かなくては何も進まないだろう。幸い育也は自分よりも背も低いし、体も細く見える。抱え上げて行っても、育也の実家までは大丈夫だろう。仕方がないと思いながら、口を尖らせていた育也の腰に左腕を回す。驚いた顔をした育也を、有無も言わさず抱え上げる。

「では、失礼します」

「こら、下ろせ! 俺は行きたくねえんだ、勝手に抱き上げてんじゃねえ!」

 耳元で騒がれているせいで耳が痛い。連が耳栓がいると言いながら出て言っていたのを思い出す。これだけ騒ぐのだ、自分も耳栓がほしいと思いつつも、弥素次は役場を後にした。

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